私が流産の経験から得たこと
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記事：岡田ゆか子（ライティング・ゼミ 日曜コース）
結婚したら、子供を一人は産みたいな、そう思っていた。
結婚式や新婚旅行を終えてひと段落した私は、ようやく妊活ができることを嬉しく思っていた。
35歳を超えると妊娠率が低下していくことは知っていた。私はまだ33歳だし、時間は十分にあるし、私は大丈夫だ。
数か月後その時はやってきた。生理が一週間遅れている。これは妊娠したのかも！ と薬局で購入した妊娠検査薬を片手にトイレに駆け込んだ。結果は陽性。妊娠検査薬を握りしめながら、これで母親になれるのだという高揚感に浸っていた。妊娠って簡単にできるんだ、と思った。
だが、この数日後、お腹が痛くなり出血。タクシーで一人病院へ向かった。
当時私は夫の転勤で中国に住んでおり、日本語が話せる中国人の産婦人科医に診てもらった。医師からは流産と４センチほどの子宮筋腫があることを告げられた。既に子宮には何もなく搔爬手術は必要がなかったが、子宮筋腫は手術を薦められた。子宮筋腫を手術すると子宮に傷がつき修復するために半年程度は妊娠できないこと、出産時には帝王切開になると説明を受けた。
お腹を切るなんて怖くて出来ない。なんとか避ける方法がないのかを知りたくて日本に帰国して詳しい検査をすることにした。
日本での検査結果は「小さいので経過観察で良い」とのことだった。どうやら中国と日本では手術対象の大きさが違うらしく、中国では3センチ以上、日本では6-7センチであれば手術を検討するようだった。お腹を切らなくて良いし、すぐ妊活を再開できるのだと安心して中国に戻った。
それから数カ月後にまた妊娠をしたが、前回と同じようにお腹が痛くなり出血し流産をした。中国人医師からは「なぜ子宮筋腫の手術をしなかったのか」とあきれたように言われた。1回目の流産は仕方なかったと思えたが、2回目は偶然だとは思えなかった。
2回連続で流産する確率は2-5％。その数パーセントに私は入ってしまった。2回流産したのなら、3回目もダメなのかもしれない。出産したいという気持ちとまた流産したら怖いという気持ちが交差する。
でも前に進むには流産する原因を知ることだと思い、帰国して不育症専門病院を受診した。結果は血が少し固まりやすいようたが、これといった原因があるわけではなかった。原因が分かれば次に臨めるのに、これでは何をしたら良いのか分からない。
結局、自分が考えつくものは全てやることにした。動くのは嫌いだったが運動はしたし、食べるものにも気を付けた。念のため血液がサラサラになる薬も処方してもらって飲んだ。もうあんな思いはしたくない、妊娠するために準備を万全にしないといけないと思ったが、必死になりすぎるとそれもまたストレスになるので、精神的にゆったり過ごすように心がけた。
半年が過ぎて体調もメンタルも落ち着いた頃、妊娠した。病院では「なぜ子宮筋腫を手術しなかったのか」とまた怒られたが、無事に育ってくれたようだった。
不安そうな私に先生が「今回は大丈夫、順調に育っているし、今元気に踊っているよ」とエコー見せてくれて少し安心できた。
安定期を過ぎても、出産直前までもどうか無事産めますようにと毎日祈りながら過ごしていた。逆子で帝王切開になったが、手術中に「元気な赤ちゃんですよ」と医師に言われた時には涙が自然とあふれ出て声を上げて泣いていた。自分でもびっくりした。それだけの不安と喜びがあったのだと思う。
初めて妊娠した時には、妊娠、出産は簡単にできるもので当たり前のことだと思っていた。夫も私と同様に思っていたようだ。出産してから、同じ年齢の子供を持つお母さん達と話してみると流産経験している人が意外に多いことが分かった。私だけだと思い込んでいたが、そうではなかった。
流産を経験したことは本当に悲しかった。私の身体がもっと健康だったら生まれてくることができる命だったのではないかと思って自分を責めていた。
落ち込んでいるときによく言われた言葉がある。子供は産まれてくる前にお父さんとお母さんを空で決めている。流産や死産を選んだ子はお母さんを苦しませようと思ったのではない。その子自身が空に帰ることを決めたのだと。
子供には胎内記憶があると聞き、息子に聞いてみたが分からないという答えだったので、真実は定かではないがその言葉に随分と救われた。
今となっては流産という経験は私には必要だったのではないかと思っている。妊娠、出産は長い旅であり奇跡の連続なのだと思うようになった。妊娠する確率は２～３割、出産できる確率は８割で年齢とともに確率が低下していく。出産に至るとしても母体自体もダメージがゼロではない。そして私の受精卵が違えば今いる息子には会えなかったのかもしれない。そう考えると命を紡ぐという言葉に重みを感じるし、この世に生まれているすべての人が唯一無二だと思える。
この文章を書くまでこんな気持ちは日々の育児や家事に忙殺されて忘れていた。あの頃をまた思い出して息子に優しい気持ちで今日から接してみようと思う。
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