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落合博満は誰も気づかない変化を見抜く目を持っていた


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記事:篁五郎(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
日本プロ野球界で前人未踏の三度の三冠王(ホームラン・打率・打点がリーグトップ)を獲得した落合博満は恐ろしい目を持っている。現役時代からストライクとボールを見極める目が高く、見逃し三振をしたことがほとんどない。
 
パリーグで約30年審判を務めた山崎夏生氏はこう語る。
 
「僕も判定で『あっ、しまった』と思ったことがありました。インコースの外れた球をストライクと言ってしまった。そしたら(落合は)こっちをちらっと見て、『おい、外れてただろ』と。もちろん、その後は暴言などもなくスッと帰っていきましたけどもね。やっぱりわかっているなと思いました」
 
それだけボールを見る目が良かったのだから三度の三冠王を獲得するのも当然である。その見る目は現役を退いた後にも存分に発揮された。
 
それは1998年、落合が評論家として初めてオリックスブルーウェーブ(現・オリックスバファローズ)のキャンプを訪れたときのこと。当時のオリックスは、4年連続首位打者のプロ野球記録(当時)を持つイチローが看板選手で多くの評論家でごった返していた。落合同様、前人未踏の記録を作ったイチローはキャンプでも自己流調整が認められており、コーチも仕上がりを聞くくらいしかできなかった。評論家もイチローの打撃を見て「今年もイチローは心配なし」と太鼓判を押す。
 
そんな中、落合だけがイチローを心配していた。ニュース番組の企画でイチローと対談した落合はこう尋ねた。
 
「シーズン中の一番良い状態を100として今はどれくらい?」
 
イチローは素直に答える。
 
「シーズンの一番良い時と比べるならまだ50~60くらいだと思います」
 
すると落合は自分が見た懸念材料をイチローへ伝える。
 
「心配しているのは俺だけだと思う。あのねトップの位置が低くて浅いの」
 
ピンときたのかイチローはすぐに答える。
 
「(打ちにいく)始動が遅れ気味の割れができていない?」
「そう。きちんとトップができた状態ではなく、入る前に振りにいっているの」
「つまりここ(投手の側を向いた足の挙げ具合)が浅い?」
「全然浅い。それと右肘の張りがすごく浅い」
 
どういうことかというと、バッターは打つときに捕手のほうに重心を取り、バットを思い切り引いて打つ体勢を作る。その時に投手の側を向いている腕は弓をギリギリまで引っぱったかのように腕を引く。当時のイチローは足を上げてボールが来るのを待つので足も腕同様に思い切り引き上げてタイミングを取る。
 
その二つができている状態がイチロー本来のバッティングである。
 
落合は、キャンプの打撃練習を見ただけでそれを見抜いてアドバイスを送ったのだ。これに気づいたのは落合だけである。コーチも評論家も気づかない部分に見抜いた落合の目であった。
 
そして監督になっても恐るべき慧眼を発揮している。それは2010年、落合が中日ドラゴンズの監督として指揮を執っていたときのことだ。試合が始まった2回の表巨人の攻撃中に落合が動いた。歩み寄ったのはドラゴンズの選手が守るグランドではない。
 
試合を裁く主審の元だ。早くも投手交代か?と球場がざわつくが、落合は一言二言心配そうに声をかけた。事情を飲み込めない巨人の原監督は、何事かと球審のところに飛んできて確認し、テレビ中継者や観客も訳が分からず、騒然となった。他の人々にとっては、その程度の認識しかなかったのだ。
 
二回の裏に主審は体調不良でベンチに引き下がり、二塁の塁審を務めていた審判が主審となり、控えで来ていた審判が二塁の塁審を務めることになった。
 
なんと落合は主審の体調不良を見抜いて交代を勧めていたのだ。試合後の監督インタビューで落合は交代を勧めたことを明かした上でこう語った。
 
「あれはヘタしたらゲーム中に倒れている。それを見てやるのもオレらの仕事じゃないか。あそこで倒れて万が一、何かがあったら中止になっているぞ。誰かが言ってやれば変わりやすいんじゃないの」
 
あの日、主審の体調不良を見抜いたのは落合だけ。中日のコーチ、選手はもちろん、相手チームの監督・選手・コーチ、取材に来ていた記者、球場に詰めかけたファン、同僚の審判もわからなかったのだ。
 
落合は監督になってから常日頃から球場全体を見て試合を見ており、普段とどこか異なるところはないかと日々研究を重ねていた。選手は普段のフォームと違うのか、どこか故障をしてしまっていないか、疲れで動きが鈍くなってないかなど細かい仕草でクセまでも見て調子を確認していた。その目は審判にも向けられていた。だから気づくことができたのだ。
 
それだけ恐ろしい目と洞察力を持った落合は歴代の中日ドラゴンズ監督の中で最も輝かしい成績を残した。8年間でリーグ優勝4回でドラゴンズ唯一のリーグ連覇。二回しか達成していない日本一のうち一回は落合が監督のときである。
 
2011年に監督を解任されて以降、落合は野球の現場に戻っていない。もう一度現場で監督の姿を見たい男の一人である。
 
 
 
 
***

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2021-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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