メディアグランプリ

落合博満の子育てはやはりぶっ飛んでいた


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記事:篁五郎(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「会話をするときには、なるべく「たのしかった?」とか「おもしろかった?」とか聞かないようにしているんです」
 
こう語るのは現在、声優として活躍している落合福嗣氏だ。落合福嗣といえば、父はプロ野球選手として三度の三冠王(打率・打点・ホームランがリーグトップになること)を獲得した落合博満である。
 
プロ野球選手として有名だった落合は家族揃ってメディアに出ることは珍しくない。幼い頃の福嗣氏もテレビに出演していた。ところが、その時の福嗣氏は目を覆うような行動を繰り返していた。言葉を選ばなければ「クソガキ」である。
 
天然パーマにポッチャリの体つき。子供ながらふてぶてしい風貌でインパクト抜群。「ボクのパパは三冠王だ!」と絶叫して女子アナの胸を揉むわ、スカートに顔を突っ込むわとひどい行動ばかり。他にも、お笑い芸人に「誰と肩組んでるんだよ!」とキレたり、「もっと面白いことやれよ!」と先輩芸人並みの説教をする始末。おまけに父・博満がフリーエージェントで巨人に移籍すると当時巨人で父の代名詞でもある背番号6を付けていた篠塚和典に対して、「その番号はパパのものだ。パパにやれよ」といちゃもんを付けるなんてエピソードも残されている。
 
当時を知る者からすれば福嗣氏がこんなにも変わったのかと感慨深い感情になってしまうのだが、そこに至るまで壮絶といっていい出来事があったのだ。
 
プロ野球選手の子どもであれば、幼い頃は野球を始めるパターンが多い。国民栄誉賞を受賞した長嶋茂雄氏の息子で、現在タレントとして活躍している一茂も元プロ野球選手。王貞治に次ぐ歴代第2位のホームラン数を誇り、監督として南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)でリーグ優勝、ヤクルトスワローズ(現・東京ヤクルトスワローズ)では日本一を達成した野村克也氏の息子・克則氏も元プロ野球選手だ。
 
ご多分に漏れず福嗣氏も幼い頃から野球を始める。ところが、それが福嗣氏を変えてしまう第一歩だった。落合が打てないと『お前の親父のせいで負けた』と言われるし、打ったら打ったで、いじめられる。『父ちゃんの子なんかに生まれなければよかった!』って叫んで、落合と取っ組み合いになったこともある。
 
中学時代に軟式野球部に所属していた福嗣氏は先輩から暴力を振るわれたという。チームのOBから、「おまえのオヤジの解説が生意気で気に入らん」と理不尽な因縁をつけられ、両ヒザを金属バットで殴られて割られたという。いじめは高校に入っても続き、父・博満のことで因縁を付けられては殴られたそうだ。
 
しかもたった1人で7人から袋だたきにされたりもしたため、一時は不登校になり、自殺も考えるまで追い詰められ登校拒否になってしまう。
 
父が落合博満というだけでイジメが繰り返される日々、いっそ「落合」の籍を抜こうとまで考えたことも。
 
そんな状況で母・信子氏はある日、いつまでも学校に行くのが怖くて登校拒否をしていた福嗣氏に信子氏が提案をしてきた。
 
「そんなに辛けりゃ一緒に死ぬよ。どうやって死ぬ?」
 
そう言って10個の自殺方法を提案してきたという。それを聞いた福嗣氏は「後始末が厄介だな」と思って自殺は思いとどまった。その夜、母に手紙を送る。
 
「ホントは死にたいのではなく、解決したい。でも、どうすればいいかが分からないから死にたいという表現になったんだ」
 
そうしたためて枕元に置いた。それを知った両親は「できるサポートはしたかったし、そのためのお金は惜しまない」と決意をし、息子がやりたいことをやらせるようにした。大学にも進学させたし、ロシア留学もしたいと言ったらサポートをして。途中で投げ出しても決して怒らずに息子の話を聞いたという。
 
「どうしてそんなことをしたの?」
 
それは落合家での子育て方法だった。子どもが暴れても、ご飯をぶちまけても「コラッ!」と怒ることはしない。必ず「どうしてそんなことをしたの?」と聞くようにした。
 
なぜなら子どもには子どもなりの理由があるからだ。それを知って、どうしてやってはいけないのかを説明して納得させる。それが落合家の教育方針だった。
 
そして何かあると「どうだった?」と感想を聞くようにしている。「面白かった?」「美味しかった?」ではない。「どうだった?」だ。
 
「美味しい?」「面白い?」と聞くと結論が二つになってしまう。それではどちらでもないときに子どもは答えられない。だから自発的な意見や思いを言えるように「どうだった?」と聞いているという。
 
そんな両親の下で育った福嗣氏は大学在学中に結婚。卒業後に専門学校に通って声優の道を歩んだ。これもすべて自分で「こうなりたい」という思いから決めたこと。両親は反対することなく全面的にサポートした。
 
「オレらがオマエの面倒見られる間に、自分でなりたいものをじっくり探せ。そこが一般家庭とウチとの最大の違いだ」
 
父・博満氏は息子にこう言ったという。現在、声優として存在感を示している福嗣氏に父は「自分で(やりたいことを)見つけたというより、母親の力。父親は何もしてない」と語り、母は「やりたいことは何でもやらせた。でも最終的にはこれで生きて行くというのを探せたから…。好きなことが一番です」と振り返った。《終わり》
 
プロフィール:篁五郎
現在、天狼院書店・WEB READING LIFEで「文豪の心は鎌倉にあり」を連載中。
 
http://tenro-in.com/bungo_in_kamakura
 
初代タイガーマスクをテレビで見て以来プロレスにはまって35年。新日本プロレスを中心に現地観戦も多数。アントニオ猪木や長州力、前田日明の引退試合も現地で目撃。普段もプロレス会場で買ったTシャツを身にまとって打ち合わせに行くほどのファンで愛読書は鈴木みのるの「ギラギラ幸福論」。現在は、天狼院書店のライダーズ俱楽部でライティング学びつつフリーのWEBライターとして日々を過ごす。
 
 
 
 
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2021-05-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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