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ワンルームでサツマイモと共に生きる


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記事:ebikawa(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
独り暮らしのワンルームに何か彩りになる植物が欲しいと思うことは何年も前からあったが、結局行動に移してこなかった。
 
まず、虫が苦手なので、土のついたものを室内に置きたくないのである。
それにズボラなので、こまめに世話をするというのに向いてない。過去に豆苗を育てようとしたときは、陽に当てるためにベランダに出したらそのまま忘れ、数日後にすっかりカピカピに乾いた姿で発見する、という惨たらしい事件を起こしてしまった。
 
エアプランツやサボテンなど世話が比較的簡単といわれるものを、たまにネットで調べたり花屋をのぞき見したりはしていた。しかし、せっかく買ってもダメにしてしまうかもな、という思いが拭えず、腰が重いままだった。
そんな私の部屋に、7か月ほど前から同居し続けている植物がいる。
 
きっかけは、実家を訪れた際のことである。キッチンカウンターに、ツタのような植物がグラスに飾られているのに気がついた。
私がのぞき込むと、母親が「ああ、それね、サツマイモから芽が出ちゃったんで水栽培しててるの」と言った。確かによく見たら、葉は一見おしゃれなツタだが、根元の部分はまごうことなきサツマイモの切れはしだった。
 
そういえば私の母親は、昔から常にキッチンの片隅で何かを水栽培していた。ジャガイモ、サトイモ、ネギ類も見たことがあるような気がする。
それらはいつも、カイワレ大根や豆苗などの「今後食べるための水栽培」ではなく、「食べようと思ってたら芽が出てしまったので育てている」、どちらかというとネガティブな理由によってスタートした水栽培だ。
 
しかし、当のサツマイモはそんなネガティブな様子は見せず、グラスの中でいっぱしの観葉植物然としている。「こうすると一見おしゃれだね」と私が言うと、母は「自分でもやってみたら。ちょうど今いいのがあるから持って帰りなよ」と、芽の出てしまった別のサツマイモを野菜入れから取り出してきた。
まさか控え選手まで準備されてるなんて、この家、芽の出たイモが多すぎるのでは……とも思ったが、なにはともあれ、それが私のサツマイモ水栽培のきっかけである。
 
水栽培は家にあるコップでもできそうだったが、少しでもおしゃれに見せるため、私は100円ショップで底の広いウイスキーグラスを買って帰った。そこに水を張り、サツマイモの芽が出ている部分を3センチほど切って置く。準備はそれだけだ。
また、ベランダに出して豆苗の悲劇をくりかえすわけにはいかないので、今回は家の中に置くことにした。よく視界に入るように、胸の高さほどある棚の上が定位置となった。
 
すでに少し芽が出ているとはいえ、これだけで本当に成長するのだろうか、と思っていたが、水につけた翌日にはもうイモ本体から白い根っこが1センチほど伸びていた。その後も根は毎日数センチの勢いでぐんぐんと伸び、芽もどんどん伸びて葉をつけ始めた。水だけでこんなに育つのか、生き急いでるんじゃないか、と植物の力強さに日々驚かされた。
 
いくつか大きな葉がつき、茎も20センチほど伸びたところで、急激な成長は止まった。永遠に成長し続けたらどうしようと心配になっていたので、それくらいの大きさで落ち着いたことにはひとまず安心した。ちなみに、水栽培でイモの本体は育たないので新たなイモが収穫できることはない。伸びた茎や葉は無理すれば食べられるようだが、特に美味しいものではないようである。イモといっても、本当に観賞用だけとなる。
 
世話は本当に最低限で、とても楽だ。気づいたら水をちょろちょろと足すだけで、他には何もしていない。4~5日おきに数秒間の手間で済んでいる。
それでも一度、水やりを数日忘れて、気づいたらほとんどの葉が黄色く萎れてしまったことがあった。もう駄目かと思ったら、イモ本体から、また小さな芽が元気よく出ていた。萎れた枝を切ってしまうと、今度は新しい芽がどんどん伸び始め、現在はその第2世代が幅を利かせている。
 
買ったわけでもなく、成り行きでもらったうえに、サツマイモという身近すぎる野菜で、ほとんど世話もしないので「おしゃれな観葉植物を育てている」というような感情はない。いきなり家に来て、勝手に育っている。そういう気持ちだ。
しかし、自分以外に「勝手に変化するもの」が部屋にいる生活は、少し楽しい。ただの置物とは違い、見るたびに変化している。もちろん家族やペットまでの大きな存在にはならないが、おそらくサボテンやエアプランツよりは日々の移り変わりが激しいだろう。猛烈な勢いで根を伸ばし、光に向かって茎を伸ばし、新たな葉を生やし、1日でも長く生き延びようとしている。私は私でこの部屋で頑張って生きているが、サツマイモはサツマイモで頑張って生きている。飾っているというより、そんな泥臭い努力を感じるのだ。もともと土の中で育ってきたイモだけに。
 
先日、母と電話した際にサツマイモの話をしたら「まだ育ててるの!」と驚かれた。母は一定の大きさになったら、庭に植えるなどして水栽培はやめてしまうそうだ。
うちのイモはまだまだ元気で、イモ部分から新たに第3世代の芽まで出てきてしまった。もはや、どこまで変化し続けるのか。楽しみである。
 
そしてまた最近、私が食べようと買っておいたサツマイモに、芽が生え始めてしまっているのをキッチンで発見した。買った食材は早めに消費するほうなので、自分で買ったサツマイモに芽が出てしまったのは初めてだ。これをどうするか、芽の部分を捨ててしまうか、それとも新たなルームメイトとして加えるか……まだ決断できていない。
このままでは狭い部屋にルームメイトがどんどん増えてしまいそうで、現在とても悩んでいる。
 
 
 
 
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2021-05-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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