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松井秀喜が落合博満に「勝てない」と思った理由


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記事:篁五郎(「超」ライティングゼミ受講生)
 
 
松井秀喜といえば、読売ジャイアンツからメジャーリーグのニューヨーク・ヤンキースに移籍し、現在でも日本人最高記録であるシーズン31本の本塁打を打った伝説的な選手である。メジャーリーグのワールドシリーズMVPも獲得し、引退した現在もヤンキースのGM特別補佐として仕事をしている。今、ヤンキースの主力選手であるアーロン・ジャッジを育てた実績を持つほど打撃に関して見る目と技術論を持つ男だ。
 
その松井秀喜が日本人選手で唯一勝てないと悟ったのが落合博満である。
 
落合と松井の出会いは1994年。落合がフリーエージェントで中日ドラゴンズから読売ジャイアンツに移籍した年だった。当時の松井はプロ入り2年目の19歳。監督の長嶋茂雄が「松井秀喜を1000日で4番に育てる」と公言し英才教育を施している最中での出会いだった。落合は打撃の技術と実績を買われて長嶋茂雄に請われて巨人入りしており、4番としてチームを牽引する立場で入団をしてきた。
 
その落合が、よく松井にアドバイスを送っていたという。巨人の本拠地である東京ドームで試合が終わると他の選手はシャワーを浴びてさっさと帰るのだが、松井と落合はのんびりとお風呂に入って疲れを取ってから帰宅をするという。湯船につかっているときに落合から「お前、何だ。そのバッティングは」と話しかけられ、アドバイスをもらったという。それは松井秀喜がメジャーリーグへ行っても解消できなかった欠点でもあった。
 
松井は元々右投げ右打ちである。
 
小学生のときにあまりにも打ち過ぎるからハンデとして「左で打て」と言われて左打ちに転向をしたのだ。つまり利き腕は右である。落合は松井に「お前は逆方向にボールを打つときに右の脇が空くんだよ」と言っていたという。どういう事かというと、松井は打球を打つときに投手のほうを向いている腕(右肘)が身体から大きく離れている。落合曰く「あの打ち方じゃ、逆方向に強い打球は絶対に飛ばせない」という。なぜなら「ゴルフでいうスライス(左打ちなら弱々しく左方向に曲がっていく球)しか出ないんだ。それを治さないと向こうで30本打つなんて、とてもできないな」と断言をした。メジャーリーグで31本打ったから落合の予告は外れたわけだが、松井がメジャーリーグで175本打ったホームランのほとんどが右方向。左方向はほとんどない。
 
松井自身もそのことを自覚しており、落合が中日のゼネラルマネージャーを勤めているときにも旧知の記者に語ったことがある。記者がニューヨークにいる松井に伝えると「落合さんからはずっとそのことを言われてたなあ。それが作られた左バッターの欠点だって。右手が強すぎて、どうしても右手で(バットを)引っ張ろうとするからだってね」と修正できなかったことを認めた。
 
落合の特技でもある選手を見る目の本領が発揮されたエピソードでもある。しかし、松井秀喜が落合博満にかなわないと思ったのはそれだけではない。落合の4番としての姿である。
 
1996年、巨人は中日ドラゴンズとリーグ優勝をかけて死闘を繰り広げていた。首位を走る中日が絶対有利の中、巨人が猛追をし、最後の直接対決で勝った方が優勝となるところまで持ち込んだ。野球に詳しくない人も聞いたことあるかもしれない。
 
「10.8決戦」である。
 
日本プロ野球史上初めて「リーグ戦(公式戦・レギュラーシーズン)最終戦時の勝率が同率首位で並んだチーム同士の直接対決」という優勝決定戦が行われた試合を松井秀喜は3番として、落合博満は4番として戦ったのだ。
この年の松井の成績は打率314.、ホームラン38本、打点99と堂々たる成績。一方の落合は打率301.、ホームラン21本、打点は86と松井が落合をすべて上回っていた。
 
しかし、松井は「10.8決戦」で「落合さんには勝てない」と悟ったのだ。
 
この試合、松井はプレッシャーに押しつぶされたせいかいつもの実力を発揮できず。一方の落合は、先制のホームランを打ってプレッシャーを感じさせない働きを見せる。落合のホームランの後に、巨人が中日に同点に追いつかれる苦しい展開。3回に一塁にランナーがいるところで松井に打席が回ってくる。そこでなんと松井が送りバントを決めて次の塁へランナーを進めた。打席には4番の落合が向かう。ヒットで1点欲しいところで見事にタイムリーヒットを放ち、再び中日からリードを奪う。
 
このとき松井は打って欲しいところで結果を出す落合に凄みを感じたという。さらに松井を驚かす出来事が起きる。
 
4回に1塁を守っている落合が相手打者のゴロを捕球の際に足を滑らせて負傷してしまう。立ち上がることができずスタッフにおんぶをされてベンチへと落合が下がった。治療のため一旦試合を中断するも、立ち上がれないほどの怪我ならば交代するだろうと誰もが思った。
 
しかし、落合は負傷した足にグルグルとテーピングを巻いて戻ってきたのだ。ガチガチに固めてしまっているため普段通りに動かすことはできない。それでも優勝のかかった試合だからこそ戻ってきたのだ。
 
この落合の行動がチームに勇気を与えた。
 
そして松井は「落合さん勝てない」と実感したという。これは松井が2109年にテレビ出演した際に語ったエピソードだ。
 
「4番バッターというのは成績だけじゃないんです。チームのみんなは4番の背中を見ているんです。だから4番にふさわしい振る舞いをしないといけない。落合さんにあの試合でそれを教わりました」
 
松井秀喜は、それから日本を代表する4番バッターとしてメジャーリーグに挑戦をし、名門ニューヨーク・ヤンキースで4番を打つほどの打者になった。その影にいたのは落合博満の姿だった。
 
 
 
 
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2021-06-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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