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メディアグランプリ

「T」との遭遇


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:まるこめ(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
私は激怒した。数日前の自分に会えるなら、思いっきりぶん殴ってやりたかった。
ネットで買い物をするときは、確定をポチッと押す前に、確認をする。
たったそれだけのことなのに……どうしてできなかったのだろう。
 
酒をいつもより飲んでいたから?
うとうとしていたから?
 
いや、そんなことはなかった。
お酒は嗜むくらいにしか飲んでいなかったし、夜は遅い時間でもなかった。
 
「これ、どうすんのさ……」
 
届いた荷物から出てきた「それ」を持つ私の手は、自身への怒りで震えていた。
返品か? うーん、でもめんどくさい。
じゃあ、使う? いやぁ、家族がびっくりするよなぁ……
 
数日前、デザインが気に入ってポチった「それ」は、上下セットでお得だったのだ。
可愛いすぎず、派手すぎず、落ち着いたデザイン。私の好みだ。
「それ」は地味な消耗品だが、あまり安物だと物持ちしないことがある。ある程度、そこそこくらいのものを、セールを狙って買う必要が私にはあった。セール品を狙うため、やむなく値段を妥協するか、デザインを妥協するのかは常だった。
けれども数日前、どういうわけか「デザイン」も「コスパ」も良い、どストライクと言っても過言じゃない「それ」に偶然出会えたのだ。そりゃあ、嬉しかった。久々に良い買い物ができるなぁと、心の底から喜んでいた。
 
そう、包みから出すまでは……
 
楽天から送られてきた「それ」は、数日前に私が頼んだもので間違いなかった。
可愛いすぎず、派手すぎず、落ち着いたデザイン。あの日、見たものだった。
「上」はよかった。まごうことなき、私があの日注文したものだった。
だけど……「下」は違っていた。
「これって、Tじゃん……」
 
正面から見たデザインは、可愛すぎず、派手すぎず、落ち着いた「それ」だった。
だけど、後ろから見たそれは、どう見ても細い布が縦に一本伸びているだけ。
アルファベットの「T」を模した下着……「Tバック」とアラサーの女が初めて遭遇した瞬間だ。
 
「どうすっかなぁ、これ」
 
Tバック……若くてセクシーなお姉さんが履くならわかるけど……
セクシーとは程遠い私が履くのはどうなんだろう。誰に見せるわけではないけれど、女性の「下着」は、自分自身のテンションを上げる「アイテム」といっても過言じゃない。本当にどうでもよければ、下着なんて、子供が履く綿100%の白いやつで十分なのだ。「上下」デザインの揃った「見えない戦闘服」を身に纏うことで、私たち女性は家でも外でも休みなく戦うことができるのだ。だから「戦闘服」選びは重要なのだ。その中でも「Tバック」は少々、敷居が高い「戦闘服」だと思っていた。私みたいなパンピーじゃなくて、もっとこう、選ばれた戦士のような「カッコ良い女性」が履いてそうだと思っていた。
 
「あなたには、まだTは早くてよ」
 
なんて言われそうだけど、これも何かの縁だろう。
私は、渋々目の前の「T」を履いてみることにした。
 
初めは、尻に食い込む「T」の縦ラインが気になった。
世の美女たちは、こんな違和感を覚えながら、外で何食わぬ顔をして生きてるのかと心底驚いた。けれども驚いたのも束の間のことだった。
 
「あれ……なんか、良いぞ?」
 
違和感は、ほんの一瞬だけだった。
確かに「安心してださい、履いてますよ」と言えるのだが、履いてないくらいの開放感だ。
それに、どノーマルな形状だと、服を着ればモノによっては「明らかにこれは下着のライン」が見えていた。それが「T」だと全く服に響かないのだ。
そして、なんといっても今まで布で隠していた部分が見えるので……
 
「これが現実か……」
下着をつけた状態でも体のラインがしっかりと見えるので、自分自身の身体を嫌でもみることになる。自分自身の身体を、改めてしっかりと見つめ直す、とても良い機会を「T」が私に与えてくれたのだ。
 
ずるいよ美女……なんでこんなすごい「アイテム」使った方がいいよって言わないのさ……
 
敷居なんて高くない。どうせ、他人に見せるものじゃないんだから……もし、自分に自信がない人にこそ「T」を履いて欲しい。たとえ、嫌なことがあろうとも心の中で
 
「だからなんだ。それでも私はTを履いているぞ」とマウントを取ってはどうだろう。
 
多少のことも、これで笑って飛ばせるようになるんじゃないだろうか。
たった数平方センチメートルの布面積だけで、自分を「アゲる」ことができる「下着」の世界。このところ、ネットで「決まったもの」だけ購入していたので、たまには店頭で買い物をしてみるのも悪くないな、と思った。もしかしたら「T」以外にも、まだ私の知らない「最強アイテム」が下着売り場には潜んでいるかもしれないと思うと、ワクワクが止まらない。
 
ちなみに、女性ものだけしかないと思っていたTバック……
もしやと思って調べてみたら、どうやら男性ものもあるらしい。
 
どなたか履いてみたあかつきには、こっそり「どうだったか」教えて欲しい。
 
 
 
 
***

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2021-05-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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