うつろいでいくな
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:長谷川 大祐(ライティング・ゼミ超通信コース)
「生命保険どうする? 入っとく?」
「あーそうだな、入っとくか」
夜の23時。
その場にいる男達は手元にあった、いとも容易く破れそうな紙切れを交換する。
そのやりとりを不思議そうに猫は見つめる。
「それじゃ、次、おまえの番な」
「おっけー」
私は、ボードに備え付けられたルーレットを回す。
カラカラカラッと音を立て、やがて止まる。
ルーレットが指した数字は9。
「美術館で一目惚れ! 有名な絵画を買う。20万だって! 借金お疲れ様です」
「ふざけるな」
ある一軒家で、男達の笑い声が響く。
その日、私は仕事を早めに切り上げ、渋谷へ向かう。
目的は、友人の朝倉が働いているアパレルショップへ行くことだ。
朝倉が、そのアパレルショップで働き始めてもうすぐ2年ほどになる。
朗らかな店長とゆったりとした佇まいのお店なので、誰もが出入りするというより、
常連さんがふらっと寄って店長と会話を楽しみ、ついでに服を買っていく。
そんな居心地の良い場所である。
朝倉が働き始めた頃、私も何度か顔を出し、
その居心地の良さから、今では準常連の位置にいるらしい。
店内へ入り、突き当たりのカウンターで作業している店長へ挨拶をする。
「長谷川君? 久しぶりだねー! ゆっくりしていって!」
「お久しぶりです! 朝倉くんいます?」
「いるよ! ちょっと待っててね」
店長はカウンター奥の小部屋に頭を突き出す形で、
休憩中であろう朝倉へ声をかける。
小部屋から服装と雰囲気以外慣れ親しんだ高校時代からの友人の姿が出てくる。
「お! 大祐! お疲れ!」
朝倉は、常連や私の服装の好みを熟知しているので、
会計時にこちらの予算を遥かに越えてくるのも日常茶飯事だった。
だが、お金を使いすぎた罪悪感は欠片も無く、寧ろ満足感に包まれるので不思議だ。
「朝倉仕事終わり何時? また、日向誘って飯でも行く?」
「いいよ! もうすぐ終わると思うから、どこかで待ってて」
電話一本で大抵来てくれる日向と合流し、
喫茶店にて、最近買った服の話などで時間をつぶす。
日向と朝倉は高校時代の部活で出会った友人で、
今でもお互い近い所に住んでいる。
あともう一人、佐藤もいるが、彼は勤務地が少し離れている為、
今日のように気軽に会うことは少し難しい。
同じ高校時代を過ごして今に至ることから、
私が仕事でも恋愛でも何でも、彼らに話せないことは何もないのではないか?
そう思ったことはあるし、おそらくそうなのだろう。
私と朝倉と日向の3人が合流し、近場でラーメンを食べた後の帰り道、
思い出したように朝倉が私たちに声をかける。
「そうだ、俺ん家の猫と遊んで行く? この後、雨降るみたいだし」
「喜んで!」
朝倉家へ到着し、猫とひとしきり戯れた後、
家主が人生ゲームを片手にニヤッとした顔で私たちに寄ってくる。
「やるでしょ?」
かくして、20代半ば独身男性による人生ゲームが始まった。
優勝は、庭で隕石を見つけた朝倉の圧勝だった。
残ったチューハイ缶を飲みながら、
とりとめのない話や各々の現状を共有していく。
○○は結婚したらしいよ、子供もいるらしい。
俺らもそんな歳か。
そういえば、転職するの?
え、結婚するって言ってなかった?
大抵は家と会社、
更にテレワークで家から出ない日もある自分にとっては、
第二の実家に帰ったような気分。
朝倉達と別れ、雨上がりの道を1人で帰る。
ふと、十字路の角に違和感を覚える。
見覚えのない綺麗なマンションを見て気づく。
あ、ここのパン屋潰れたのか……。
特別思い入れのあるパン屋ではなかったが、
比較的見慣れた帰り道の景色が変わっている事に、胸をぞわりとさせた。
自分が過ごしてきた高校時代や大学時代で出会った人達。
クラスが一緒で、一時期毎日のようにカラオケに行った人。
サークルで出会い、たまに朝まで共にお酒を飲んだ人。
長期インターンで出会い、将来の仕事に向けて共に学んできた人。
今では、年に数回、ひょっとしたら連絡を一切取らない人もいる。
だが、少なくとも当時は「今後も付き合っていく」そんな気持ちで会っていた。
「自分が成長していくに連れて、付き合う人が変わる」
なんて話を聞いたことがある。
成長に喜ぶ自分と素直に喜べない自分。
「ふーん、そう、当然じゃない?」と流す自分。
見慣れた景色が変わっていることに気づいて、ぞわりとした理由。
「今後も付き合っていくだろうと思っていた
朝倉と日向、佐藤もいつしか連絡を取らなくなるのだろうか?」
「付き合う人が変わるとしたら、どんな人と会うのだろうか?」
様々な疑問が浮かんでは消え、浮かんでは消える。
そのような思考の傍らで、決心のような気持ちも芽生える。
「景色がどんなに変わったとしても、相も変わらず彼らと過ごしたい」
反対車線から走ってくるのは、タクシーだろうか。
ヘッドライトが雨に濡れたアスファルトを照らしているせいか、
いつもより余計に眩しい。
今のままでいいのに。
あー嫌だな。
***
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