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ダメ男ホイホイは一生治らない

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:こまる(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
ピコン。Tからの通知。
 
「今から空いてる?」
 
午後11時、大阪行きの終電まであと、30分。
 
即「空いてるよ!」と返信し、せっかく化粧水と乳液までつけたその肌に、もう一度ファンデーションを塗りなおした。よれよれのトレーナーと上下の揃っていない下着を脱ぎ捨て、純白のブラジャーを手に取る。自分の心の色と正反対の色を身に付けて、相手だけでなく自分自身を騙す。
 
「今から友達の家、泊まってくるね」
他の女の家にいる彼氏に連絡をして、走って電車に乗り込む。大阪まであと40分。
私が彼氏以外の男の人とキスをするまであと40分。
 
いつからこうなってしまったんだろう。
 
彼氏は、同じサークルで出会った二個上の先輩だった。初めての大学、初めての一人暮らし、初めてのサークルで不安だらけの私にやさしく声をかけてくれた彼に、私はいつの間にか虜になっていた。
 
彼氏には、私以外に身体を重ねる相手が少なくとも3人いた。
毎日のように私に隠れて電話をしていた、隣の大学のHちゃん。
私たちと同じサークルで、私が最も心を許していた2個上のM先輩。
彼と5年付き合っていたセックス依存症の元彼女。
 
ばれていないつもりだったんだろう。付き合って1年半ほど経った時、「先輩と夜景を撮影してくる」と言って次の日の朝まで帰ってこなかった彼氏のスマホを、シャワー中にこっそり覗いた時が地獄の始まりだった。血の気が全部引くような、浮気をされたことのある人にしかわからないだろうあの独特の感覚を、初めて味わったのだった。
 
処女の私を半年待って優しく抱いてくれた彼は、その半年の間に何人を抱いたんだろう?
「私だけ」にくれたものは、全部嘘だったんだろうか?
 
あまりに苦しく、あまりに残酷な仕打ちだった。私は彼のことが本当に大好きだったのに。憎しみと、怒りと、悲しみと、いろんな感情が混ざり合ってどんどん視界を黒くした。
 
それでも、好きという気持ちに優るものはないと思っていた。問い詰めることも別れることもできず、ひたすら枕を濡らしては彼のスマホを盗み見て、自分が大切にされていない事を毎度認識するのであった。
 
深く落ち込んだ私の話を聞いてくれたのが、大阪に私を呼び出したTくんだった。Tくんは女遊びが激しいことで有名だった。私の友達も彼と関係を持っていたけれど、それでもよかった。目を見て、好きだよ、特別だよと言ってくれるだけで、大切にしてもらっている気がしていた。彼氏に嘘をついてTくんと会えば会うほど、痛みが和らぐような気がしていた。Tくんとのセックスは別に気持ちよくはなかったが、目を見つめてくれるだけで幾分か彼氏よりも満たされるものだった。
 
私は他にも、ひたすら自分を満たしてくれる人を探した。みんなご飯をおごってくれるし、一緒に寝てくれるし、キスもしてくれるし、頭も撫でてくれるけど、誰も私を一番にしてはくれなかった。誰が私を幸せにしてくれるんだろう。そんなことばかり考えていたけれど、誰も幸せになんかしてくれなかった。私は一生、ダメ男ホイホイなのだと悟った。
 
ある日、私の素行に気づいた彼氏に、リビングで正座をさせられた。
「Tって、誰だよ」
「私があなたとつきあうために必要な人だよ」と、言ってやりたかったけど、言えなかった。
 
「この、クソ女」
最後にそう言われて、あの日から耐え続けた3年が終わった。
 
腐ったミカンが周りを腐らせるように、ダメ男は3年かけて一人のクソ女を作り上げた挙句、捨てたのだった。私はただ、幸せを探していただけなのに、いつの間にか腐りきっていた。
道に放り投げられた腐った私を、誰が拾ってくれるのだろうか。
ただただ、坂道を転がり落ちて、道の側溝に落ちて、鼠にすら食べてもらえない私を。
 
ころころ、ころころ。どすん。
真っ暗な側溝の中で私はうずくまった。
 
Tくんは相変わらず私を終電30分前に呼び出したが、会ってしまうともう終わりだと思った。これ以上腐ってしまうと消えてしまいそうだった。私は自分の布団に潜り込んで何日も何日も一人で過ごした。暗闇にうずくまりながら、一度腐ってしまったものは、二度と新鮮なミカンに戻らないことを嘆いていた。
 
もうだめだ、と思ったとき、一筋の光が見えた。
 
「どうしたの、ひさしぶりじゃん」
 
側溝の中でうずくまっていた、腐ったこの私を拾い上げたのは、私がまだ新鮮だったころを知っているひとだった。私の大事な初恋の人だった。たまたま街で再会し、顔を上げるとそこにはカビの一つすらついていないあの頃のままの彼がいた。
 
まぶしかった。何故私はああなれなかったんだろう。
彼みたいな人に出会えていたら、今でも新鮮なまま、幸せに生きていられたはずなのに。
まぶしくて俯いていたら、彼は私をひょいと拾い上げた。彼氏も、Tくんも、誰も拾い上げてくれなかった私を、いとも簡単に。
 
「つらかったね」
「もうやめたんならだれも責めないよ」
「恋愛とかセックスとか抜きにして友達じゃん、俺ら」
 
私のくだらない話を、下心なしに聞いて私を励まし続けてくれた彼のおかげで、少しずつ私はカビだらけの身体を磨かれていった。まだ、腐り切ってはいなかった。人間、ダメになってしまう事なんてないのだ。やさしさは誇りもカビも汚れもすべてを少しずつ取り払ってくれる魔法だった。
 
私は、いつの間にか彼のことを好きになっていた。
これまで出会ってきたダメ男たちの連絡先を全部消して、午後11時には必ず夢の中にいた。ダメ男たちと過ごしていた時間を、他のことに使えるようになった。
最初は彼に好きになってほしくて自分磨きをしていたが、いつの間にかどんどん自分に自信がついていった。自分を磨くために時間を使うことが楽しかった。ダメ男たちに溺れていた自分が馬鹿みたいに思えて、自分のことを大事に思えるようになったのだ。
 
初恋の人とだけは月に一回ほど会うようになり、他の男に溺れることも、時間を無駄に過ごすこともやめた私は、久々にまっすぐ恋をしていた。この人となら、きっと幸せになれるだろう。確信があった。あと少し自分磨きをがんばったら、告白しようとも思っていた。
 
ある日、彼が「嫌なことがあった」というのでいつも通り二人で飲んで話を聞いた。彼はやけ酒とばかりにお酒を飲み続け、酩酊し、こう言った。
 
「でさあ、いつやらせてくれんの? 俺、こんだけ話聞いてやってんじゃん。今日くらい慰めてよ」
 
初恋の人は、下心を隠すのがうまいだけのダメ男だったのだ。
まさか、自分でも初恋からダメ男ホイホイの素質があったとは思わなかった。
 
ダメ男ホイホイは、やっぱり一生治らないのだ。
 
でも、ダメ男ホイホイは治らなくても、弱い自分は変えられる。自分を大事にできるようになれば、ダメ男が近づいても、離れていく事が出来る。自分は変わった。
 
「馬鹿じゃないの。帰るわ」
自分を変えてくれるチャンスをくれてありがとう。
そう思いながら、帰りの電車で連絡先を即ブロックし、まっすぐ帰宅した。
 
サヨナラ、弱い自分。サヨナラ、ダメ男ども。
 
 
 
 
***
 
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2021-04-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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