夫婦や家族で意見が違うときは
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:岡田ゆかこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「この洗剤、泡立たないんだけど……」
食器を洗っている夫が言う。
夫は泡をモコモコにして洗うのが好みらしい。
私が好んで買っている食器洗剤は液体せっけんだ。泡立ちは他の洗剤に比べると良くないが、泡切れが良くて手も荒れないし気に入っている。
夫に泡立たないと不満を言われた私は、どんな言葉を返そうか考える。
せっけんで洗うメリットを力説するか、彼の意見を受け入れて夫好みの食器洗剤にするか。自分の人生に関わる大きな選択肢はともかく、生活習慣や好みの違いは些細な事に見えるかもしれないが、意外ともめる原因になるのだ。
どうしようか、と考えながら、過去の同じような場面を思い出してみる。
数年前、私は夫と海外に暮らしていて、妊娠出産のため私のみ日本に帰国することになった。
結婚と同時に実家を出て海外転勤となったので、実家で暮らすのは久しぶりだ。
実家を出てから変わったことは、私が“自然派”や“ナチュラル”を好むようになったことだ。
きっかけは流産を2回連続したことだった。なぜ連続流産をするのか病院で調べたが原因不明だった。だから、体質改善のために自分が考えつくことは全てやってみることにしたのだ。添加物、化学物質をできるだけ摂取しないことや、皮膚に触れるものを変えることもその中の一つだった。
3回目の妊娠でやっと安定期を迎えることができ、自然派志向な生活の恩恵かもしれないと感じていた。なので、これからも出来るだけ自然派志向でいこうと思ったし、逆にやめてしまったらまた流産してしまうのではないかという怖さと固定観念に捉われていた。
この考えは実家で暮らしてからも貫き通し、母親とはよく喧嘩した。調味料や油は私が選んだもので料理したいし、お惣菜や外食にせず出来るだけ手作りしたいという私と、そんなことは面倒だと思う母。両親が使う洗濯洗剤も気に入らず、私の好きな洗剤に変えて欲しいと言って言い合いになったこともある。私がその商品を選ぶ理由を説明するけれど、母親は不満そうな顔をするだけで理解は得られなかった。
なぜ身体に良いのに面倒くさがるのだろう。私、間違ったこと言っているかな。いや、言ってないよね。両親とも高齢になってきているし、もっと健康のことを考えたほうが良いよね。
本気でそう思っていた。
私のそんなスタンスは、結局夫が海外赴任から戻り私が実家から引越するまで続いた。
そして、その後夫と暮らし始めた。
実家を離れてみると、両親と生活していた時の自分を冷静に見つめ直すことができた。
あの時の私は自分が正しいと思っていたけれど、果たしてそうなのだろうか。自分は良かれと思っていたのだが、母は不満そうな顔をしていたし、喜んでもいなかった。私は自分の考えに賛同してほしくて一生懸命説明したり、受け入れてもらえない時には怒ったりした。
もし逆の立場だったら、私はどう感じるか。自分の好みではないものを力説されて、否定されて、無理やり母から彼女の考えを押し付けられる。
想像しただけでもイヤな気持ちになった。
私は、母や父のために考えていたつもりだったけど、相手はそう思っていなかったんだ。
自分の押し付けが強ければ強いほど、相手からの反発も強かった。
それって、私の望んでいたことなのだろうか。
いや、そうじゃない。家の中がギスギスしているのは心地良くなかった。
私の望んでいることは、身体が健康であることに加えて、精神的にも気持ちよく過ごせることだ。
それなら、夫婦や家族間で生活習慣や好みが違ったときにはどうするか。
それは、きっとお互いのことを理解して、受け入れることだ。
「うーん……」
夫の声で、ふと我に返る。
「ああ、じゃあ今度買い物に行くときに〇〇君(夫の名前)の好きな洗剤買ってくるよ」
結局、スーパーに行って夫好みの食器洗剤を買った。洗浄力が高いと夫は手が荒れるので、泡はモコモコ、でも手が荒れない程度の洗浄力の洗剤を選んだ。(私なりの愛情)
私が好きなせっけん洗剤のメリットを力説することもせず、せっけん洗剤をやめて夫好みの洗剤にするでもなく、台所には夫と私がそれぞれ使う洗剤が1つずつ並んでいる。
きっと、これで良いのだ。私の好みを優先すれば、夫が苦しくなるだろうし、夫の好みを優先すれば私が苦しくなる。関係が近ければ近いほど、相手に分かってほしいと思う気持ちは強くなりやすい。でも、どちらかの意見や好みに寄せるのではなく、それぞれの好みで良いのだ。
それから、夫は気持ちよく食器を洗っている。私も夫が率先して食器を洗ってくれてありがたいと思っている。これが私の望んでいた形なのだ。
家族であっても意見や好みは違う。もともとは個々の人間なのだから、違って良いのだ。
違うのが当たり前だ、と思えば自分の意見や好みを押し付けることもない。尊重することができる。毎日が平和で穏やかになる。
今、私には幼稚園児の息子がいる。彼も成長すれば、今以上に自分の意志をもっと持つようになるだろう。私と息子で意見がぶつかり合うこともあるだろう。
そんな時は、「家族でも意見が違って良いよ」と認め合っていきたい。お互いを尊重するということは「相手に合わせることではなく、受け入れること」だと伝えていきたい。
もし、将来私が息子に自分の意見を押し付けそうになったら、今回の台所洗剤の件を思い出してこの文章を読み返そうと思う。今の気持ちを忘れないために。
***
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