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声は高低よりもチューニング


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:深谷百合子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
高校に入学して数日経った日の放課後、私はちょっぴりドキドキしながら校舎の階段を上り、音楽室の扉を開けた。中学の時から合唱をやっていた私は、高校の部活動も迷うことなくコーラス部に決めた。部活動初日だったその日、音楽室には既に先輩や新入生が何人か集まっていた。
 
しばらくの間、「どこの中学出身?」等とおしゃべりをしていると、やがて先生が入ってきた。
 
自己紹介が終わり、腹筋や上半身の力を抜く準備体操を終えると、先生は音楽室の後ろにあるピアノに座って私たちを呼んだ。
 
「新入生はパートを決めるから、こっちに集まって」
 
ピアノの周りに集まると、先生はひとりずつ呼んで、ピアノで音を出しながら発声を確認していった。
 
私は自分の番が来るまで、「上手く声が出るだろうか? 何て言われるだろうか?」とドキドキしていた。
 
「じゃ、次。深谷さん、こっちへ来て」
 
返事をして先生の横に立つ。
 
「中学の時は、どのパートだったの?」
「アルトでした」
「アルトだったのね。じゃあ、この辺りの音から出してみようか」
 
ピアノの音に合わせて、私は声を出した。
 
「うん、いいわね。じゃあこの辺まで出るかな?」
 
少しずつ音が高くなっていく。途中までは地声で出るけれど、ある音より高くなると裏声になる。
 
「この辺までいける?」
先生の出す音が、更に高くなる。今まであまり出したことのない高さだけれど、結構響くいい音が出た。
 
「うん、この辺りでも、喉が開いて響く音が出るね。深谷さんはソプラノね」
「ソプラノ? はい! ありがとうございます」
 
そう言うと、私は心の中で小躍りしていた。ソプラノは憧れのパートだったからだ。ソプラノはメロディーラインを担当するし、華がある。どこまでも高い音が出れば、「おー、すごい!」となる。もちろん、アルトというパートがあるから、コーラスが成り立つわけで、メロディーラインではないパートを歌うことに醍醐味があると今なら分かるのだけれど、若い私にとっては、ソプラノこそが「主役」だったのだ。そう思っていたから、ソプラノになったことが嬉しくて嬉しくて、それから何日かの間は、家に居ても高い音の発声練習をしたりして、家族に迷惑がられた。
 
私は子どもの頃から、声は低い方だった。中学のコーラス部に入って「アルト」と言われた時は、「やっぱりね」と思い、きれいな高音が出る同級生が羨ましかった。
 
「球場のウグイス嬢になりたい」と言っていた時も、知り合いから「ゆりこちゃんは、アルトでちょっとハスキーな声だから、雰囲気のあるウグイス嬢になれるかもね」と言われ、「低めのハスキー」というところが妙にひっかかった。
 
そんな地声の低かった私も、電話に出る時だけはトーンが少し上がる。すると、それを聞いていた母親からは、「よそゆきの声出しちゃって」と言われ、ムッとしたものだ。
 
女の子らしい、高めの可愛らしい声だったら良かったのに。自分の低めの声をのろいながらも、「歌うときはソプラノ」ということが、心の支えになっていた。
 
大人になって、自分の地声を厭う気持ちは薄れていったが、好きになったわけでもなかった。それが、あることをきっかけに、「いいかも」と思うようになった。
 
友人とオンラインで対談をして、その音声を友人が配信してくれたことがあった。友人の声はとても穏やかで、BGMの雰囲気にも合っていて素敵だった。するとその友人が、「百合子さんも声いいから、合っていると思うよ」と言ってくれたのだ。
 
「私、いい声なの?」
半信半疑だったけれど、ちょっといい気になって、自分も音声配信をやってみた。
 
最初は録音された自分の声を聞くのは、背中がぞわぞわするような違和感があったが、音声編集で何度も聞いていると、次第に慣れてくる。
 
他の人の話を聞いている時の相づちとか、質問したりする時の声は、これ位のトーンの方が落ち着いていていいのかもしれないなと思った。
 
そうやって人前で話をしたり、1対1で話をしたりする機会の中で、「声のトーン」に意識が向くようになってから、自分の地声が低いのが嫌だとか、もっと鈴を転がすような声がいいなというような気持ちは、どうでもよいことに思えてきた。
 
例えば、人と話をする時は、相手の声のトーンやペースに注意を向け、同じトーンやペースに合わせるように意識をする。何か相談事があって、相手の声のトーンが低ければ、こちらもちょっと低めにする。そうすると、相手の心が近く感じられるようになる。
 
あるいは、「これから講座を始めるぞ!」という時には、少し声のトーンを上げて、それこそ電話に出る時のような「よそゆきの張りのある声」で話した方が、場のエネルギーが上がる。
 
そうやって声のトーンは、相手や場の雰囲気に合わせて自分でコントロールできる。どんな声の持ち主だって、それはできる。そして私は、低めの方にも高めの方にも合わせられる自分の声を今は気に入っている。
 
 
 
 
***
 
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2021-05-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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