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メディアグランプリ

本を閉じて旅に出てみたら「忘れていた夢」を見つけた話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:月之まゆみ (ライティング・ゼミコース 平日コース)
 
 
文章を読むことが好きな人は、いつか自分も書きたいと思うのではないか。
 
本を通して他人の思考や世界観を知りたいと思う人は、いつか自分の思考も表現したいと思うのではないか。
 
何のために私たちは読み書きを習うのだろう。
メールやビジネス文書を作るためだけに言葉を費やしているのだとしたら、少し惜しいように思う。できれば自分の心に宿った何かを誰かに伝える手段として「書く」ことができれば少し幸せではないだろうか。
 
私は子供のころから読書が好きだった。
小学生のころは休憩や放課後になると、友達と話すより、図書室にこもって自分の知らない世界を見せてくれる本と過ごすことを好んだ。
電車通学となった高校では、朝の通学で読書に夢中になるあまり、そのまま駅を通り越し、一時間目の授業をまるまる休んでしまうこともあり担任教師を悩ませた。
注意されながらも学校の授業より心を揺さぶられる本を読む方が、価値があるように思っていたからだ。
 
ところが社会人になり、ある本に出合ったことで本に対する興味が潮をひくように消えてしまった。
きっかけは劇作家である寺山修二が書いた「書を捨てよ。町に出よう」との出会いだ。
本の内容とは別に、タイトルが私のなかで一人歩きしてしまった。
 
これまで本を通じて知的充足感や情操が満たされ、英知にふれる希望、そして無限の情報に出会うことができた。
 
その一方で本に没頭した何千時間の間に、車窓の外の現実の世界で、日々、打ち上がる現実のできごとを見過ごしてきたのではないかと疑ってしまったのだ
 
本はしおりを挟んだまま、閉じられた。
そして本を読むことをやめてしまった。
現実の世界を見過ごすことを恐れ、本が読めなくなってしまった。
 
そしてかなり長い時間が過ぎた。
 
本を避ける長い眠りから覚めるきっかけになったのは、イギリスのハワースにある女性作家、ブロンテ博物館を訪れたときのことだった。
 
エミリー・ブロンテは「嵐が丘」の小説を書き、30才でこの世を去るまで、そのほとんどをハワースの田舎町で過ごした19世紀の女性作家だ。
 
私はこの小説に出会った時、小説を読む間、見たこともないヒースの荒涼とした大地を吹き抜ける風の音が耳からはなれなかった。
日本では想像できない3世代にわたる激しい愛と復讐の物語は、土地に縛られ生きた者にしか書けない情念が下敷きになっている。
 
ハワースの駅を降り、19世紀から変わらぬ陸橋をこえる。
緩やかな坂をのぼりきったところに、教会の牧師館でもあったブロンテ博物館が木陰に
守られるように建っていた。
小さな間取りの部屋を見て回る。室内は質素と倹約がうかがえる内装で、当時の生活がそのまま再現されていた、
 
心を動かされたのは、小さな台所だ。
料理につかった大きなカマドのあるすすけた暗い部屋の中央に、木造りのテーブルが置いてあった。
シャーロットとエミリーの姉妹はそこでよく小説の話をしていたとガイドが話した。
そしてその小さな台所でエミリーは「嵐が丘」の小説を書いたと知った。
 
彼女の想像力のつばさは小さな台所を飛び出し、小説の力を借りて、人の心の真理の世界に到達した。
「嵐が丘」はその土地でしか生まれない「愛」の深淵の物語だ。
だからこそ世紀をまたいでも、今も風化せず世界中で読み続けられている。
 
本は、やっぱり素晴らしいと思った。
 
ブロンテ博物館は、日本からわざわざ9200キロも超えて訪れるべき場所ではないかもしれない。しかし彼女が書いた小説は9200キロを超えて、日本の読者にヒースの景色を想像させ、人間の内面にわきあがる感動の物語を届けてくれている。
 
ブロンテ博物館を訪れる前、ナショナル・トラストになっている小説の舞台となった土地や周辺の丘を歩いてみた。
6月の初夏にちかい暑い日だったので、冬に吹きすさぶ「正気でいられない風」もなく穏やかだった。なだらかにつづく丘隆のヒースの大地に、咲くエリカの紫色の花が力強く咲いていた。
 
小一時間ほど散策したが丘はどこまでも続く。
そろそろ引き返そうかと迷いはじめていると、一人の旅行者とすれ違う。
いったん通りすぎたが引き返し私は男性に尋ねた。
「この先に何かある?」
 
男性は笑って答えた。
「特別なものは何もないよ。あるのはImagination(想像)……」
そして指で頭をコンコンとたたくジェスチャーをした。
 
イマジネーション。博物館を訪れて私は、その意味を理解した。
 
Imagination(想像力)
Passion(情熱)
Obsession(執念)
 
本を生むための力。その作家のエネルギーの結晶にふれた時、それまで心に長く覆っていた雲が晴れ、私は「本」という星を再び見つけることができた。
 
それからも時は流れた。
昨年の4月、緊急事態宣言の初出により私の仕事もリモートワークに切り替わった。
 
仕事ができるようクローゼットの代わりになっていた部屋の一角を整理していると、窓からのながめの良さに気づいた。
通りの並木や、春になれば小さな公園の桜も見える。
それまでは気づかなかった景色だった。
よし、ここに机を置いてみよう。
そう思ったら、いてもたってもいられずに家具屋に走った。
思えば、自分で選ぶ机は先延ばしにしていた長年の夢だったではないか。
 
自分のためのライティングデスクは、少し値段ははったが、部屋から雰囲気は一変し、自分の机に座って窓の日常の景色を眺める。特別なものはないが心が満たされた。
 
そして机に座る生活は私のライフスタイルを変え、興味のあったことを少しずつ学び始めた。
今では、余白一面のワードに向き合って「書く」ことを始めている。
 
「書く」ことで私の記憶の底に沈み堆積していた「忘れられし夢」が文章となり、その言葉は時に、自分と知らぬ誰かをつなげいだ。
 
それはクリスマスのスノードームのなかでキラキラと舞う金粉のように、つかの間、自分の世界観に言葉が輝きながら舞い上がって、心を明るくしてくれる。
書き終われば、やがて何もなかったように日常に沈んでいくかもしれないが、私にとっては歓びになりつつある。
 
脳科学では「書く」ことで前頭葉にある客観的に物事を見るメタ認知を鍛えてくれると同時に、不安のもとになる脳疲労も防いでくれる効果があると記事に書いてあった。
 
先の見通しに不安が多い、今の時代だから、読むことが好きなあなたへ伝えたい。
あなたがもし少しでも「書いてみたい」と思うなら、一度、ためらいを捨てて書いてみてはどうだろうか。
 
これが最初で最後と言いきかせて書いてみると、想像の翼はあなたが思う以上に羽ばたくかもしれない。
 
 
 
 
***

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2021-05-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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