自分でいたければ、勇気を振りしぼって本心を出せ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:後藤 修(ライティング・ゼミ超通信コース)
「すみません! さんざん悩みましたが、僕はこの活動に参加しません……。すみません……」
目の前には親しい先輩の知り合いがいた。僕は勇気を振り絞って頭を下げていた。
僕の心臓の鼓動は高速列車のように早く打っていた。
20年前のある春の休日。桜が開花する頃の事だった。
僕の携帯が鳴った。声の主は当時、会社の部活でお世話になっていた先輩だった。
開口一番、「おまえ、ちょっと俺と会わないか? 面白い話があるんだ」
僕は「はあ……。わかりました。行きます」何も疑問に思わず、先輩が提案した待ち合わせ場所に車で向かった。僕は少し心をもやもやさせながら……。待ち合わせ場所に着き、先輩に会った。
先輩は「ここから離れたところに事務所があるから、行こうぜ」と言って、僕を引き連れていった。そこは、何かを製造する工場の一室だった。違和感を覚えながら、僕は先輩とともにあそこにあった椅子に座った。やがて、筋肉質で体が大きい人が1人入ってきた。先輩の知り合いの人だった。その人が言った。
「初めまして。ここまで来てくれてありがとう。実は君に話があるんだ。彼から聞いているかもしれないが、俺は風呂の湯を浄水して、風呂湯として再利用する器具を販売している。それで、君にも参加してもらいたいと思い、彼に呼んでもらったんだ。」
僕は(はあ?)と思った。まったく寝耳に水だった。どうしてこんな展開になるの?
と心で反芻していた。その人は話し続けた。「これを販売して売れたら、出来高で報酬がもらえる仕組みになっているんだ。だから、売り慣れたら、お金がたくさん手に入る。どう?
やらないか?」
僕はますます気分が悪くなった。要領も得ぬまま、先輩に連れてこられて、初めて会う人に浄水器を売らないかと誘われることなんてありえないわ! と思った。しかし、ここで断るのもお世話になっている先輩にも悪いなと思い、「少し考えさせてくれませんか? 数日待ってください」と答えた。
その事務所を出て、先輩の車に乗せられ、帰っていた。その途中に先輩が話した。
「おまえ、なにか疑っているかもしれないけど、あいつはそういう奴じゃないよ。だから、前向きに考えてくれよ」と言った。僕は小声で「わかりました……」と答えた。
僕は家に帰った後、悩んだ。(どうも気が進まないが、いつもお世話になっている人の頼みだ。
だから、これはやるしかないな)と思い、先輩に誘われた活動に参加することを伝えた。
僕は本当に何かを頼まれると断れない奴だった。ここまでは。
2日後、先輩から電話が来た。出ると、こんなことを言った。
「お疲れさん。明日、お前に浄水器を買う契約書に署名してもらうから、前行った事務所に行こうぜ」
僕は承知して、先輩と一緒に前行った事務所に行った。そこに着くと、以前会った先輩の知り合いが契約書をもって僕を待っていた。顔を合わせるやいなや、「ありがとう! 今日はこの契約書に署名してもらったら、ホテルへ行こう。そこで、浄水器を販売している仲間の会合があるんだ。
ぜひ、来てよ。」僕は何とも言えない不気味な気持ちになった。だが、誘いに乗り行った。
そこに着くと、僕が感じた不気味は現実となった。
ある部屋にたくさんの関係者が集まっていた。僕はその人達の顔を見るとぞっとした。参加者のほとんどは金銭欲に心を奪われた表情をしている人達だった。僕は恐怖を感じた。こんな人たちと活動したら、どんなことが起こるかわからない、得体のしれぬものを感じた。そう思った直後に会合が始まった。その中の1人が「この浄水器を売るのはネズミ講に見えるかもしれないが違うものだ。浄水器を売って、人生はバラ色になるんだ!」
僕は訳が分からなくなっていた。その場からはやく離れたかった。そして、会が終わった後、僕は決めた。(こんな活動に参加したら、とんでもないことになる。この活動に参加しないことを伝えよう)
しかし、その日は先輩の知り合いに言えなかった。やはり、先輩に悪いなと思う気持ちがぬぐえなかった。その日は心をくすぶらせながら、家へ帰った。
その翌日、僕は先輩に電話した。少し話があることを伝えた。
先輩は「わかった。今日、ちょうど近くのホテルで会合があるから来いよ」と言った。
僕はわかりましたと答え、現地に向かった。その途中、僕は憂鬱だった。できれば断りたくない。でも、これは断らなければいけない。僕の心がこの活動をするなと言っているから。こんなことをしたら、ろくなことが起こらないから。
僕は迷いを振り切ってホテルへ入った。そして、会合場所にすぐ向かった。
すると、先輩の知り合いを発見した。僕は彼のもとにに走っていき、彼の前で立ち止まった。
そして、言った。
「すみません! 今回もらった話ですが、僕は活動に参加しません! 本当にすみません!」
深々と頭を下げた。「なんでよ。いい話なのに。あ、親からかなんか言われたの?」彼は不思議そうに僕に返した。
僕は言った。「いえ、僕にはこの活動は向かないと思いました。だから、正直に気持ちを伝えたくて」僕は顔を紅潮させて言った。彼は少し黙った。そして、「わかった。諦めるわ」と言ってくれた。僕が渾身の勇気を使って発したことは彼に伝わったのだ。
やがて、先輩が現れた。僕は事の次第を話した。先輩は「そうか……」と言って黙ったままだった。そして、「まあ、お前がそう思うのなら仕方ないな」と少し浮かぬ表情をして僕の顔を見た。僕は、「悩みましたが、自分の心に従いました! すみません!」と言い、その場を立ち去った。
それ以後、先輩と先輩の知り合いの人からは何も連絡がなくなったのだ。
あれから、20年。あの時、親しかった先輩とは連絡をとっていない。僕の‘告白’以降、完全に疎遠になってしまったからだ。とても残念な気持ちが今もある。だけど、僕は後悔していない。それは自分の心を大事にしたからだ。たとえ、親しい人からの誘いでも、自分の意思を貫き行動をしたことは正しかったと思う。
今、僕は自分の心に従って、自分の夢に向かって行動している。それは心から望むことに従っている。本当に毎日ワクワクしている。これが、健全な心の使い方なのだ。
親しい人から何か誘われたり、頼まれたりするとなかなか断りにくいものだ。しかし、1度立ち止まって考えてみよう。それが自分の心が描くものと合致しているかを。そうでなければ、たとえ親しい人でも自分の本心を伝えよう。大いに大いに悩んだうえで決断しよう。
そうすれば、あなたの思いは伝わる。何年後かには、あなたが生きる時間はすがすがしい時間で満たされているはずだから。
***
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