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一目惚れのミュールは危険な男だったのか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:晏藤滉子 (ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
その時、目が合って呼ばれたような気がするの・・・・・・。
 
物から選ばれるような買い物をする時がある。
私自身、そのような「物との出会い」を一度だけ経験している。
 
15年くらい前だろうか、当時気に入っていた靴のセレクトショップでパンプスを物色していた。このお店はインテリアも含めてとても雰囲気が素敵。お店に一歩入るだけで、まるでフランスにいるかのような気分になる。
 
お目当てのパンプスは直ぐに見つかった。
ごく普通だけれど、どんな洋服にもしっくり馴染むようで万能選手になりそうな予感。良い買い物をしたと満足だった。ラッピングの間、他に陳列されていた靴に目を向けた。
 
「ふーん、他にも素敵な靴ばかり。目の保養だな」
 
私は、こういったタイミングで商品を手に取ることは先ずない。
買い物は終わったし、思い残すことはない。後は購入したパンプスを大事に抱えて帰宅するのみだ。
 
そんな時、棚の右端にあった一足のミュールと目が合った。
目が合ったというと、まるで人のようだが・・・・・正に目が合ったのだ。
私は無意識にミュールを手に取り、履いてみた。
 
オーダーメイドのようなフィット感。デザインも素敵だ。何より私の足が、実際よりも150%増しに綺麗に見える。そのミュールに、私は一瞬で心を掴まれてしまった。
 
「素敵な靴・・・・・・でもこれを買っていいのかな」
私はミュールを履いた自分の姿を鏡越しに眺めながら迷っていた。
 
ミュールとはサンダルの一種。踵は固定されず、つっかけて履く形状だ。
私が心を掴まれたミュールは10センチのヒール。足の甲部分は浅く華奢なデザインだ。ヒール部分のラインも美しく、お見事としかいえない。いや、全部が素敵だったのだ。でも、問題はひとつだけある。
それは「一体どこへ履いて行けるのか」という現実的な問題だった。
 
このミュールでは、車で送迎&エスコート付でなければ悲惨なことになるだろう。電車に乗る、階段の上り下りなんて至難の業。大コケして周囲に迷惑をかえるのが目に見えている。重い荷物なんて持とうものなら、10センチヒールは逆ギレするに違いない。つまり、履いて生活している自分の姿が全く想像出来なかったのだ。
 
 
「ちょっと無理だよね・・・・・・」考えあぐねている私。
鏡の中で、私の足元に収まっているミュールは何だか寂し気だった。
 
 
物との出会いは、2種類あると思う。
一つは、「こういうものが欲しい」と条件をイメージして探しだす。
靴の場合だったら、先に購入したパンプスがそれに当てはまる。
仕事用のスーツやパンツに合わせやすい色で、ヒールは太目で5センチくらい。
駅で重い荷物を持っても走れるよう、そして長く履いていても疲れないもの。
その条件にピッタリなものを探し回るのだ。こう考えると、婚活で条件を設定するようなものかもしれない。
 
もう一つは、「一目惚れ」だ。
理屈や条件ではなく、「コレがいい!」と心を鷲掴みにされてしまう出会い。
これはある意味閃きであり、自由恋愛のようなものだ。
 
私自身、洋服や食器など買い物をする時は、「コレ!」という閃きを大事にする。
確かに条件付きで探した物は、安定していて裏切られることは少ない。
でも一目惚れで「ピン!」ときた物は、購入後の至福感が半端ないのだ。
配達される日が待ち遠しく、ラッピングを見ればニマニマしてしまう。
まるで恋する乙女だ。直感で「ピン!」ときたとはいえ、「それを使っている自分」は容易にイメージできる。ご機嫌で使っている未来図はすぐに頭に浮かぶものだ。
 
でも・・・・・・相思相愛になったミュールは「未来図」がどうにも思い浮かばなかった。まるで、好きで仕方がないけど一緒の未来がイメージ出来ない「危険な男」みたいだ。私の頭の中はカオスになった。
 
 
意識は、鏡の前の私に戻った。
ミュールを履いている私は150%増しに見えるな。このミュール、私を綺麗に見せてくれるよね。気分を上げてくれるよね・・・・・・、
そう呟いた私は馴染みの店員さんに伝えた。
 
「今日はこのミュールもいただきますね」と、
私は「未来図」が全く想像できないミュールを購入した。
 
その頃の私は、公私共に悩みの種が尽きず凹んでいた。自分の限界を打ち破りたくて闇雲に頑張っていた頃だった。頑張ることに疲れてしまうと「私なんて・・・・・・」と自己評価は低空飛行になるものだ。そんな時に出会ったミュール。鏡の中だけでも私のテンションを上げて盛り立ててくれる存在だ。靴として役に立たなくても、傍にいるだけで私を力づけてくれる存在を欲していたのかもしれない。
 
不思議な話だけれど、当時はミュールに選ばれたような気がしたのだ。
 
 
 
15年前に出会ったミュール。
現在も我が家の下駄箱の特等席に鎮座している。
当時は、履いている未来なんて想像出来ない! と思ってみたものの、今では適材適所、不動のポジションに収まっている。
 
洋服を新調した時など、「ひとりファッションショー」を姿見の前で繰り広げる時がある。 そんな時、ミュールは意気揚々と登場する。何と言っても私を150%増しに盛ってくれる存在だ。私のご機嫌も上々になる・・・・・・これ以上の適役はないだろう。
 
「危険な男」だと勝手に思い込んでいたら、実は優しいジェントルマンだったのだ。靴として外で活躍することはなくても、私を陰から盛り立ててくれる。
 
始めてミュールと目が合った時、「こんな素敵な靴を履きこなせるような女性になりたい」と閃いた。 この15年間、鏡の前に立つたびに当時を思い出させてくれる・・・・・・きっと私の最高なパートナーなのだろう。
 
 
 
 
***

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2021-06-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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