会社員は2年に1度のマンションの契約更新のようで
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記事:えんどうみき(ライティング・ゼミ 日曜コース)
「もう、そんな時期か」
ダイヤルを右に2回。左に1回まわし、マンションの入り口にある郵便受けを2週間ぶりに開いた。便利屋の広告、近くに建てられたマンションの空き情報、クレジットカードの請求の紙の中に紛れ込んでいた1通の封書。
それは、わたしの住むマンションを運営する会社名義で届いた。珍しい封書に少し不安を抱きながら、エレベーターで自分が住む5階のボタンを押す。靴を脱ぐより前に玄関で封書の中身を確認したわたしは、安堵を感じながらこう呟いた。
「ああ、そうか。この家にもう2年も住んでいるのか」
封書の中身は下記のようなことが書いてあった。
「もうすぐお部屋に住まわれて2年が経ちます。住むことを継続されますか。その場合は、火災保険などの契約更新をお願いいたします」
わたしはこの家に住んで丸2年が経とうとしている。2年前に会社員になったタイミングで借りた。大学の頃からひとり暮らしはしていたため、生活に対する不安はなかったものの、初めての都会暮らしにあたふたしながら選んだことを思い出した。
わたしがいるこの都市には、女性ひとりでは住むのが危ない街がある。路上で寝ている人がいる、夜ひとりで歩いたら、何が起きてもおかしくない街だ。
その危ない街をオススメされた時に間に受けてしまうほど、23歳の頃のわたしには土地勘がなかった。そんな中で、限りある時間で悩んだ末、今の街と部屋を選んだ。決め手は同期がその街に家を借りた話を入社前に聞いたからだった。
同期が選んだ街の家なら、大丈夫であろうという見立てであった。1Kの小さな部屋。家賃5万円。手当がない会社に入社したため、セキュリティはしっかりしているものの、家賃が安く収まるようにしたくてこの部屋にした。
結果的に丸2年経って思う。この街を、この部屋を選んで正解だった。同期の声は聞いてみるものだ。駅から徒歩3分、夜も明るい街。スーパーも薬局も近い。心を清めたいときは神社にもすぐ行ける。職場へもドアtoドアで15分以内に向かうことも可能である。小さい部屋であるものの、生活には満足している。
しかし、この2年でこの街に住んでいた同期は隣町に引っ越しをした。理由は、もっと自然に近い街と部屋に住みたいと思ったからだそうだ。自分で調べてそそくさとこの街を出た。
「この街は嫌いな街じゃない。ただ今過ごしたい街は隣町なの」
そう言っていたのが印象的であった。
それにしてもどうしよう。数日以内に契約更新をするか否かを決める必要がある。更新をしてあと2年、この部屋に住むか。それとも変化のタイミングとみて、わたしも同期のように新たな地へ引っ越すか。迷う。郵便受けに入っていた1通の封書をきっかけにわたしは自分の今後の住む家について考えるようになっていた。
分かっている。
仮に2年更新をしたとしても、別に契約を満了するまで必ずしもこの家にいる必要なんて一切ない。飽きたとき、違うと思った時に、退去希望日の1ヶ月前までに運営会社に連絡をすればいいことだって知っている。
しかし、いざ「どこに住みたい?」「どんな部屋に住みたい?」そう問われると、急に言葉に詰まる。分からなくなる。
さらにそこに、引越しにかかる敷金礼金といった費用を思うとさらに億劫になる。極め付けは、次に住んだ街や部屋が今のように心地よく感じるかなんて分からない。そう思ってしまう。そう失敗したときのことばかり考えると、この一歩が踏み出せない。
それであれば、「契約更新」した方がいい。何も変わらないからこそ、一番と楽でベストな選択だ。そう自分に言い聞かせて、わたしは契約更新をした。
本当は、自分が住みたい街や部屋を見つけて、自分のタイミングで移動する同期が羨ましい。留まる自分が少し情けなくなった。
手書きで記入した契約更新の契約書を見つめながら思ったことがある。
「会社員もこの契約更新と似てる……」
大学を卒業して初めて入社した会社。入社して、仕事をしてみて気づく、弊社の良さと大変さと苦しさがあった。そのような日々の経験を社員それぞれが送っているわけだが、その中ですぐに見切りをつけて辞める人もいた。楽しそうに働く人もいた。他にも3年経って次のキャリアを築くために転職する人もいた。逆に1つの会社で長く勤め上げる人もいた。
「自分はこの会社とどう付き合っていくのがいいのだろう?」
同期が。上司が。後輩が、新たな選択をする瞬間。3ヶ月に1度のキャリア面談をするたびに思わされた。
同じ部屋の契約更新をした方が楽なように、同じ会社にいた方が楽なのかもしれない。自分の新たな居場所探しをする必要も、履歴書や職務経歴書を書く必要もない。面接結果の報告が来なくて落ち込む日を過ごさなくても住むのだから。
同じ時期に同じ会社に所属していたとしても、その先の選択もタイミングも、人それぞれと思った。そして、自分のタイミングで選択をしないと、ずっと今の場所に受動的にいることにつながってしまうとも思った。少なくとも主体的に考える努力はしないといけないと思わされた。
本当はこの出来事は、1年前の話。
今わたしはこの街を離れようとしている。会社も辞めてフリーランスとして独り立ちすると決めた。何も迷いはない。むしろ清々しいくらいだ。
住む部屋も、働くことも、次にどうするのかは自分で決める。それが大人。社会人。
「自分の選んだ道。それを正解にして生きていく。何より大事にしていきたい」
そう、1通の封書は教えてくれた。
***
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