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日本一予約のとれないレストランと常連先輩

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:谷天仁(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
日本一予約のとれないレストランに連れてってやる。
 
小山先輩からはいつも忘れたころに連絡がくる。先輩は10数年前にIT系のベンチャーを立ち上げて、数年前にIPOしてからかなり羽振りがよくなった。大体数か月に一度、多いときは月に2度ほど連絡が来て駆り出されるおかげで俺もすっかり自腹ではいけない高級店のリストが増えた。もっとも駆り出されるのは先輩がオネエちゃんに断られたり当てが外れた時だけなのだがそれでも有難い。
 
日本一予約のとれない店は「フルタ」という。
 
「フルタ」という名前は食通を自任する人であれば一度ならず耳にしたことがあるかもしれない。わずか席数8席というカウンターだけの店だが値段は超高級。料理はコース提供のみで一番安いコースから3万、5万、7万、一番高いコースはなんと15万する。
それでも絶えず満席で各界のトップ、有名著名人が予約に列をなす。2021年4月時点で予約は2025年の11月まで満杯という実に予約4年待ちという驚異的な繁盛ぶりだ。
2014年12月銀座1丁目にオープンしてからこの小さな中華料理店が東京の中華の歴史を変えたといっても過言ではない。
 
この勢いは外にも飛び火してフルタのオーナーシェフ古田氏の息子がてがけるチウネ、フルタで修業した對馬氏の「對馬」、フルタの原型となった岐阜の開花亭時代の古田氏に師事していたという山本氏の「わさ」、その「わさ」から独立した西麻布の完全紹介制中華「Wreath(リース)」などフルタの遺伝子を引き継ぐ店はどれも予約1年以上待ちという異常な状態を引き起こしている。
 
いまでこそシェフズ・テーブルと呼ばれるカウンター席に腰掛けて調理する様をライブで愉しみ、味わうスタイルは街中華本来の姿に他ならない。だがフルタはフカヒレ、干し鮑、熊の手、燕の巣など中華本来の豪華食材をふんだんに、さらにキャビア、唐墨、雲丹などの従来の中華になかった食材を加え、間近で出来立てを味わうというカウンターの利点を生かし遠く離れていた厨房とグルメ達の舌の距離を一気に縮めることに成功したといえる。
もともと古田氏は故郷である岐阜で開化亭という中華料理屋を経営していた。月に一度一組だけのゲストをアトリエに招き、あらん限りの食材と調理法でもてなしたのが「フルタ・スタイル」の走りといえる。
話が逸れてしまったが先輩からの誘いに狂喜したのは言うまでもない。
なんでも先輩は頼み込んでフルタの枠を月一度貸し切りで取っていてお客さん、大事な友人、知人、愛人、そして空きが出るとたまに俺のようなリザーバーを連れてくるのだという。
「日本一予約のとれない店を日本一予約できる男」というのが先輩の自称のキャッチフレーズらしい。
 
なるほどこういう成金が年間でプラチナシートを押さえてしまっているから予約困難店がさらに取れなくなるのか。フルタに関しても「独立した店の方が味は上」だとか「拝金主義になっていて気にくわない」だと本当なのかやっかみなのかわからないが色々言ってくる人がいた。そうした噂を耳にして今回フルタに行く前に一抹の不安を感じていたのだが訪問して思ったのは、
 
「めちゃくちゃ美味いじゃねえか!」
 
というシンプルな感想。そこまでは美味しくないよと言われ、まあそうかもしれないななどと思っていた矢先に頭をぶん殴られた気分だ。
 
・つぶ貝、帆立など貝類の春雨煮込み
のっけから最初の一品ではっ!とさせられる。フレッシュで粒だった貝類から出される清冽な湯(たん)に思わず目が冷めた感覚を受ける。こんな旨いつぶ貝あったんだね。
 
・天然クエ 蕗の薹 四川風、を挟み、
 
・元祖キャビアビーフン
これが食べたかった。フルタのスペシャリテで真似をして都内で有数の中華料理店が出すようになった伝説の一品。ビーフンをキャビアで食べるというバブルな選択。キャビアはベルーガ産か静岡産お好きな方で選べるスタイルで迷ったがあっさりした静岡産をチョイス。わりとボリューミーだがぺろりと平らげる。旨いなんてもんじゃない。無我夢中でズルズル啜ってしまいしまった下品だったなと横を見ると先輩も他の客もずるずる啜っていた。下品な人たちは困るね。
 
・春巻き
続いて点心。ホワイトアスパラガス、海老、松葉蟹などたくさんの季節の食材から白子と毛蟹を選ぶ。白子はやたら熱く火傷必死だが玉砕覚悟で食べるべし。トロリ白子と揚げたてのパリパリ皮とのハーモニーが素晴らしい。
 
・青鮫の鱶鰭のステーキ
そしてついに今日のメインディッシュ三連発。こちらもフルタのスペシャリテ。鱶鰭をステーキにしてしまうという荒業だが今までどこでも食べたことのない香ばしさが魅力を増している。表面に軽く焼きのはいった鱶鰭をほぐしながら餡を絡めて箸で頂くのだが不思議な食感が口腔神経を刺激する。
 
・豊後水道のトラフグ揚げ 四川山椒風味
トラフグは身が厚く骨をしゃぶりながら食べて欲しい。山椒と揚げられた葱がめちゃくちゃに美味いよ。
 
・ビュルゴー家シャラン鴨 北京ダック仕立て
黒トリュフをちらして一口、鴨の柔らかさ天鵞絨の如し。遅れてくるトリュフの香り、見事なアレンジにシェフの才能が光る。
 
いやいや旨い。だが苦しい。ここまでくると腹も満腹だがこちらの真骨頂はこれかららしい。なんと最後の締めであるご飯類は無制限食べ放題だという。数々の炒飯、麻婆飯、担々麺、季節の汁ソバ、黄韮焼きそば、などが全て何度でもお替りできるという嬉しい拷問のような仕組みだ。
先輩も上機嫌で先月もよかったけど今月もそらにその上をいくな、とひとり悦に入っている。
俺まずいつものやつくれる?と古田シェフに常連ぶっている。
 
小気味よく鍋を振る店主は飄々としているがどこか凄みがあり話しかけにくいオーラがあるのだが先輩は鈍いのか大物なのか酒の勢いも借り話しかける。
マスター俺かなり通ってるけど一番ここの料理食べてる人って誰かな?
いやもちろん小山さんですよ、そう言ってもらいたい見え見えの態度だが古田シェフは意に介さず指さしてにやりと笑う。指の先にはグラスをさげているバイトの男の子がいる。
あいつは毎日うちの賄いを食べているから年間で200回は食べてます。新しい料理の試作とかも食べてるからダントツですね。もちろん無料で。そう言ってなぜか俺の方を持てにこりと古田シェフは笑った。先輩を見ると酔いがさめたみたいで極まりが悪そうに財布を探しはじめていた。そんな光景が可笑しくて俺は先輩を横目にシェフの方を見て、そうなんですかそれはダントツですねとにこりと返した。
 
 
 
 
***

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2021-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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