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インターフォンから始まる縁


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:青野まみこ(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
いけ好かない相手とは仕事はしない、逆に気に入った相手とは進んで組むことをモットーにしている。
その内容が、こと家のリフォームともなれば、大事な我が家を人に任せて仕上げてもらうわけだから業者選びは特に慎重になる。初対面の人なら尚更チェックしなければいけないのに、あの時は簡単にOKを出したのが不思議で仕方がない。
 
5年前のことだ。
「すみません、このあたりを回っている者ですが……」
インターフォン越しの声を聞いたとたんに私は、「あ、またセールスか」と、早速会話をおしまいにしようとしていた。
「なんでしょうか」
「リフォームをやっている業者です。このたび、お隣の家の外壁塗装をさせていただいた者です。もしよろしければ、お宅の屋根の上に登らせていただいて、お写真を撮らせていただければと思うのですが」
「そうなんですね」
なんとなく返事をしてしまった私に、業者は続けて話し出した。
「お隣の外壁を見ていただければわかると思うんですけど、丁寧にお仕事をさせていただいています。お忙しいところ恐縮ですが、お時間はそんなにかかりません。屋根の上の状態をお知らせするだけでもと思いまして」
 
建築関係の業者にしてはやけに丁寧な口調なのが珍しいと思い、私は彼らに屋根上の写真を撮ることを許可した。
インターフォンで話をした人がリフォーム会社の社長さんで、彼ともう1人職人さんがいた。2人ははしごを持ってきて、あれよあれよという間に我が家の屋根へ登っていった。
 
(めっちゃ身軽……)
 
こんなにひょいひょいと登れること自体サーカスみたいだなと感心している間に、彼らはするすると地上に降りてきた。
 
「これが屋根上の写真です。築16年とお伺いしましたが、かなり屋根が傷んでいますね」
 
見せられた写真には、所々塗装がハゲて水玉模様が点々と現れている我が家の屋根があった。こんなになってるのか! 普段屋根の上なんて見ることないからなあ。外壁塗装だの屋根塗装だのなんて高額詐欺もよくあると聞いているから、今までいろんな業者が来ても全員撃退していたけど、もうそろそろ塗装の時期なのかもしれない。
 
「拝見したところ、外壁ももうだいぶ表面が曇っていますので、屋根と外壁とご一緒ならば価格はお勉強させていただきます。いかがでしょうか?」
 
興味が出てきた私は夫に写真を見せて相談した、見積もりで出てきた金額も、屋根と外壁と一緒の工期なので相場よりかなり割引していただける。お隣の壁の様子もきちんと見させてもらって2人共納得したため、私たちはその業者に塗装をお願いすることにした。
 
彼らの仕事は丁寧だった。
足場を組んだ工期の1ヶ月間、職人が毎日2人来てくれた。そして社長も必ず日に1回は現場に顔を出した。
「なるべく細かいところまで塗装しますからね」
という言葉に嘘はなかった。単純に壁だけ、屋根だけ塗っておしまいではなく、その周辺の、例えば雨どいとか雨戸のようなところまで、端から端まで丁寧に塗るようにと社長は職人に指示していた。職人たちも見た目はゴツいけど仕事の手は抜かず、気さくないい人たちだった。塗装が終わる頃には、私たちと彼らとで世間話なども交わすようになっていた。
 
「ありがとうございました。細かいところまで塗装していただいて助かりました」
「こちらこそ。おかげ様でこの分譲地のほとんどの家が、うちで塗装してくれることになったんですよ」
うちやお隣の家の仕事ぶりを見せて、いつの間にか分譲地の大半の塗装を受注しているところなどは、やり手としか言いようがない。この分譲地も揃ってできているので、同時に外壁塗装の時期を迎える。そこを見事に捉えたというわけだ。
「すごいですね! さすが。でもこの仕上がりを見たらみんな頼みたくなると思いますよ」
「そうですか。とにかくうちは丁寧にすることをモットーにしていますから」
 
イメージとして、大工さんや職人さんは乱暴な人が多いんじゃないかと思っていたけど、この社長は違った。その話し振りには、どことなく人を惹きつけるものがあるのだ。力とか理論で相手を捩じ伏せるのではなく、筋道を立てて相手が納得するような持っていき方をしているからみんな耳を傾ける。それは一種の才能とでも呼ぶべきものだった。
 
その後、何回か彼らには来てもらった。
トイレのスイッチが壊れた、網戸が破けた、車庫に照明をつけて欲しい。そんな小さな家のあちこちの傷みを簡単に引き受けてくれる業者さんはありがたく、修繕をお願いした。些細なことでも彼らは駆けつけてくれて、お得な価格で直してくれた。
 
去年あたりから、いよいよ家の水回りがダメになってきたと思っていた。
築20年を過ぎ、シャワーやキッチン、洗面所の水道周りが軒並みポタポタと水切りが悪くなっていた。また社長さんのところに修理をお願いしなきゃと思いつつも、コロナ禍もあってなかなか依頼ができないでいた。ようやく先月、いよいよ手をつけなきゃと、以前もらった携帯の連絡先に電話をした。
 
「……おかけになった電話は、現在使われておりません。番号をお確かめになるか、……」
 
え?
出ない?
 
会社の電話番号にもかけてみた。
 
「……はい、◯◯サービスですが」
「あの、そちらはリフォームの会社じゃないですか?」
「違いますね」
 
どうしたのだろう。私は登録している会社名や、所在地で検索してみた。ところがそこにそのような会社はなかった。
 
社長が職人を数人使っているだけの小さな会社だった。しばらく連絡を取っていなかったけど、もしかしたらコロナ禍のため会社が立ち行かなくなってしまったのだろうか。
 
縁とは不思議なものだ。
あの日、つれなくさっさとインターフォンを切っていたら、彼らの誠実な仕事ぶりにはお目にかかれなかった。職人さんへのイメージだって悪いままだった。先入観を覆してくれたのは、彼らと縁があったからだ。
 
人の心を捉えられるような話し方は、誰かに教わってできるものではない。話し方や表情にはその人の生き方がにじみ出る。しっかりと仕上げてくれる人たちにまたお仕事をお願いしたかったと思うけど、それが叶わない。今、どこでどうしていらっしゃるのかはわからないけど、どこかで生活を支えて踏ん張っていて欲しいものだと思っている。人の心を掴むことができるなら、どうにかピンチを切り抜けられるような気がするから。ぜひそうあって欲しいと願っている。
 
 
 
 
***

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2021-07-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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