痛みより勝るもの
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:福井尊之(ライティング・ゼミ超通信コース)
空間に響き渡る金属音。その空間には私以外にも5~6人の気配を感じる。しかし、会話は聞こえてこない。身動きが取れないうつぶせの状態。また、金属が響き渡る。自分の想像できないことが進んでいることは確かである。妙に手のひらに力が入り、なぜか意味不明に握り拳を作っている。
初めての手術で、色々検索して見たが、恐ろしさが増してしまった。検索したことを公開している。
実は、私は生涯手術を2回受けている。通称「下半身麻酔」 正式名称は「脊椎くも膜下麻酔」手術室に入り、背中を丸めて、背骨の所に注射をするのだ。もう書いているだけでも当時の怖さが伝わって来る。
麻酔の確認は、何か冷たい物を太ももに当てられて、「冷たいか冷たくないか」を看護師さんに伝える。冷たさが感じなくなったことを看護師さんに伝え術式が始まった。
先生が「音楽の準備を」 と仰り手術室中にクラシック音楽が響き渡る。心の中で、「医療ドラマと一緒だ!」 と感動してしまった。そうこうしている内に、手術が始まった。
ここまで、すごく冷静な文章を書いているが内心は「もうすげー怖くて大変だった」と言うのが感想である。
なぜなら、下半身麻酔なので、意識が最初から最後まであるのだ。自分が処置をされている部分こそ見れないが(見れなくて正解だったと思う) その処置に使われている器具の金属音のみが響き渡る世界である。
歯科の処置ですら怖いのに、それを上回る怖さである。看護師さんが時折、「大丈夫ですか?何かあったら遠慮なく言ってください」とねぎらいの言葉をかけくださる。
内心「痛みはないのだけれど、結構精神的にきついです」 と言いたい所であったが、室内にいる人の目線が、こちらに向くことが必須でそちらの方が痛いので言葉をグッと飲み込んだ。
そして、完全な作り笑顔で「大丈夫です」と切り返す。時間の感覚など、まったくわからなかったので数時間にも感じた。しかし、恐らく、1時間程度だった気がする。術式が終わり、そのまま病室へ。麻酔が効いているので、ストレッチャーから自分のベットへの移動はできないので、看護師さん達に移動させてもらった。感謝の気持ちで一杯になった。緊張感がほぐれた様なのでいつの間にか眠っていたらしい。
ふと目が覚めると夕方になっていた。まだ麻酔が効いている様で、感覚はないのだが、足を少しだけ上げることができた。ここで無理をしても仕方ないので、ゆっくり休む子ことにした。そんな時、看護師さんが偶然通り掛かり、目覚めた私に気が付いて、「痛みがあったらナースコールのボタン押してください」と言ってくださり、病室を後にした。
数時間後の夜中の1時頃。目覚めると、麻酔が切れて来たせいか、痛みがやってきた。まだまだ、耐えられる痛みだったので、我慢ができた。
けれど、その痛みであるが、時間を追うごとに増してくるのである。心臓の鼓動と一緒に痛みもリズミカルに追いついてくる。一鼓動前の痛みよりも、今の鼓動の痛みの方がずっと痛いのだ。
なぜか、こんな時ふと思った。ナースコールを押すべきだろうか?私の中でナースコールを押すということは、私の人生の生き死にを左右する位までの危機的状況だと思っていたのだ。
けれど、本当に痛いのだ、「ズキズキ」 ではなくおそらく「ドスンドスン」 の様なイメージがしっくりくる。
恥を忍んで、勇気を出して、ナースコールを押す。すぐに看護師さんが出てくれた。「どうしました?」と声が掛かる。理由を話すと、直ぐに病室に来てくれた。痛み止めの注射を打ってもらったのだが、注射の針の痛さよりもまだ痛いのだ。
「ドスンドスン」と何か体のなかで別の生き物が動いている感覚だった。
もうここまで来たら抵抗をやめて、体の自由を痛みに任せた。
気が付くと朝だった。昨日の痛みとはうって変わり、結構痛いが「ズキズキ」 の方だった。全然平穏無事である。さすが、痛み止め。感謝である。数日入院した後の退院の日。傷口が少し痛むが何とか退院できた。お会計を済ませようと看護師さん達にお礼を言ってナースステーションを後にする。
そして、会計の窓口で金額が提示された。あまり、現金が持ち歩かないのでクレジットカード払いにしようとしたその時だった。なんと、現金のみの取り扱いだった。
実は私が手術した病名は「痔」である。そうなのだ。歩くと傷がいたいのだ。病院の近くに銀行があるのは知っている。存じ上げている。しかしである。この痛み50mが500mになる位の錯覚を起こしてくれる。
最後の力を振り絞り、なるべく悟られない様にゆっくり歩き銀行まで到着した。冷や汗交じりのあぶら汗。何とか現金を引き出した。ここまで来たら、ついでに食べたかったパンも買おう。とすっかり、痛みより食欲が勝っていた。恐るべし食欲。やっぱり、最後は食欲なのだ。痛みを忘れてさらに50m先のパン屋さんへ向かう。その足取りは先ほどの200倍軽かった。そして、私の手の中のトングは大好きなカレーパンを探していた。
***
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