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呼吸とヨガのおかげで変わった関係


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:KUMI(ライティングゼミ日曜コース)
 
 
「いつまで寝てるの」
 
「うー、だるい」
 
母と私の朝一番の会話はいつもこうだった。
結婚して家を出るまでの間、しょっちゅう繰り広げられた。
 
「私は血圧が低いのよ」と言い訳をし、起きられないことを正当化していた。
 
そんな私が今は毎朝目覚めると、呼吸法を始める。
自分を整えるためだ。
 
呼吸法といっても、朝から難しいことはしない。
ゆっくり息をするだけのシンプルなやり方だ。
胸を意識して、大きく呼吸する。ポイントは、丁寧に、だ。
 
これだけで、身体中の酸素が入れ替わって、新しい朝を迎えた!と感じられる。
 
そして、ついでに2つか3つのヨガのポーズをする。
時間にして30分ほどの習慣を続けている。短い時は10分ほどである。
 
ヨガは寝ころんだままできるポーズだけをする。ものぐさなの自分にはこれが合っている。
簡単なことでないと、面倒くさくなって続かないのが常だ。
 
しかも目を閉じたままなので、夢の中のような感覚で、とても気持ちがいいのである。
この習慣を始めてから、
「ああ、今日も生きてるなあ」とおおげさながら、毎朝思うようになった。
 
私という娘は、親の思うようには育たず、反抗するかのように、親の望まない結婚をした。
うまくいくと思っていたが「ほらみたことか」と言われるような離婚をしてしまった。
 
案の定「自分で選んだのだからね」と言われ、言い返す言葉はなかった。
母はいつも正しい。だから勝てない。母には負けっぱなしだ。
だけど、負けても私の人生だよ、私の思うようにさせてよと思っていた。
 
出産して2年足らずで離婚したので、一人で子育てしながらいろいろな仕事をした。
母との心の距離はどんどん大きくなっていた。親には親の人生があるのだから、代わりに保育園に迎えにいくなどはしないと言い渡されていた。自業自得なのだなと納得していた。
 
幼い子供はよく発熱する。そんな時は会社に呼び出しの電話がかかる。居づらくなって転職したことも数回あった。
 
ストレスが溜まっている自覚はなかった。
それを知らせてくれたのは、不眠症という症状だった。
 
夜まったく眠れなくなって思考が回転しなくなる。まともに物が考えられなくなったのだ。
悲しくないのに泣けてくる。どうしたんだ自分!
それでも親を頼ることを自分自身に許可できなかった。
 
夜眠りたい。その一心で、仕方なく病院の門を叩いた。
その時出会った医師がすすめてくれたのが呼吸法だった。
 
「呼吸ですよ、呼吸」
「あなたは自分で治せますよ。今、一時的にこうなってるだけ」
 
こう続けられた。
「いい加減はええ加減、です」
 
この言葉は、のちに自分の座右の銘になった。
「そうだ、いい加減でいいのだ」
「私、いける!」
まったく単純だ。
 
私はその医師と出会ったあとに、一念発起し、ヨガの勉強を始めた。
16年前からヨガの講師として仕事をしている。
なぜヨガを仕事にまでしようとしたのかというと、自分の体調をヨガで立て直すことができたからだ。それを伝える人になりたい、と思ったのである。
 
ここであらためて皆様におすすめしたい。
朝の30分をどう過ごすかで、一日が変わる。
いい息をすれば、いい生き方に風向きが変わる。
いい変化が続いていくと、一年を通して、どの季節も気持ちよく感じられるようになっていくのだ。
そうなると、見る物や感じる物が違ってくる。
 
生きていれば、いいことも悪いこともある。落ち込む日だってある。
私自身も、ヨガ教室を続けてきて、生徒さんが来ない日なんて「私は必要な存在なのか」と問うてしまうこともあった。教室は山ほどあるし、私がやらなくても、ヨガをしたければ行き場はいっぱいあるよね、と自分を肯定しづらい日もあった。
 
また母に「ほらみたことか」と言われるのも嫌だった。
 
でも、そんなときに習慣である呼吸に戻り、目を閉じて自分を感じると、また穏やかな状態に戻ることができた。
冷静に物事を考えられるようになるのである。
 
焦っている時は息が浅い。よく吐けていないのだ。
これはでは肺の一部しか使っていない。
すると、古い空気が溜まったままだ。身体がよどめば、心もどんよりするわけである。
心と身体はつながっているのだ。
部屋の換気と同じように、自分の身体も換気をしてあげなければ、きれいな空気が流れない。
そんなことを、徐々に身体を通して感じられるようになっていった。
 
私は何のためにヨガの講師をしているのか。
落ち込んだら目を閉じてただただ呼吸を続けた。
すると人の笑顔が浮かび上がってきた。
そうだ、思い出した。
 
ヨガをするようになって体調が良くなった人達に「ありがとう」と幾度言われて、そのたびに「よかったですね」とどれだけ一緒に喜んだかを。
 
一緒に呼吸をしているとき、「一緒に生きてる」と感じるのだ。
「自分一人で生きているのではないよ」と教えられている気がした。
吸う、吐く、というそれだけの呼吸が、とても奥深く感じ、
大切に呼吸しようと思えるのだった。
 
誰かと繋がり、誰かの役に立っていることが、自分の生きる力になっている。
自分が病んだからこそ得られた人の縁がある。息をすることを意識しなおして、生きなおすことができた。
 
いつしか、母に認めてほしいという気持ちよりも、自分から歩み寄ろうと思えるようになっていった。
呼吸が深まると身体の緊張もゆるむ。ゆるむと許せるようになるのだと実感した。
 
離婚前後から関係が良くなかった母だったが、最近自然な会話ができるようになった。
意外にも1週間前に初めて一緒にヨガをしてくれた。もちろん楽な格好で、あおむけのままのポーズだ。
二人でゴロンと寝転んでるとなつかしい感じがした。
ヨガが終わっても母はそのまま起き上がらないで
「こういう風にしてるから、あんたは健康なのねー」と笑顔で言った。
 
涙が出そうだった。
 
母に長生きしてもらうためのヨガを一緒にしよう。
もしかしたら、初めて親孝行らしいことができるのかもしれない。
えらく遠回りした。
 
もうずいぶん色々なことを忘れてしまった母。ヨガしたことも覚えていないかもしれない。
「あのときはごめん」
と言っても
「なんのこと?」って言うだろうな。
まあいいや、一緒にヨガしたら無言の仲直り。
実は、毎朝行なっている呼吸は「勝利の呼吸法」という。
勝利の女神が微笑んでくれたのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2021-06-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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