恋人から友人に変わっても
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:西片 あさひ(ライティング・ゼミ超通信講座)
地図。
この言葉を聞くと、皆さんはどんなことを思い浮かべるだろうか。
小学生や中学生の時に授業で使っていた、あるいは旅行に行く時に目的地までの行き方を調べるために買ったとか、そんなところだろうか。
言ってしまえば「教材」、あるいは「道具」。
そんな風に考える人が多いと思う。
しかし、私にとって地図とはかけがえのない存在。
長い間、そばにいて、私を支えてくれているのだ。
出会いは、およそ20年前。たしか小学校1年生の時だ。
「これをあげるよ」
父からあるものをもらったのだ。
表面に車のイラスト、裏面に地元の道路地図が書かれた下敷きだった。
当時、父は食品メーカーに勤めており、営業でいろいろな場所に出向いていた。
営業ということもあり、いろいろな企業や団体と取引をしていた。
その下敷きも、きっと取引先からもらったものなのだろう。
ちょうど、私が持っていた下敷きが壊れたタイミングだった。
父からしたら、軽い気持ちで私にくれたのだろう。
買うよりはいいだろう。それくらいに。
しかし、私にとってはそうではなかった。
「なんて、世界は広いんだ!」
そんなことを心の中で叫んだことを今でもよく覚えている。
当時、私はとても引っ込み思案で、おとなしい子どもだった。
特別、誰かと仲が悪いわけではなかったし、いじめられているわけでもなかった。
ただ、とても気を使っていた。
家族にも友人にも自分の気持ちを言えないでいた。
7歳当時の私でも、とても窮屈な気分なのが分かった。
「なんか辛いなあ」
そんなことを日々感じていた。
そんな時、この下敷きに出会ったのだ。
地元の県の全市町村名が書かれ、さらに線と番号で国道が示されていた。
何の変哲もない地図入りの下敷きだ。
しかし、これまでほとんど遠くに出かけることのなかった私には、とても衝撃的だった。
自分が住んでいる県はこんなにも多くの市町村があったんだ。
道がこんなに、たくさん伸びているんだ。
目の前に光が差した気がした。
自分の殻に閉じこもっていた私を外に連れ出してくれたのだ。
子どもながら、世界ってこんなに広いのだと感じた。
それから、地図にどっぷりはまっていった。
もらった下敷きは、授業中も宿題中も、そして寝る時も肌身離さず持ち歩くようになった。
父に聞いたり、学校の図書室に通ったりして、行ったことのない市町村や国道について調べるようになった。
これを繰り返していたら、自然と知らないことを調べる癖がつくようになった。
小学5年生の時、教材として地図帳が配られた。
日本全国、そして世界の国や地域が載っている地図。
下敷きの地図以外で、初めての地図。
「今度は、どんな場所が載っているのだろう?」
手に取った瞬間、ワクワクが止まらなかった。
下敷きと同じように、地図帳を遊び道具として使った。
先攻と後攻に分かれ、適当に開いたページの中から、一個の地名を選んでそれを当てるという遊びだ。
私はこの遊びを地図当てクイズと名付け、積極的にクラスメートをクイズに誘った。
このころになると、引っ込み思案やおとなしい性格は影をひそめるようになっていた。
まさに、地図さまさまだ。
中学生、さらに高校生と年齢を重なるうちに、地図好きに拍車がかかった。
修学旅行の時は、出発する前に目的地の地図を入手し、どんな国道や鉄道が通っているのか、どのルートを通ったら早く着くのかと研究するようになった。
「この道は国道○○号線って言うんだよ」
修学旅行当日、そう生き生きと話す私の様子は、今も友人の間で語り草になっている。
大学進学で東京に行くことが決まった時は、まず最初に下宿先のまちの地図を購入した。
「相変わらず、お前は地図が好きだな」
あきれ顔で、そう私に言う父の顔が今も忘れられない。
まさに、地図とは恋人同士のような関係だった。
しかし、これまでの関係が変わるときがやってきた。
大学生になると、高校生までの生活から一変した。
サークル活動にバイトと、今までよりも関わる人の数が格段に多くなった。
それに伴い、興味のあることが増えてきたのだ。
食べ歩き、飲み会、そして旅行。
自然に、地図に触れる時間は少なくなっていった。
新しく地図を買うこともなくなった。
だんだんと地図と疎遠になっていくのが分かったが、悲しくはなかった。
「地図以外にも新しい趣味ができたからいいや。むしろ、マニアックな趣味から離れてよかった」
そんなことすら思うようになった。
それから、何年か経った。
就職し、仕事の合間に、食べ歩きや地域活動に参加するなど過ごしていた。
しかし、ある時、壁にぶち当たった。
仕事にもプライベートにもモチベーションが上がらなくなってしまったのだ。
ぼーっとして、家に引きこもる日々が多くなった。
そんな日々が続いたある日。
気付いたら、私は手に取っていたのだ。
もう過去のものとしていた地図を。
開いてみているとなんだか心が穏やかになった。
「無理をしなくていいんだよ」
そんな言葉をかけてくれているようだった。
それからというもの、私は再び地図を開くようになった。
昔のように、頻繁に開くわけでもなければ、肌身離さず持ち歩くわけでもない。
ふと気が向いたときに見る程度だ。
しかし、開くたびに私の好奇心を刺激してくれる、世界が広いんだと教えてくれる。
恋人から、友人へと関係性は変わった。
しかし、今後も地図は私にとって気の置けない仲間となっていくだろう。
そう思えてならないのだ。
***
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