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「月明かり」は癒しの光


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記事:仲本 ひと美(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
忘れられない「月明かり」がある。
 
2011年3月11日の夜は、街中が真っ暗闇になるのだろう、と思っていた。でも、月明りが、ほのかに街中を照らしてくれ「自然の光は、こんなに明るいのか」という驚きと、美しい月明かりに「ほっ」としたことを覚えている。
 
私が住んでいる宮城県は、私が生まれる1年前の1978年に宮城県沖地震という大きな地震があった。その時の教訓もあってか、小学生の頃から、避難訓練で、地震が起きたとき、とるべき行動を教えられていた。また、「宮城に大きな地震、また、いつか来るらしいよ」という話も、何度も聞いており、日ごろから備えなきゃなと思っていた。ただ、その「いつか」が、なかなか来ない。備えが、後回しになっていた。「備えなきゃ」と思っているだけでは、何もしていないことと同じ。実際、私は、「いつか来る」を現実のことと捉えておらず、備えの大切さを理解していたつもりだったが、行動が伴っていなかった。
 
東日本大震災は、たった数分の揺れで、全てのライフラインが一瞬で使えなくなった。地震発生時は、お昼で明るかったが、夜は真っ暗。日ごろは、乾電池を買い置きしているのに、この日に限って、乾電池の買い置きが無い。懐中電灯は小さい物が一つだけ。夕方には、真っ暗になる。暗闇では何もできず、懐中電灯の電池を節約するため、しかたなく早々と寝ていた。
停電は、情報収集にも支障をきたした。当時は、携帯電話を使っていたが、電話もメールもつながらない。そして、パソコンも使えずネットもつながらない。新聞も数日、手に入れることができなかった。このような時、役に立つのがラジオ。しかし、日ごろラジオを使っておらず、乾電池が、あれば使うことができたが、肝心の乾電池がない。私は、自宅も、職場も内陸部にある。沿岸部に甚大な被害が起きていること、地震の被害が宮城だけではなく、東北の広範囲であることを、地震発生から1週間後に知った。
そして、我が家は、オール電化。停電になると、お風呂に入れず、料理もできない。カセットコンロはあるが、ガスボンベを切らしており、温かい料理が、できない。非常用の水、カップラーメンやレトルト食品はあっても、お湯が無ければカップラーメンは食べられず、電子レンジも使えないのでレトルト食品も食べられない。
軽く思い出すだけでも、情けないが、これだけ備えをしていなかった。突然いつもの日常が「できない」となると、不安が大きくなる。でも、ラジオから情報を知ること、ちょっとしたものでも温かいものを口にできること、そんなことでも不安は小さくなるような気がする。
 
このような状況で、家族だけだったら、途方に暮れていたが、色々な方が、助けてくれた。私は電車通勤をしているが、公共交通機関は、すべてストップ。この日は、上司が、車で自宅まで送ってくれた。通常なら車で30分程の距離。しかし、陥没や地割れなどで通行止めになっている道が多く、通れる道を探しながら1時間以上かかり、送ってくれた。自宅に暖炉のあるお隣さんは、朝、温かいコーヒーを届けてくれた。久しぶりに温かいものを口にし、涙が出そうになった。
 
今年で震災から10年。いつ起こるかわからない災害に備え、カセットコンロ用のガスボンベを用意したり、ソーラーパネル付のキャンプ用ランタンを用意したりしてきた。でも、失敗もある。一番の失敗は、賞味期限。水や、非常食など買い揃え、部屋の防災用コーナーに置いていた。しかし、準備をしたことに安心し、そのまま放置。気が付いたら賞味期限から半年も過ぎていた。冷蔵庫に賞味期限を貼っていても、書いたことに安心し、確認を忘れてしまう。以前、防災士の方にお話を伺う機会があった。水や食料品は、「災害用」と特別扱いせず、台所の一角に、スーパーで普通に買える乾物や、レトルト食品、缶詰などを置く場所をつくり、普段の食事で、その食材を、常に使うようにする。使ったら即補充。このようにすると、賞味期限を気にすることなく、常に新しい日付のものを置いておける。また、日ごろから「非常食」と区別しておくより、普段の生活に取り入れ、味に慣れておくことも、いざという時に安心につながるようだ。
震災からずっと続けていることもある。500円玉から1円玉まで、千円分の小銭を持ち歩くこと。今は、電子マネーなどが主流で、現金で、やり取りをする機会が減っている。でも、電子マネーが使えるのは、電気があってこそ。聞いた話だが、震災時、おつりが出せないという理由で、1万円札を使えなかった人がいたらしい。稀なケースなのかもしれないが、1万円札があっても、震災時は、水すら買えないということがありうる。
 
東北以外の地域でも、大きな地震が来るかもと、言われている。ライフラインがすべてなくなった時、本当に不安な気持ちになった。でも、ほんの少しの備えで、安心を得ることができると思う。その安心する気持ちが、災害時には大切なような気がする。
 
会社からの帰宅は、夜になる。お天気のいい日は、月がとても綺麗に見える。でも、住宅街の家という家、そして、街灯に煌々と明かりがついているからか、月明りは、いつ見ても控えめだ。震災の日の夜は、どこもかしこも地上は真っ暗、だからこそ、月明りが、際立って綺麗に見えた。今、毎日見る月明りは、控えめたが、それは、当たり前と思っている日常を過ごせているということ。そんな時にこそ「いざという時に、備えておこうよ」と、月明りが教えてくれているように思っている。
 
 
 
 
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2021-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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