メディアグランプリ

「カレーに込めたスパイス」


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記事:まるこめ(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
月に数回、強烈に
 
「あぁ、カレーが食べたい」と思うことがある。
 
若い時は「早く流し込めて、且つ栄養になりそう」という理由だけで、お昼はほっともっとのカレーばかり食べていた。それなのに、休みになれば友人とランチにカレーを食べていた。
 
下手すると、月にカレーを食べたのは何日あるんだろう?
 
それでも突然、禁断症状が出たように
 
「あぁ、カレーが食べたい」と思ってしまう。
それは、ほっともっとのカレーを食べても、カレー専門店のカレーを食べても治るわけじゃなかった。止まらない「カレー食べたい欲」は、お金を出しても治らなかった。
 
「今日のは玉ねぎがなかったけん、いつもより美味しくなかぁー!」
 
ゴリゴリの博多弁で、母はとても悔しそうな顔で続けて
 
「キャベツも入っとらんけん、これは納得いっとらん……」
 
と、早口でまくし立てた。
唯一、お金を出さずに食べられるカレー。私は母のカレーが大好きだ。
渋い顔をする母を横目に、スプーンの上に取り上げた一口サイズのカレーを口に運びこむ。
 
(あぁ、これだなぁ……やっぱりこれだよなぁ)
 
冷蔵庫内の一部に、いろんな種類のカレールーや、カレーフレークが堂々と鎮座している。
シーフード、オーソドックスな野菜たち、さっぱりとトマトや鶏肉……その時その時の具材に応じてルーを複数使い分けて、母はカレーを作ってくれる。
 
1日目にして、すでに「2日目かな?」と思うようなドロドロとしたカレー。
お金を出さずして食べられるはずの、母が作るカレーでないと、私の中で燻る「カレー食べたい欲」の火は消すことができなかった。
 
お金を出して食べられるカレーは、もちろん大好きだ。
CoCo壱のカレーは普通に好きだ。ほっともっとのカレーはコスパが良いし、スリランカカレーのシャバシャバ感は家では食べられないから尊い。最近「映える」感じのスパイスカレーも、一皿で複数種類の味を楽しめるのはお得だし、何より「映え」まで勝ち取れる。
 
 
それなのに、母のカレーには勝てない。
もっと言えば「玉ねぎが入ってない」状態の母のカレーの足元にも及ばない。
おまけにそれがタダで食べられるなんて、もう「母カレーしか勝たん」としか言えない。
どうして、母の作るカレーは美味しいんだろう?
その答えは、母の料理に対する姿勢にあった。
 
「分量? そんなんテキトーたい」
 
分量はさておき……今も一緒に料理をする時に、母は色々とアドバイスをくれる。
 
「あー! そこほら、そげん切ったら食べにくかろうが」
 
「こればこげんしたら、美味しく食べられるやろ?」
 
特に、こういう隠し味を入れると美味い。こういう味付けがマストだ。そんなことは、彼女からはほとんど教えてもらったことはない。いつも、教えてもらうことは「食べる側にとってどうしたら良いか」だ。常に、どうしたら食べやすい、どうしたら美味しく食べられるか、相手のためを考えて行動する姿勢だった。
娘のために具材の大きさを小さくしたり、にんじんが嫌いな父には極力細かくしたにんじんを入れないなど、確かに「当たり前」に、機械的にやってはいた。だけど、常に意識してできているかといえば、そうとは言い切れない。
カレーを作るだけでも「暑いから、さっぱりトマトカレーにしよう」と、決してワンパターンではなく、食べる側がどうだろう? と、母は常に他人に気を配っている。
一度だけ、母が作らないようなカレーを作ってみようと思ったことがあった。ネットのレシピを見様見真似で作ったバターチキンカレーは、確かに美味しかった。手間暇かけて作ったそれは、本当に美味しかった。だけど、それでもやっぱり違う。
母の作るカレーは、手間暇をかける以上にもっとこう、家族を思う「愛」が詰まっているような気がした。カレーを作るのは、正直手間がかかる。ジャガイモの皮を剥くのは、面倒臭い。にんじんはなかなか火が通るのに時間がかかる。ルーを入れれば、鍋底が焦げやしないか気を配らないといけない。他の料理に比べて、一つ一つの工程がとても大きな声で言えないけど、ちょっと面倒だ。それでも「美味しい」って言ってくれる家族がいるから、料理は頑張れる。「美味しい」はプライスレスな対価だ。
 
口に頬張ったカレーは、今回もやはり美味しかった。
 
「玉ねぎ、入ってないって言ってたけど……普通にうまいよ?」
 
「いやーこれはママのカレーの味じゃ無いな」
 
本人は、とても不服そうだ。それでも、私にとっては絶品だ。
お店じゃ決して味わえない「家族愛」のスパイスが詰まったカレー。
おかげで、まだ当分は親離れができそうにない。
 
 
 
 
***

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2021-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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