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日本一危険な投入堂への参拝


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記事:古田綾子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
鳥取県の投入堂をご存じだろうか?
日本一危険な国宝と呼ばれるこのお堂は、山の中腹の断崖絶壁にある窪みに建てられている。
 
お堂の周りは、上下左右どこを見ても垂直に切り立った絶壁。三徳山三佛寺の開祖が法力でもって平地から山に投げ入れたと言い伝えられているそのお堂は、古くから修験道の修行の場として開かれてきた。
 
一体どうやってあんな場所にお堂を建てたのだろうか。見れば見るほど、本当に法力で投げ入れたとしか思えない。人工物でありながらも周りの自然と美しく調和し、不思議な魅力を放つ投入堂。雑誌でその姿を見た瞬間、心が鷲掴みされた。
 
「実際に自分の目で見てみたい」
その思いは日に日に大きくなっていった。
 
投入堂は一人での参拝が禁止されている。死亡事故が起きるほど危険な場所にあるからだ。
入山の前には、服装と靴のチェックがあり、スカートやスニーカー、サンダルでは入山できない。動きやすい服装で、荷物をリュックにまとめ、両手が自由に使える状態にしておく必要がある。
 
こうした入山条件を読むと、軽い気持ちでチャレンジするものではないことがよくわかる。投入堂への参拝は、あくまでも観光ではなく修行であるという姿勢で臨むべきだろう。
 
夫も私も登山は未経験。安全に参拝するためには、入念な準備が必要だった。
 
参拝登山の2か月前から体力づくりを始める。近くの山に登り、必要な装備を揃えていった。
登山靴選びは特に慎重に行った。難所が続く往復約2時間の登山を考えると、登山靴は成功を左右する重要なアイテムだ。何足も試し履きして厳選し、正しい履き方と歩き方も教わった。
 
推奨されている持ち物は、手袋やタオル、飲み物。これ以外に速乾性のインナーを着用するのがお勧めだ。汗で衣服が濡れると体温が奪われ、無駄に体力を消耗してしまうからだ。
 
準備を万全に整え、いざ当日。
靴のチェックが無事に済み、参拝登山受付所で入山届に記入する。
参拝者には輪袈裟と呼ばれるたすきが渡される。それを首からかけて山に入る。
 
朱色の門をくぐり、橋を渡る。すると、いきなり急な斜面が現れた。
目の前に立つ岩の壁。自然にできた岩の隙間や窪みに手をかけ、足場を確認しながらほぼ垂直に登っていかなければならない。事前にいろいろな人の旅行記を読んでいたが、誰もこの岩の壁には触れていなかった。ということは、これくらいの岩登りは序の口なのだろうか。
前日に降った雨で落ち葉がぬれ、滑りやすくなっている。開始早々、本気度が試されている気がした。
 
その後も難所は次々と現れる。斜面に露出した木の根を掴んで登るカズラ坂。1本の鎖を頼りに岩場を登るクサリ坂。両側が断崖の狭い道、馬の背・牛の背など。
十分に休憩を取りながら、1時間ほど進んだ。
 
ついに、投入堂との対面のときがやってきた。山道の最後のカーブを曲がると、急に視界が開けた。
 
10メートル程見上げた断崖絶壁の岩の窪みにすっぽりと収まる投入堂。
その気高い姿は自然と美しく調和し、じっと見ていると、周りの岩が投入堂を守るために生えてきたような気がしてくる。
一体どうやって建てたのだろう。お堂を支える柱は、すべて異なる長さだが、美しい間隔で並び、絶妙なバランスを保っている。見れば見るほど謎は深まるばかりだ。
人知を超えた力が存在するのかもしれない。そんな気にさせられる。
 
圧倒的な存在感。写真で見るのとは比べ物にならない感動。
この姿を見るためなら、険しい山を登る価値は十分にあるだろう。
投入堂を目にした瞬間、それまでの疲れがすっと消え、心が穏やかな気持ちで満たされた。
 
あなたが高所恐怖症でなければ、是非お勧めしたい見所がもう一つある。
投入堂までの行程のちょうど真ん中にある文殊堂は、崖からせり出すように建てられている。お堂の周りには回廊があり、靴を脱いで一周することができる。
 
そこから見える景色はまさに絶景。手すりのない幅60センチほどの回廊に腰をかけ、足をぶらぶらさせた。足下から広がる原生林は、はるか遠くの山々まで続き、雲が切れて陽が差し始めると、木々の緑がさらに鮮やかに輝く。果てしなく広がる視界は、まるで空に浮かんでいるような心地よい気分になれた。
 
投入堂に向かう道中の岩場には、修験者が永年にわたって踏みしめた足跡がくぼみとなって残っている。その足跡に自分の足を重ねるようにして歩くと、古の修験者と自分がつながっているような感覚になる。
 
こうして投入堂のことを書いていると、もう一度行ってみたいという気持ちがふつふつと湧いてきた。
コロナの終息が見えたら、また体力づくりから始めようと思う。
 
 
 
 
***
 
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2021-06-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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