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憧れのヒーローになるには、けっこうしんどかった

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:シダタカシ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
3年前の春。
職場が変わった。
場所ではなく人が。
 
新しく来た上司は女性で、以前までいた男性の上司とは、タイプがまるで正反対。
それまでの上司は、人当たりや面倒見がよく、いつもにこやかに気を配り、困りごとがあると力になってくれたり、フォローしてくれたりして素晴らしい人だった。
その上司が晴れて引退となり、後任として来たのがその人だった。
 
「〇〇です。よろしくお願いします」何の変哲もない挨拶からのスタート。
みんなは、以前の上司を心から尊敬していたし愛していた。そんなところに飛び込んできたのだ。今思えばアドバンテージがあったと思う。
でも、それを差し引いたとしても、第1印象はよくなかった。
白髪交じりの髪の毛に、やや猫背。どうも暗い印象。
リーダーシップを発揮するというよりも、何事もなく平穏無事に自分の任期を終えたい。
面倒ごとは起こさないで。そんな、印象がうかがえた。
声には出さなかったが、そんな空気感が往々にしてあった。
不安の中でのスタートだった。
 
そんな状態から、1週間ほどが過ぎた。
当時ぼくは、職場ではリーダーとしてみんなをまとめる立場にあった。
何か困りごとがあると、まずはぼくのところに来る。
「人が足りないんだけどどうしましょう?」
「会議の資料これでいいですか?」
「トラブルなんです。助けてください」
みたいな、業務的な困りごとの相談がほとんどだった。今までは。
 
ところが、その相談内容が徐々に変わってきた。
「こんなことを言われたのですが自分には無理です。どうしましょう?」
「話を聞いてくれないんです。自分で何とかしろと言われちゃって」
「こっちのこと何も分かってくれないんです」というような、上司に対する内容。
はじめのころはそれでもよかった。しかし、だんだんと愚痴や文句、悪口になってきた。
まずいな、と思いつつも、上司に直接何かを言えるわけでもなく、自分でできることを一生懸命やりながら、みんなをフォローした。
しかし、それが続くとなるとかなりしんどい。
去年からトラブルの量が減ったわけでもなく、今まで上司が対処していたことも、ぼくのところにやってきて、おまけに上司の不満や愚痴を聞き、そのフォローまでしなくてはならないのだから。
ぼくのすることは圧倒的に増えているのに、涼しい顔してさっさと帰る上司。
いつの間にか、その上司が帰った後に、愚痴や不満の声を聞くのがお決まりのパターンになってしまった。
 
さて、そんなこんなで半年ほど経ったころ。
相変わらず職場の雰囲気も良くはない。ホントにぼくは困り果てていた。
実は、職場にはぼくと同じ立場の人がほかに3人いた。
しかし、その3人はあまり我関せずといった感じで、自分のことを済ませると、さっと帰ってしまう。
確かに、立場は一緒だったけれども、リーダー的な役割をしていたのは、ぼくだったので、困りごとがやってくるのは当然なのだが、それでも、もうちょっと何とか手伝ってよ、という思いが、少なからずあった。
いやむしろ、同じように愚痴や不満を言っているのである。
これは、いったい何なんだ。オレばかり大変な思いをしているのに……。
怒りに近い感情も出てくるようになった。
あぁ、ホントにもう無理だな……。
そんな気持ちになってきて、がんばろうという意欲が徐々に失われつつあったのだった。
 
まさに、そんな時だった。
 
ぼくは、なにか困りごとがあったときには自分自身を内省するようにしている。
それまでも、幾度となく自分を振り返り、トラブルや困りごとをどうするか考え、自分なりの対処法で何とかしてきた。
けれども、今回は違った。どうして、こんな状態になっているのか。誰も助けてくれないのか。
自分の何がそうさせているのだろう?
やり方ではなく、自分自身の根本の在り方を見つめ直す必要があったのだ。
自分の何がそうさせているのかを見つめ直す。何度も何度も、自分の内側の感情を掘り下げていった。
すると、あることに気が付いた。
 
ぼくは前任の上司のようになりたかったんだと。
誰からも愛され尊敬され、どんな困りごとも「おれにまかせろ、何とかするから」って言える人になりたかったんだ。だから、今その状態を作っているんだ。今のこの状況を招いているのは、だれでもない自分自身だったのだ。
驚きの発見だった。
 
そこから、まずあの3人と話をした。
今の状況。自分のところに来る不満の声。そして、自分一人では無理なので助けてほしいと。
すると、意外なことを言われた。
「そんなことになっているとは気が付かなかった。気づいてあげられなくてごめんなさい」という言葉だった。
あぁ、そうか知らなかったんだ。
知らないふりして、我関せずではなかったんだ。
 
次にその上司とも話をした。
愚痴や不満が出ていたのは、うすうす感じていたようだが、そんな大変な状況だとは知らなかったということだった。
ただ、上司には上司の考え方があって、できることは自分たちで解決してほしいし、できるなら自分がいなくてもいい状態が一番望ましいということだった。
確かにその通りなのである。
そして、その上司の考え方も、みんなと共有した。
 
ぼくらは、上司に頼りきっていたのかもしれない。
素晴らしいリーダーシップを発揮し、相談すれば、すべて何としてくれる。
それが、上司のあるべき姿だと、いつの間にか勝手に、あるべき上司像を作り、依存していたのかもしれない。
そしてその姿に憧れ、自分自身もそれになろうとしていた。
まさに、自分が望んだ状態を作っていたのは自分だったのだ。
 
2年後。その上司も晴れて退職ということになった。
あの気づきから、何かが変わった。
別にその上司の仕事のやり方が変わったわけではない。
それでも、困ったときには同じ立場の仲間が助けてくれるようになった。
職場で愚痴や不満が出たときには、さりげなく諭してくれるようになった。
徐々にそういった声もなくなってきた。
トラブルが起こっても、自分たちで解決できるようになった。
始めはどうなることかと思ったが、上司の退職の日には、みんなで拍手をし、気持ちよく感謝の気持ちをもって送り出すことができた。
みんなで助け合える、新しい職場の形を作り上げることができたのだ。
 
そして、その時のことを振り返ると、何より自分の力になった2年間だったことに気が付いた。
そうなのだ。以前の上司がいたときよりも、ずっと自分自身の力になったのだ。
全ては、自分自身が創っている自分の世界なのだという気づきとともに。
 
 
 
 
***

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2021-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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