メディアグランプリ

骨折で思い出した肥溜め

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記事:ばる(ライティングゼミ・平日コース)
 
 
先日、4年振りに運動したら骨折した。
適度な運動がてらに誘われたフットサルに参加したら足首を骨折した。
自分が学生時代にサッカー部だったことを取引先の人たちに披露しようとしたら、開始5分で骨折した。
わざわざ東京から埼玉まで電車で1時間半もかけて行って、ただの捻挫だと思ったら、2箇所も骨折した。そして、靱帯も損傷した。
 
僕は、骨折した日の夜に、自宅に帰った時の妻の顔が忘れられない。妻の表情には、愛する夫が骨折した足を引きずりながら帰ってきたことに対して心配する感情と、働き盛りの33歳の自分の夫が週末の遊びで骨折したことに対しての軽蔑の感情の両方が出ていた。自分でも情けないと思い、しっかり謝った。ただ、謝ったのは心配と軽蔑した妻の顔を見たからだけではない。今までの妻なら心配と軽蔑の2種類の感情だったのかもしれないが、その時は、もう1種類の感情が入っていることに僕は怯えたため、すぐに謝った。もう1種類の感情とは、憎悪の感情である。
なぜ妻の顔に憎悪の感情が表れていたかというと、骨折の1カ月前に僕ら夫婦には子供が産まれていたからである。僕ら夫婦はなかなか子宝に恵まれず、結婚6年目に待望の子供が産まれた。子供が産まれたことは最高に喜ばしいことで、幸せいっぱいである。ただ、僕が骨折した日の子供は、まだ産まれて1ヵ月しか経っておらず、泣く、寝る、おっぱいを飲むことぐらいしかできないモンスターなのだ。妻は出産直後の体に鞭を打って、家事をしながら昼夜関係なく2時間おきにおむつ交換とおっぱいをあげている。子供が寝付かないときは、寝室で4時間も悪戦苦闘をしていることが度々ある。また、出産後に、母親はホルモンバランスが変化することにより、マタニティブルーズという現象が起きることがある。マタニティブルーズとは、出産直後から1ヵ月間ほどは、倦怠感がでたり、不眠症になったりと母親の精神状態が不安定になることを言うらしい。マタニティブルーズは期間が限定的なことが多く、僕の妻も産後から1ヵ月程が経とうとしていたため、少しは治まってきていたが、治まりきってはいない状態であった。そんな心身ボロボロの状態のところに、夫が妻と子供を置いて朝からフットサルに出掛け、夜帰って来ると、足を包帯で巻かれ、松葉杖をついて帰ってくるのである。家事、育児に加えて夫のお世話まで追加されたのだ。今、その情景を思い出しただけでもゾッとする。
しかし、その時見た心配と軽蔑と憎悪が入り混じった妻の顔からなぜか僕は懐かしさを感じていた。すぐには思い出せなかったが、少ししてからその懐かしさを思い出した。それは、僕が昔見た母親の顔と似ているものを感じていたからである。そんな母親の顔を見たのは、僕が小学生時代に肥溜めに落ちた時だった。肥溜めとは、牛馬の糞尿を腐らせて肥料にするために糞尿を貯蔵する穴である。僕は小学校の友人と森の探索をしていた時に、その日はなぜかいつも以上に森の奥まで行き、探索していた。歩いていると突如、肥溜めに落ちた。足から落ちて、あっという間に首まで沈んでいき、もうダメだと思って、たまたま手を伸ばしたところに岩があったため、その岩につかまり何とか生還できた。その後、先に上がった僕が友人も引き上げ、2人は無事に脱出した。当時の僕の身長が140㎝ぐらいだったが、おそらくそれ以上の深さはあったと思う。今思うと奇跡の生還である。足から首まで糞尿だらけになった僕と友人は、異臭を放ちながらそれぞれの家に帰った。当然、家に入るわけにもいかず、インターホンを鳴らし、母親を呼んだ。しかし、出てきたのは母親だけではなかった。その日、母親は数人の友人を呼んで家でちょっとした集まりをしていたため、母親と数人の友人も一緒に出てきたのだ。まさにその時の母親の顔が、今回僕が見た心配と軽蔑と憎悪の顔だった。世間体を気にする母親ではなかったが、お洒落をしていた母親たちの前に異臭を放ちながら糞尿だらけの僕が立っていたのを見た時に、母親は思わずその顔をしてしまったのだと思う。
当時の僕は好奇心が抑えられずに、森の深くまで探索した結果、失敗をし、母親からそんな顔をされてしまった。今振り返ると、その顔は非常に怖かったはずなのに、僕は懲りずにその後も何度も森の探索をしていた。子供とはそういうものなのかもしれない。親から怒られると分かっていたことも、楽しそうに何度も夢中になって遊んでいた。
いつからかその好奇心を抑え、みんながやっていないことや怒られることは自分もしないように生きている気がする。まだ学生の時は、人と違うことをしたいと無茶なことをしていたが、社会人になってからは特に無意識的にみんなと一緒をしている気がする。
フットサルをして骨折することが良いこととは流石に思えないが、妻に委縮し、もう怒られたくないから、もうフットサルをしないという人生は楽しいとは思えない。当然ながら、社会人として守らないといけないルールはあると思う。ただ他人や妻の顔を見て怒られないように、嫌われないように生きていくような人生を歩みたいとは思っていない。子供の頃は、何度怒られてもどんどん湧いてくる好奇心を抑えられず、色んなことに挑戦していたはずなのに、今は周りの目を気にして、失敗しないような生き方をしている気がする。せめて自分の子供には、周りに怯えている父親の背中ではなく、色んなことに挑戦して楽しんでいる父親の背中を見せたいと思った骨折事件である。
 
 
 
 
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2021-06-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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