ととのいました!
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:佐藤 みー作(ライティング・ゼミ超通信講座)
「まさか今年のゴールデンウィークも自粛を余儀なくされる」とは……
そんなつぶやきを沢山聞いた。
新型コロナウィルスが蔓延し始めてから1年以上経ってしまった。
この間に変わったものの一つは間違いなく働き方であろう。
ルール、ツール、文化の3つが変わると世の中が変わると言うそうだ。
例えば、明治維新を取れば、それまでの幕藩体制というルールが崩れ、戦いのツールは刀からピストルに変わり、一騎打ちから一毛打尽に変わった。そして、文化には西洋の波が押し寄せ、人々は着物を脱ぎ捨て、洋服を着始めた。
そんな岐路にまた我々は立たされているのではないか。
例えば、働き方は出社自粛という「ルール」により、ウェブ会議の「ツール」が浸透した。けれど、どんな働き方の「文化」が生まれたのか?生まれようとしているのか?
それを追求する為に社内で今までにない働き方に社員それぞれがチャレンジしてみる試みが始まった。
私のこれまでの働き方と言えば、あたふたと子供を起こし、朝食を食べさせ、着替えをさせ、その合間に自分の準備を整え、ぎゅうぎゅうの満員電車に「時間と満員電車はぎゅっと押し込めばなんとかなる」と身体を押し込めて仕事に向かっていた。
出社の制約が解けた今、「何かこう余裕のある感じを体験して仕事に向かってみたいな」
そう思い、私は近所にあるとある施設を予約してみた。
神楽坂からちょっとはずれ、坂道を上った住宅街の小道を進むと70年代に建てられた建物をリノベーションして造られたであろうその施設はこじんまりとして派手さもなく「神楽坂」というなんとなく小洒落た雰囲気にもとても馴染んでいた。
予約の時間よりも少し早く到着すると感じのよいスタッフが出迎えてくれた。
馴れ馴れしくもなく、冷たくもない程よいフレンドリーさにも今どきを感じる。
体温チェックを受けて、施設に案内される。
本来はグループで利用する部屋を今日はわたし一人で使えるという。
グレーで統一されたその部屋はなんとなく冷たい感じもしたが、かすかに香ってくるウッディな香りと耳が慣れてくると聞こえてくるリラクゼーション効果をもたらすであろう音楽に不思議と心地よさを感じた。
メイクを落とし、シャワーを浴び、木でできた小部屋に入る。
そう、ここはサウナ。
フィンランド式というそのサウナは私が今まで使ったことのある温泉施設のサウナとはちょっと違った。
入り始めはちょっと「ぬるいかな?」と思うほど、もの足りなさを感じる。
まずは手始めに5分ほど試してみる。
でも違う、テレビや砂時計を見ながら汗をかきかきじっと我慢する温泉施設のサウナのあの感じがないのだ。
進められたサウナハットもなんでかぶっているのかよくわからない。
スナフキンのコスプレみたいに感じた。
何かが違うのだろう……
そこで、次の10分は教えられた通り、備え付けの柄杓で水をすくい、サウナストーブの石にかけてみる。
すると蒸気が上がり、いわゆるロウリュが発生した。
水の中に仕込まれていたのか、ストーブの中に仕込まれていたのかウッディなリラクゼーション系の香りもただよってきた。
するとどうだろう、今まで汗をかく準備さえも感じられなかった肌からだんだん汗がにじんできた。
面白くなって、昔映画で見たキョンシーのように両腕を上にあげて観察してみると面白いくらいに汗が丸い粒のように浮かんでくる。
いつもサウナに入る時、水風呂はちょっと苦手だった。
せいぜい入れて腰位までで、首までつかっている人をみると心臓が止まりゃしないかとハラハラどきどきしたものだった。
この施設には水風呂はなくシャワーだった。
家庭用の5倍はあるかと思われる蓮の花の軸のようなシャワーヘッドの下に立ち、まるで滝行でもするかのように意を決して水しかでないシャワーを浴びてみた。
冷たい水にどきどきしながらも意外と大丈夫だった。
そして、3回戦目のサウナに入った。
もう手慣れた感じでサウナストーブの石に水をかけ、ロウリュを堪能する。
水で良く濡らしたサウナハットがようやくその威力し発揮してくれ、熱風から髪の毛を守ってくれるのが良く分かった。
面白いぐらいに汗はでるが、そんなに熱い感じがしない、でも身体が温まる感じがする。
サウナに入る前に買ったお水はあっと言う間に飲みほしていた。
水しかでないシャワーを浴び、名残惜しむように最後の5分またサウナに入った。
にじむ汗を眺めながら思った。
「確かに汗も出て気持ちが良い感じもするが、これが世間で言ういわゆる『ととのう』ってやつなのかな?」と全くととのっている感じがしないまま思った。
サウナから出て、最後のシャワーを浴びて髪の毛を乾かしている間も汗が止まらない。
パウダールームに通されて、お化粧をしようにも汗が止まらない。
新しい働き方の実践なのだからと、来る前はサウナに併設されているコワーキングスペースでサウナ後は朝ご飯を楽しみながらちょっとお仕事をしてみようかと思ったが流れ出る汗にそれどころではなかった。
次回の予約を進められるが汗まみれでテカテカの顔を見られるのが恥ずかしく、顔に噴き出る汗を隠すようにレセプションでチェックアウトし、逃げるように施設をあとにした。
自転車にまたがり、登ってきた坂道を一気に下ると、風が心地よい。
止まらなかった汗が乾くのを感じながら心の底から思った。
「ととのいました!」
これが新しい私の働き方になるかどうかは未知数である。
また気づけば、時間にも空間にもぎゅぎゅうに押し込められながら仕事に行く毎日に戻ってしまうかもしれない。
でも、今までとは違う働き方を一つ見つけられたのは確かであり、また試してみたいと思った。
そしてこんな風に新しい文化というのが生まれるのかもしれないとも思った。
お勧めします、仕事前の朝サウナ。
***
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