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ピアスはキノコ


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:吉田みのり(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
自分の人生において大きな意味を持つことやターニングポイント。
そのときはわからなくても、あとからふり返ってみて気づくこと。
私にとって、それはピアスだった。
 
高校の卒業式の前日に、仲が良かったKからいきなり、明日一緒にピアスをあけに行こう
ね、と決定事項のように誘われた。
Kは前々から計画していて、両親の許可ももらっているという。
私たちが通った高校は私立の女子高で、校則が厳しかった。
スカート丈は膝が出ないように、肩に髪がつく長さの人は縛る、染髪禁止、ルーズソックス禁止(私が高校生の頃はルーズソックス全盛期!)など細かく決まっており、もちろんピアスも禁止だった。
私としては髪を染めたいと思ったことはなかったし、太っていたからそんなにスカートを短くしたいとも思わなかったし、もちろんピアスをあけたいだなんて考えたこともなかった。
優等生だったわけではないけれど、ルールを守ることは苦ではなかったから、髪を染めたりスカートを短くして先生に怒られている同級生の気持ちが分からずに3年間を過ごした。
Kも私と同様の高校生活を送っていたと思う。
Kはピアスをあけることを本当に楽しみにしているようで、卒業したら自由だし、おしゃれして大学に行きたいし、彼氏も見つけたいし……と目をキラキラさせて、これからの大学生活を夢見ていた。
突然言われても、と返答に困っていると、おしゃれしたいじゃん! ピアスつけたらかわいいよ! 大学は別なんだし、記念に一緒に行こうよ! とたたみかけられ、
「わかった、お母さんに相談してみる」と言ってしまった。
 
家へ帰り母へ相談すると反対され、「よく親にもらった体に傷を付けるなんてって言うじゃない」と言われた。
しかしそれはあまり本気で反対している様子でもなく、ピアスをあけたい、どうぞどうぞ、というわけにもいかないから一応反対している、という感じだった。
母は基本的には私の意見を尊重してくれるタイプだったため、もう大人なんだし、自分で決めたなら、やりたいと思ったなら好きなようにしなさい、と言ってくれた。
ピアスをしたいと思っていたわけではないのに、だんだんと未知の世界へ飛び込むようなわくわくした気持ちになっていた。
 
卒業式も終わり、いよいよ、Kが事前に調べておいた池袋の皮膚科へ連れて行かれた。
看護師から説明を受け、穴をあける位置を決めて印を付ける、という段階になっていきなりこわくなった。
そういえば、今さらだけれど、私は注射がこわくて、予防接種とか採血も大嫌いなのに、耳に穴を開けるだなんて、痛いだろうし、こわい!!
Kにそっと、「こわいなぁ、やめようかなぁ」と言ってみたら、「はぁ?」ときつくにらまれた。
あ、そうか。ここまできて、もうやるしかないのか。
穴を開ける位置はいちばんオーソドックスで痛くない位置にしてもらった。
 
私の順番が来て、先生が、「はい、すぐ終わりますよ、大きな音がしますからね」と言って、バチン!! と音がして右の耳たぶにチクッとした痛みがあった。
「はい、次、左」とすぐにまたバチン!!
そのあとはじーんと鈍い痛みがあり、でも「それもすぐに治まりますから心配いらないですよ」と言われた。
その後しばらくは違和感があり、着替えや寝るときに気になって仕方がなかったが、それも1週間ほどで慣れた。
 
ピアスをあけたことで、私の中で大きな変化があった。
根拠はないのだが、ワンランクレベルが上がったような気になった。
今まで真面目だけが取り柄だったような私がピアスをあけたなんて! とはじめて悪いことをしたような、優越感のような、なんとも言えない今までに味わったことのない感情が芽生えた。
そして、私の耳にピアスがついていることが理由もなく嬉しくて、鏡をよく見るようになった。
それまで私は外見にコンプレックスが多く、必要最低限しか鏡を見なかったのに。
少し違うのかもしれないが、同級生たちが髪を染めたりスカートを短くして自己主張していた気持ちがなんとなくわかったような気がした。
 
大学生になり、ファミリーレストランでのアルバイトを始めてよく動くようになったからか、高校時代より自然と痩せていった。
そうなると、おしゃれをしてみたくなる。
洋服やアクセサリーを選んだり、髪型を変えたり、メイクの勉強をしたりと、今まで興味がなかった外見を磨くようになり、変化していく自分に心が躍った。
ピアスをしている自分に自信が持て、強くなったような気がした。
高校卒業前にKが目をキラキラさせながら言っていたことの意味もわかった。
ちなみにKは大学生活を謳歌し、セーラー服のおもかげなんて微塵もないくらいに派手になった時期もあったが、中身としては高校時代のKのままで、その後も交流は続き、今でも友達だ。
 
私にとってのピアスは、マリオのキノコやファイアフラワーやスターのように、外見が変化したり、強くなって自分を守ったり、時には無敵になれるアイテムだったのだ。
 
誰にでも、人から見たらさほど意味などないような瞬間や、言葉や、エピソードが、自分にとっては大きな意味を持ったりターニングポイントとなることがあると思う。
そのときはわからなくても、あとからふり返ってみたら気づくことも。
18歳の私は気づかなかったけれど、年齢を重ねてふり返ってみると、ピアスが私の人生のいくつかあるターニングポイントのうちのひとつだった。
そのターニングポイントに導いてくれたKに感謝している。
やめようとした私を「はぁ?」とにらんでくれたことも。
このことはKに話したことはないのだが、いつか話してみようと思う。
たぶんKは、「そうだっけ? そんなに私が誘ったっけ?」とか「ピアスをあけたってだけの話しにおおげさだよ」と笑うだろうけれど。
 
 
 
 
***

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2021-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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