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朝風呂を制するものは休日を制す


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記事:晏藤滉子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
私は朝風呂が好きだ。
 
朝風呂が好きというと、いかにも毎朝の生活習慣と思われそうだが、それは違う。私の場合は「休日に入る朝風呂」限定。敢えて「休日」でなくてはいけないのだ。
 
私が朝風呂の虜になって日はまだ浅い。
それまでも毎夜の入浴は癒しの時間だし、他県の温泉地へ遠征したりもしていた。旅先での朝風呂は、温泉旅行の醍醐味のようなものであり、あくまでも非日常を楽しむ程度のものだった。
 
普段の生活では、入浴の時間は夜。ベッドに気持ちよくダイブする為に、就寝前の入浴は子供の頃から習慣化していた。そういえば子供の頃、朝風呂に入る習慣なんてなかったし、朝はシャワーで済ましてしまう事が殆どだった。
 
「朝風呂」の存在を際立たせるような出来事があった。
 
3年前の初夏だろうか、その晩は何故だか眠れなくて悶々としていた。
眠ろうと思えば思う程、頭が冴えてしまう。本を読んだり、睡眠導入に効く音楽をネットで拾い聞いてみても・・・・・・まったく無駄だった。
眠れない夜と戦っても勝ち目はない。眠れない事実に疲れ果ててしまった。
 
やがて空が白む頃に、眠気は訪れた。
「折角の休みなのに、今日は使いモノにならないだろうな」そんなことを思いながら、うつらうつら・・・・・・眠りに引き込まれていった。
 
案の上、正味三時間のうたた寝では、目覚めたといっても心と身体は鉛のように重たいものだ。テンションも駄々下がり・・・・・・そこで目を覚ます意味も込めて湯船にお湯を張り始めた。
 
今日は予定もないし、家で巣ごもりだし、とっておきの入浴剤を入れてみた。「海外のセレブも愛用!」という口コミでつい買ってしまった入浴剤は、入れてみると確かにお湯がトロンとしている。香りも華やかで素敵だ。
 
ドプンと湯船につかる。
 
肩までつかって暫くすると不思議な体感覚を感じた。
「朝って、こんなに身体が冷えていたんだ・・・・・・」
 
冷え性でもなく、寒い季節でもないのに、
お湯の熱さで肌の表面がビリビリしびれている。
まるで真冬の入浴のような体感だった。
 
「ふぅ・・・・・・」
 
細胞が緩んでほどけていく。私は深いため息をついた。
湯船の中で、瞼を閉じながらも眠る訳でなく、お湯に包まれる感覚に浸りきっていた。
 
どれくらい入っていたのだろうか。
猛烈な喉の渇きを覚え、現実に一気に引き戻されてしまった。
 
冷蔵庫の扉を開け、飲み物を物色していると冷えたビールと目が合った。
「休みだし・・・・・・ま、いっか」
 
ベランダに出てみると、朝の澄んだ風が心地よい。
プシュッと缶を開け、腰に手を当てビールを一気に飲み干した。
 
「はぁ~最高!」人生の中で5本の指に入る程の美味しいビールだった。
 
それは「寝不足で半日棒に振るであろう休日」が、「最高の休日」に変わった瞬間だった。
 
朝の入浴後は多少の脱力感はあるものの、朝風呂の爽快感は不思議なほど続いていく。恐らく心身の活動モードがオンになるのだろう。「今日は頑張らなくちゃ!」と気持ちを無理に奮い起こすまでもなく、自然と活動したくなってしまうのだ。「天然のやる気」によって、モチベーションは高止まりするものかもしれない。
 
以前の私は、休日前はつい遅くまで夜更かしすることも多かった。遅く起きた朝は、当然すぐに夕方になってしまい、休日を棒に振ってしまった罪悪感が頭の中を占めてしまう。朝風呂の習慣が定着してからは、夜更かしは自然と控えるようになった。早朝とまではいかなくても、朝の空気が澄んでいる時間帯に朝風呂に入り、テンションを上げて一日をスタートしたいと考えるようになったのだ。実際、読みたい本や仕事の準備など「やりたいことリスト」はスムーズに消化されていくようになった。先延ばしすることも少なくなった。それは自分でも意外な変化だった。
 
とはいえ、朝入浴派に変更した訳ではない。あくまでも基本は夜派だ。何故ならあの贅沢な朝風呂体験は、1分1秒を争う平常運転の朝では、ゆっくり堪能することは不可能に近い。「朝風呂」による醍醐味、贅沢感を味わう為には、やはり休日が相応しい。多分私は特別な休日を演出したいのだろう。
 
それ以降の私の生活において、年末年始やゴールデンウイークなどの大型連休に「朝風呂」は定番化した。元々人混みが苦手なこともあり、連休は出来れば外出したくない。その為自宅に籠り、いつもの通りの生活をしてしまいがち。大型連休はいつの間にか終わってしまうという残念さが常に残ったものだ。
 
「朝風呂」は、そんな不完全燃焼の休日を変えてくれた。
 
休みの「朝風呂」は時間の縛りもなく自由だ。
トリートメントしたり、パックをしたり、ブルートゥースのスピーカーで好きな音楽聞いたり、とにかくボーっとするだけのこともある。
 
そして朝風呂を楽しんだ後は、定番のコーヒー牛乳を用意することもあるし、温泉宿のように朝ビールを堪能する時だってある。
 
そして充分贅沢な時間を楽しんで、ご機嫌になってから・・・・・・一日が回り出す。
当たり前の朝がバージョンアップした時、
中途半端で不完全燃焼だった休日は様変わりした。
 
朝風呂を制するものは休日を制す。
「朝風呂」は不思議なパワーを持っているのだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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