メディアグランプリ

そろそろ、人生のログアウト準備を始めようか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

河瀬佳代子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
50代を迎えて最初にやったことは、遺書を書くことだった。
 
……と言っても、たぶんめちゃくちゃカジュアルな遺書だ。こと細かく、あれがああでこれをこうして、と指図する難しいものではない。そもそも次世代に引き継げるような財産など全然ないし。
 
それでも私にもしも何かがあっていきなりこの世からいなくなってしまったら、遺された人たちが確実に困ることが絶対に発生する。だから時間がある今のうちに、遺書でも書いておくか? と思ったのだ。
 
 
 
今の時代、なんらかの形でインターネットに繋がっている以上、避けては通れないことがある。
それは「ログイン」だ。
 
スマートフォンでもPCでも何でもいいが、何かのサイトに登録するためには必ずと言っていいほど初回登録しないといけない。
その時に必ず訊かれるのが、メールアドレスとパスワードである。
 
メールアドレスはまあいいとして、問題はパスワードだ。
「半角英数字記号で大文字小文字も区別されます」
「使い回したパスワードは危険です」
「自動生成した強力なパスワードを使用しますか?」
なんて画面に言われてしまうと、
「めちゃくちゃ面倒くさいわ……」
と思ってしまう。
 
パスワードを考え直すきっかけになったのは、去年、Googleから警告があったからだ。
 
「あなたのパスワードが第三者の侵害により漏洩しています。至急パスワードを変更してください」
 
えー、まじ?
実を言うと、それまでいちいちサイトごとにパスワードを考えるのも面倒だったので、15年ほど前に家にPCを導入してネットを使い始めた頃に作ったパスワードを、いくつものサイトで使い回していた。それはやっちゃいけないとわかってはいたものの、どうせわかりっこないと、たかを括ってズルズルと同じパスワードを登録し続けていたという体たらくである。
 
パスワード漏洩による実害はなかったものの、およそ200件ものサイトのパスワードを変えないといけないのには参った。さて、どうするかな。
 
もしかして、ネットを始めた初期にサイト登録に散々使っていたメールアドレスも漏洩しているのか? と思ったので調べてみたらこれも漏れていた。これもいろんなサイトでずーっと使い回していたからなあ。まだセキュリティについてそんなに真剣に考えてなかった時期だったし。いい機会だから、登録アドレスも変えちゃおう。
 
そんな訳で、まずは登録しているサイトのメールアドレスを変えた。
実はメールアドレスは10個以上持っているのだけど、サイトの登録用は特定の1つしか使っていなかった。今回漏洩したアドレスはもう使わないと決めて、まずは登録サイトのジャンルごとに新しくメールアドレスを割り振って使い分けることにした。エンタメ系サイト、ショッピングサイト、金融系サイト、仕事用サイト。大きく分けるとこんなものだろうか。それぞれ違うアドレスを割り振ったので、届くメールの数も調整できてよかった。
 
そしてパスワードを変更する番になった。
なんせ200以上のサイトなので、パスワードを変更するのならネットが自動生成したパスワードの方が楽だけど、それだと難しすぎて私が全然覚えられない。「覚えなくてもいいんですよ」とPCは言うしその方がセキュリティも高くていいんだろうけど、「あのサイトってああいうパスワードだっけ?」と私が覚えている方がなんとなく安心する。信じられないかもしれないけど、私は全てのサイトのパスワードを自分で考えて変更した。手作業で200以上のパスワード変更なんて、他人から見たらアホとしか思えないかもしれないが無事に完了している。そして今のところ、漏洩の報告はない。
 
 
 
パスワードといえば、自分の周りでも何人かが、
「パスワード忘れちゃったのよね」
「パスワードを定期的に変えるようにって言われてて、あれってすごいめんどくさいんだけど」
と言っているのを聞いたことがある。
 
中でも極めつけは次男だ。
彼はスマートフォンの機種変更の時に、それまで使っていたiPhoneにせず、Androidに変えるというのだ。
「なんでAndroidにするの? iPhoneだったらバックアップから復元すればいいから簡単にできるじゃない?」
「いや、それが、Apple IDとかパスワードを忘れたんだよ」
「なんだそれは……」
そんなことを、私よりも若い世代が平然と言ってのけている。
「若いんだから頭柔らかいでしょうが! 記憶できるでしょうが! 覚えてないって信じられんよ」
「わかんないもんはわかんないから」
新しくApple IDを作ればいいという選択肢があるのに、それをせず次男はAndroidに機種変更をした。そんな光景を見て、本当に大事なもののパスワードを忘れること、わからなくなってしまうことの重大さを知った。
 
今やスマートフォンやPCには恐ろしいくらいの個人情報が詰まっているから、それが開けられないというのは大変なことだ。私にもしものことがあって誰も私のPCやスマートフォンにアクセスできなくなったら、いろいろな手続きに困るだろう。そして沢山のサイトのパスワードもわからなくなると遺された人が困る。だから今のうちに、こっそりとパスワードをまとめたものを遺書として残しておくことに決めたのだ。どこに隠してあるかは家族にしか言っていないけど、それがあるというだけで少し安心する。
 
人がこの世からいなくなった後、その人が広げたネットの風呂敷を畳むのはたぶん遺された人で、そしてそれは想像以上に難しいに決まっている。せめて遺される人が困らないように、人生からのログアウトの準備くらいは今からやっておかないと、とは思っている。
 
 
 
 
***

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2021-05-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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