メディアグランプリ

おじさん構文を使ってみたら、本当に嫌われた話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:長谷川 大祐(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「気持ち悪いんで、辞めてもらっていいですか?」
 
いつの間にか届いていた通知により、スマホの画面に無慈悲な文章が表示された。言葉の真意や意図を理解するより早く、生体反応として手汗と脇汗が湧き出てくる。一旦、見なかったことにして、気分転換にとYoutubeを開くが、脳内では疑問符と後悔を筆頭に感情が溢れる。
 
こんなはずでは……。
 
スマホの画面には、広告が映しだされており、見たことのある企業のロゴと共に女性が眩しい笑顔で踊っている。
 
 
 
バイト先の後輩であるAちゃんをご飯に誘う為、文章を考える。
やっぱり、普通に誘うだけじゃ少しつまらない。何かこう、少し癖のある誘い方をすれば面白い人という印象がつくはず。そうすれば、Aちゃんもノリノリでお誘いに乗ってくれるはずだ。そんな経緯で見つけた画期的な誘い方(当時はそう思っていた)がおじさん構文だったのだ。
 
Aちゃんは、自分より1つ年下でくっきりとした目が特徴の可愛い女の子だった。地元が同じということもあり、会話もよく弾んだ。なので、出勤の日が同じだといつもより余計に頑張れた気がした。Aちゃんには彼氏がいない、という情報を手に入れたことをきっかけに意識し始めたという訳だ。今回企てているお誘いについても、何回か個人で連絡を取り合った実績はあるから大丈夫だ、と踏んでいる。
 
早速、おじさん構文について調べていくことにする。元々は、おじさんが女性に対して送る独特の癖がある文章である、という知識は持っていた。だが、中途半端な知識で本番のお誘いをすると、中途半端な結果になるのではないか。そのような懸念点から、普段の授業よりも真剣に調査を進める。
調査結果としては、
①句読点が多いこと
②顔文字・絵文字の乱用
③名前に「ちゃん」を付ける
④「~カナ」を語尾につける(カタカナであること)
⑤若干の下心
以上の特徴が見つけられた。
 
特徴が分かったところで本番の文章製作に入っても良かった。しかし、よりリアリティを追求するべくtwitterにて構文を検索し、例文或いは雛形として使用するためにメモをする。よし、これで準備が整った。手元のメモを参考に文章を構築していく。
 
試行錯誤しながら出来上がった破壊力抜群の文章を前に、自分でも若干嫌悪感を抱く。こんな文章を本当に送ってもいいのだろうか、と一瞬躊躇った。いや、普段の自分が書く文章とはかけ離れているし、大丈夫、面白い筈だ。でも、まずは違う異性の友達で試してみよう。出来上がった作品を元に、友達に送る文章を作成し、3人に試しに送信する。
 
30分後、1人目の返信は、冗談が通じたのか同じおじさん構文で届いた。おじさん同士の会話になってしまい、笑いが起こる。良い調子だ。続いて2人目、「誰かと思った! (笑)」に続き「え、おじさんいるの?」という捻りが効いた返信。おお、いい感触じゃないか。3人目からの返信はまだ来ていないが、夜も遅くなっていた為、既に寝てしまったのだろうと思い、寝ることにした。明日、どんな返信が来るのか楽しみにしよう。
 
翌日、お昼を過ぎても3人目の友達からは返信がこない。この時点で、控えるべきだと判断していれば良かったが、当時は好感触が連続していた為、あまり深く考えなかった。まぁ、たまには連絡取りたくない日だってあるよな、くらいの感覚で。
 
さて、いよいよ本番のお誘いを決行する。前日作った文章を軽く見返し、出来の良さに満足しつつ、今後予想される展開に胸を躍らせながら送信する。10分後、まだ返信は来ていない。さっき送ったばっかりだし、まぁ待て自分。1時間後も返信は来ていない。半日待っても、結果は同じ。いやいや、返信を気にするなんてクールじゃない。気長に待とう。返信の早さとか全然気にしないですよ、みたいな心持ちでいこう。
 
そんな自己会話をしているうちに、2日が経過した。2日が経過したともなれば、流石に焦る。想像上のAちゃんと過去のやり取りを思い出し、何とか安心材料を作っていく。弁解した方がいいだろうか。いやいや、後から続けて「冗談だよ!」などと送るのは愚の骨頂ではないか。一発ギャグが滑った時に、自分で解説をするようなものだ。時間の経過と共に姿を現した弁解したい自分と対立していく。現実のインターフェースとしてのスマホは、依然として黒を放っている。
 
勝利したのは、弁解したい自分だった。あらぬ誤解を招いてしまっては、今後のバイト生活に支障をきたすのではないか、という理由が主な勝因だった。すぐさま、スマホを取り出し、弁解の文章を綴り、送信する。今日は出勤する日であったが、幸か不幸かAちゃんは出勤じゃない筈だ。上手く手に力が入らないまま、自転車を漕ぎ、バイト先に向かう。
 
 
一日中もやがかかったような勤務も終わり、スマホの画面を開く。通知欄にAちゃんの文字列を見つけ、鼓動が早くなる。先に帰宅し、落ち着いた状況で見ようとも思ったが、文章を開く手が早かった。
 
「気持ち悪いんで、辞めてもらっていいですか?」
 
言葉を理解するまでの静けさを超えて感情の大群が訪れる。後悔と疑問と悲しさと喪失感とその為大勢。
 
これは、シンプルに謝るしかない。この際、ご飯に行きたいなどもっての外だ。何回か車と接触しそうになりながら帰宅した。夕飯と入浴を済ませた後は、だいぶ落ち着き、事の顛末を振り返る。
 
今思えば、かなり失礼なことをしてしまったと思う。よほど仲の良い人でない限り、おじさん構文を受け取る側は困惑した筈だ。少し前に、友達と服を買いに行ったことを思い出した。その時、待ち合わせに現れた友達が、お洒落に気を使ったのか好みなのか、ダメージが過激なデニムを履いてきたことを思い出した。少し油断したら下着が挨拶してきそうな過激なデニム。困惑度合いとしては、そのまんまそれではないか。その時の自分もかなり困惑したことを覚えている。冗談なのか、本気なのか、話題で触れていいのか結論が出せず、終始落ち着かない買い物だった。あれと同じレベルだったのか……。
 
 
真剣に謝罪のメッセージを送信し、後日、バイト先で会った時も一言謝罪した。Aちゃんが自分を避けるような振る舞いをしなかったことや、許してくれたのは幸運だった。
あと、事前の実験で送り、返信がこなかった3人目の友達については「面倒くさいから無視した」とのことだった。助かった。
 
 
 
ここまで読んで頂いた男性に伝えたい。
意中の相手を誘う場合、おじさん構文はオススメしない。
 
 
 
 
***

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2021-05-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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