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「本読まなきゃ教」から脱退した私


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記事:yokoyan(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私は本を読むのがとても遅い。
読書が好きで小説やエッセイをよく読むのだけれど、ぜんっぜん進まない。
でもそれを全く問題だとは思っていないし、むしろ誇らしささえ感じている。
 
世間では、「本を速くたくさん読める人はすごい!」なんていうイメージがある気がするけれど、失礼ながら私は「そんなの何にもすごくないや」と思ってしまう。
 
でも、こう考えるようになったのはここ1~2年くらいのこと。
かつての私は、「本を速くたくさん読めることはすごい!」と思っていたし、実際速くたくさん読んでいた。
今思い返せばあのときの私は、「本読まなきゃ教」の信者だった。
本当に脱退できてよかったなあ。
 
そもそも私が「本読まなきゃ!」と思うようになったきっかけは、中学生のとき。
国語の文章題が苦手で登場人物の気持ちとかさっぱりわからなかった。
そんな私に対して、母からは「本を読まないから国語ができないんだよ」と度々言われた。
ハリーポッターだけは夢中になって何度も読んでいたんだけどなあ。
それから「本を読むことがいいこと」だという意識がいつのまにか刷り込まれていた。
 
その意識は高校に入ってさらに強くなった。
東大理科3類にA判定が出るほどの規格外の天才少年が同級生にいた。
聞くところによると、彼は小さい頃から本を異常なほど読んでいたらしい。
本をたくさん読めば、ああいう天才ができあがるのだな、と私は思った。
 
そして、大学生になった私は、速くたくさん本を読むようになった。
昔、速読をかじっていたというのもあって、ものすごい勢いで読んでいった。
周りにも本好きな人は何人かいて、「1日1冊読んでいるんだよねえ」なんていう人もいたので、それに対抗して、私も1日1冊読んでいたときもあった。
 
そうしてどんどん本を読んでいく日々は続き、あるとき、ふと思った。
「あれ? なんか違う」
一生懸命いろんな本を読んだけれど、後から振り返ってみると、何も残っていない。
しかも、専門書とかならともかく、せっかく小説を読んでいるのに、そこまで楽しくない。これでいいんだっけ?
 
考えてみれば、今までの自分の本の読み方は、大量の情報のシャワーを浴びるようだった。
シャワーを浴びているようだから、自分の体の表面を通った情報は、全て流れていってしまう。
うーん、違う。なにか違う。
自分が求めていたのは、湯船にゆっくり浸かるような、そんな読み方だったのではないか。
 
それから私は、速読とは対極の「スローリーディング」という読み方について調べていった。
調べてみると、私が尊敬していた小説家兼工学博士の森博嗣さんは、小さい頃から本を読むのがとても遅かったらしい。
また、灘中学で伝説の教師と言われた橋本武さんは、国語の授業で3年かけて「銀の匙」という一冊の本を読む授業をしていたという。
その橋本武さんはこんな言葉を残している。
「スピードが大事なんじゃない。すぐに役立つものはすぐに役立たなくなる」
 
ふむふむ。なるほど。
スローリーディングという読み方もありかもしれない、と思い始めた私は、今までとは180度違う姿勢で読書をしてみることにした。
 
そして、しばらくスローリーディングをする日々は続き、気づいた。
「ああ~、楽しいなあ!」
もう、全然違う。次元が違う。今まで私は何をしていたのか。
これが小説か。これがエッセイか。これが読書というものか。
 
スローリーディングという行為は、つまみがあることで酒がすすむ、みたいな現象に似ている。
あるいは、美味しいおかずがあることでご飯がすすむ、みたいな。
 
今、私が本を読むときは、ただ情報をインプットすることだけが目的なのではない。
読みながら、情景を想像したり、自分の人生について考えたり、過去の回想にふけったりすることも目的となっている。
というかむしろ、少し読むのを止めて、ぼんやり考え事をするために本を読んでいるといってもいい。
本を読むという行為が、考えるという行為を促していく。
いや、それだけではない。
本を読むからこそ考えることが楽しくなるし、考えるからこそ本を読むのが面白くなる。
物凄い相乗効果。まさに美味しいつまみと酒の関係。
 
また、思い切ってゆっくり読むことで、「本を読まなければならない」という義務感も少しずつ薄れていった。
よくよく考えれば読書なんて所詮は娯楽だ。別に高尚な行為なんかじゃない。
急いで読む必要もないし、無理に最後まで読み切らなくてもいい。
 
「本読まなきゃ教」に入っていた頃の私は、曖昧な言い方だけど、すごい人間にでもなろうとしていたのかもしれない。
読書の動機の半分は楽しむためだったけれど、残りの半分は、読むことで賢くなったり、今よりすごい人間になったりできると思っていたからだった。
 
でも、そういう動機で読むことで、あんまり楽しく面白く読めなくなるのなら、それは本末転倒な気がする。
すごい人間になったって、楽しくないなら意味ないじゃない。
というか実際、物凄くたくさん読んでもそれほど自分が変わったわけでもなかった。
少なくとも、あの頃のように大量の情報のシャワーを浴びるだけのような読み方では、結局何にも得られないんだろうな。
 
「趣味は読書です」と言うだけで、「すごい!」とか「すてき!」とか言われる世の中だけど、そんなに高尚にとらえなくていいと思う。
所詮は娯楽。きっとそれくらいのスタンスがちょうどいい。
今まで本を読んでこなかった人にも、1日1冊読んでしまうような人にも、スローリーディングをぜひとも試してほしい。
そうしていつか、「ああ~、楽しいなあ!」と思えるような読書体験をしてほしい。
 
 
 
 
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2021-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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