メディアグランプリ

苦しみの先にあるもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:渡辺 正喜(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「吐き気がする」
「もう止めたい」
「早く終わって」
 
まるでボクシングの減量中のように先の見えない時間だけが過ぎていく。
研ぎ澄まされたパンチの代わりに繰り出すのは真っ白な紙を黒く染める、一本の筆。
制限時間あり、作品が出来上がるまで、いつまでたっても終わらない。
そんな苦しみ抜いた一ヶ月間だった。
 
そこは家の片隅にある奥の間。障子向こうの日の光が差し込まなければ少し暗い畳の部屋だ。
部屋の中央には豪華なカーペットが敷かれていて、まだ肌寒い足下を寒さから守ってくれる。
いつもなら月に数回、和風の音色が楽人によってかき鳴らされる、雅楽の部屋だ。
 
だけど四年に一度だけ、墨汁の匂いが壁に染み込みそうなほど部屋に漂う時間がやってくる。
その時間がやってくると、僕は一か月間、寝食と神事の仕事以外の全隙間時間を、この部屋で行う書道に費やすことになる。すべては五月の半ばに開かれる僕が通う書道教室の作品展のためだ。
 
ちなみに、「習字」と「書道」は全然違う。
「習字」は文字通り、字を習うこと。
正しい筆順、整った字が書けるようにすることを目的としている。
対して、「書道」は自己表現のために筆と紙を使って作品を作ること。
だから、時には表現のために書き順をわざと間違えてみたりもする。
字を正しく書くことよりも、全体のバランスや作品のための思いが求められたりするのだ。
 
閑話休題。
 
今回、僕が出す作品は「知行(ちこう)合一(ごういつ)」。
今年の大河ドラマの主人公、渋沢栄一も影響を受けた、中国の思想家の言葉だ。
この言葉を紙に大人の手のひらより大きな文字で書く。でも、それだけじゃ味気ない。
そこで、「知行合一」の文字よりも小さく「行動を伴わない知識は未完成である」と、
言葉の意味も添えてみた。
その結果、通常ではありえない、二種類の大きさの文字が書かれた作品となった。
さっそく書道教室にて先生に見本を書いてもらう。
すると他の会員さんから「大丈夫か。本当にこの作品にするのか」と心配の目線を向けられた。
自分としても技術不足なのは自覚している。でも、もし完成したら喜びもひとしおだろう。
案の定、書き始めた後にものすごく苦労することになるのだが、その時の僕は「大丈夫ですよ。多分」と軽口をたたいて問題を未来の僕に丸投げしていた。
 
書く用紙は、「条幅(じょうふく)」という、縦136cm横34.5cmの細長い書道のための紙だ。
その紙をとりあえず二百枚購入した。
一枚六十円もするので、それでも完成しなければじわじわと家計に響く。
でも、何回も書いて練習しないと絶対に完成しない。そんな気しかしない。
僕は来週第一弾の作品を持ってくることを約束して、書道教室から飛び出し家路を急いだ。
 
自宅に帰ると、奥の間に書道道具を並べる。
カーペットが汚れないようにシートを敷き、その上に羊毛の素材で作られた紙より少し大きい下敷きを敷く。その更に上に目印となる紙を一枚敷く。
この紙は書く字が主軸からぶれないようにするため事前に作っておいた紙だ。
いくつもの折り目を付け、できた線に赤線が引いてある。
当然、字を書くと墨で汚れ乾くまで時間がかかるので、目印専用の紙もたくさん用意した。
そして、やっと作品を書くための紙を敷く。
紙を押さえるために文鎮(ぶんちん)と呼ばれる重しを右上に斜めに置く。
そして向かって左に先生が書いた見本を向かって右には箱の中に墨汁を入れた器と筆を並べる。
これでようやく書くための準備が整った。
 
そして頭の中で試合開始のゴングが鳴る。作品の締め切りは4月の半ば。
勝利へのルールはいたって簡単。
見本を用意してくれた書道教室の先生に作品として認められるだけだ。
「大丈夫。一ヶ月もある。毎日やればどうにか終わるさ」
そう考えて、僕の長い試合が始まった。
ところが作品作りはまったくうまく行かず、気がつけば締め切りまであと一週間になっていた。
 
部屋には墨汁の匂いが立ち込め、部屋の隅には膨大な量の紙が小山を作っている。
書くのはもう流れ作業のようだ。一向に先が見えない。
一枚書くのに15分もかかるのに、その中の一字でも間違えばやり直し。
「なんでこんな難しいものを選んでしまったのか」と悩んでも後の祭りだ。
でも、土壇場で主要な漢字一文字を紙一面に何度も書いていくという手法を考えだした。
その結果、見本に似た文字を短期間で書くことができるようになり、書く作品の質が上がったのだ。
 
そして締め切りの2日前に苦しいながらも渾身の作品を持って、書道教室を訪れることができた。先生からは期限が近いということと、僕の表情を見て、これ以上の作品はもう書けないだろうということでギリギリ合格の判定を勝ち取った。
 
今回僕はこの一ヶ月間の書道を通して先の見えない苦しみを体験した。
でも、その体験をすることで素晴らしい作品を作ることができ、自信を向上することもできた。
今学んでいるライティング・ゼミも正直、苦しいことの繰り返しだ。
でも、その先にはきっと今の僕よりも数段上の力がついた自分がいることだろう。
それを楽しみに、今日も僕はライティングに頭を悩まし続けている。
 
 
 
 
***
 
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2021-05-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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