メディアグランプリ

もし、これから出会う200人の日常に触れることができる1冊があったら。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ちー(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
多くの人は、1日に何十、何百もの広告を目にしています。たとえば10分おきに流れるテレビコマーシャル、SNSのコンテンツの間に表示されるWeb広告、電車やバス、駅で目にする交通広告。背の高いビルの側面に貼られている巨大な企業広告。私たちは確かに目にしています。でも、そのほとんどは自分の人生に直接関係のないものとして判断され、長く記憶に留めるという選択をなされていません。
でも、もし、その広告1つ1つにストーリーが込められていたら。そのストーリー1つ1つが、自分がこれから出会うことになる誰かの日常や、願いを切り取ったものだとしたら。誰かの日常や願いを一足早く知っておくことで、その誰かと出会ったとき、相手のことを考えた立ち居振る舞いができるかもしれません。短い時間で良い関係性を築くことができるかもしれません。
そんな、これから出会う誰かの日常や希望・願望を、一冊にぎゅっととじこめた本があります。その本には、たとえば次のようなストーリーがいくつも掲載されています。
新幹線に乗って帰省する父子。父は張り切って駅弁を買いますが、新幹線が発車するまで食べちゃだめ、といいます。そんな父を見て子どもが「なんだか嬉しそうな父さんは、やっぱりちょっとヘンです」と思うワンシーンが描かれています。
別のページでは、足がクサイのは足自体がクサイのではなく、靴下がクサイんです。という、知られてそうで知られてなさそうな事実が記載されていますし、また別のページには「男のコのカワイイは、アテにならない」という、異性の目を気にしがちで、それと同時に同性からの目も気になる年齢の、女子中高生に向けたメッセージが記載されています。
また、あるページでは、自分が長年のファンである野球チームに復活してほしいと、長く、そのチームを見てきたファンであるからこその厳しい言葉で野球チームにエールを送っています。
こんなふうに、年代やジャンルを問わず、さまざまな人の日常や希望が描かれたストーリーがたくさん掲載されているのです。
その本の最後の方にはこんな話も。
「時の商人」というキャッチコピーから始まるその物語は、文字通り時の商人が、ある男に読書のための1時間を売るところから始まります。時の商人はある男に読書のための1時間を売ったあと、次の客に海外旅行のための1週間を売ります。そして次に訪れた老人の要求に驚きます。その老人は、なんと10年ぶんの時間が欲しいと言ったのです。10年ぶんの時間ですから、1時間や1週間を売るのとは訳が違います。値段もそれなりに張りますので、老人の覚悟も相当なものでないといけません。時の商人は「お客様、10年だと、すこし値がはりますが」と老人に問いかけます。その老人は「かまわん、10年ぶんよこせ」と言いました。そうして10年ぶんの時間を手に入れた老人は、それを病気の妻に譲ったのです。
実はこの物語は 宝石時計 長野 という宝石・時計販売を営む会社の企業広告です。私はこの物語を読み終えたとき、はっと息を吞みました。そして、それが企業広告だと認識してから、高い崖から突き落とされたような絶望した気持ちになったのです。それまで、その企業の良さや商品のメリットを直接的にアピールする企業広告に慣れていた私は、世の中にこれほどまでに美しい情景が浮かぶ企業広告が存在していたのかと思い、これを知らなかった自分を恥じました。そして、この企業広告を知らないときの自分に戻って、もう一度この企業広告との出会いを体験したい、とまでに思ってしまったのです。「時の商人」というキャッチコピーから始まる、たった15行のボディコピー。ですがそこには、確かに一人の人間の生き様と、思いと、強い希望が描かれていました。
今までご紹介したいくつかのワンシーンや物語は、すべて「何度も読みたい広告コピー」という本に掲載されている企業広告の広告コピーの一部です。「何度も読みたい広告コピー」には、自分がこれから出合う「誰か」の日常を切り取ったシーンがたくさんちりばめられています。
もしそれが、面と向かって話すことのない誰かだったとしても、これからしっかり関係性を築いていく相手だったとしても。
もし、これから出会うだれかの日常を、少しでも知っておきたいと思ったら。そうでなくても、自分以外の誰かの人生に触れてみたいと思ったら。ぜひ一度、手にとってみてください。この1冊を読めば、何人もの人生を一気に体験することができますし、さまざまな人の考え方に触れることができます。この本を読んでこれから出会う誰かの日常や願いに触れることで、相手の気持ちを考えた行動ができるようになるかもしれません。
長い小説ではありませんから、ぺらぺらとページをめくり、手が止まったところだけ読んでみるのも良いでしょう。税抜き1,900円、バイ インターナショナルから出版されています。大きな書店の「ビジネス」や「マーケティング」の棚に置いてあることが多いです。10ページ目から267ページまで、長さもさまざまなコピーが掲載されています。およそ200人(とたまに動物や自然や商品)の人生(?)に触れることができますし、新たな発見があるかもしれません。
ビジネスやマーケティングに興味がなくても、誰かの人生に触れてみたいと思う方に、心からおすすめしたい1冊です。
 
※本文中下記記載は、「何度も読みたい広告コピー」より引用しています。
「なんだか嬉しそうな父さんは、やっぱりちょっとヘンです」東日本旅館鉄道(コピーライター:山口広輝)
「男のコのカワイイは、アテにならない」クロスカンパニー(コピーライター:山口広輝)
「時の商人」「お客様、10年だと、すこし値がはりますが」「かまわん、10年ぶんよこせ」宝石時計 長野(コピーライター:松田正志)
 
 
 
 
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2021-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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