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自然は僕たちのホームだ〜都会を離れて気がついた都会の中に無いもの


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記事:松本 哲明(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
僕は、生まれてこのかた、比較的都市部と言える地域に住んできた。通った学校は然りだが、勤めた職場も同様だった。
そんな人生の中で、束の間、都会を一定期間以上離れて戻ってくるという体験をすることがある。主に旅行などだ。僕は少し大袈裟なのかもしれないが、そういう時に「都会はなんてストレスフルなんだろう」と感じることがあった。
 
一番顕著だったのは、2年ほど海外留学をして帰ってきた時のことだ。
成田空港に降り立って、電車を乗り継ぎ都心を通り過ぎる。そのタイミングで、ひどい電車酔いを起こしてしまったことがあるのだ。留学先もそれなりに都会だったが、東京ほどに建物が密集した印象が無かったので、どちらかというと「建物酔い」という体験だった。気持ち悪さを堪えつつ、「なんで、こんなことになったのだろう?」と不可解な気持ちも同時に抱いた。
 
その約10年後、僕は奥多摩の山の中に住むことになった。先程の「建物酔い」の体験が背後にあったのかどうかは定かではないのだが。
 
「山の中」と言っても、都市部に住んでいる人から見た感覚で敢えて表現してみている。
本数は少ないとはいえ、家のすぐ近くを電車は走っている。道路も車で走るのに全く困らない程度には整備されている。奥多摩地域全体だけを見れば、比較的拓けた場所ではあった。
ご存知の方も多いかもしれないが、奥多摩は「東京の秘境」などと表現されるような場所だ。正確には調べてないが山手線の内側か、もしかしたらそれ以上ある面積の殆どが山林で構成されている。そして、そこに住む人口は5000人だ。 それをして、「山の中」と表現したのだ。
 
住んでいた当時、朝、起きたら縁側に出て、新鮮な空気を吸いながら、周りの風景を眺めるのが日課だった。その時、目に映るものの、恐らく95%が非人口物、そんな場所だった。(それが都心から、僅か1時間半の所にあるのです)
 
自然の中にいると、人はリラックスする。気持ちが穏やかになり、呼吸も自然と深くなって、リフレッシュする。だから、奥多摩へ登山に訪れる人が絶えないのだろう。
 
僕自身も、奥多摩で自然を近くに感じられる状況に身を置くことで、どれだけ救われたか分からない。そのことだけでも、相当の文字数を費やすことができる。
ただ、それを敢えて一言にギュッとまとめれば「息が楽にできる感覚を取り戻した」と言える。
 
そんな奥多摩暮らしだったが、用事があって都心に出ることだってあった。
久々に都心に出たある日のことだった。
新宿で人と会うことになったのだ。
以前、勤めていた職場も、その辺りにあった。その頃によく利用していた、お気に入りだったカフェで落ち合うことになった。
 
余談になるが、僕は待ち合わせ場所には、基本的に30分以上早く着くようにしている。そのようにしている理由は、また別の機会に譲るとして、その日も、例によって30分以上早くお店に入り、一足先に飲み物を頼んだ。その時は、久しぶりの都会を味わうため、一人ゆったりとする時間にすると決めていたのだ。
 
久々の店内を眺めたり、他のお客さんを観察したりしていた時、ハタと気がついた。
 
「ここは、視界に直線と曲線ばかり入ってくるぞ!」
 
そこは新宿のど真ん中。窓の外に見えるのは、ほぼビルしかない。あとは、自分がいる建物。それらを構成するのは直線と曲線。それが視界の95%を占めていた。奥多摩と構成比が逆のようなものだった。
言うまでもないことだが、自然の中には、建物で使われるような直線や曲線は存在しない。全てが、ある種のゆらぎを持っている。一見、真っ直ぐ伸びる針葉樹であっても、きれいな直線ではないのだ。 そんな揺らぎは新宿の建物には見られない。構造的な強度を確保する意味もあるから当然だろう。
 
直線や曲線に、ある種の美を見出しているのは人間だけなのだと気付かされる。自然界には、そういったものが、ほぼ存在しないことがそのことを示している。
 
「人間も自然の一部だ」
こんな言い方は、もう言い古されたくらいの言葉なのだろうか。
私たちの体に目をやると、やはり直線や綺麗なカーブで構成されている箇所は、殆ど見当たらない。そこからも、人間も自然の産物であることが見て取れる。
 
何故、僕は建物酔いを体験したのか?
何故、人は自然豊かな場所に惹かれるのか?
 
そのことに、僕なりの答えが見えてきた。
 
「やっぱり家が一番落ち着くなぁ」
旅行から自宅に帰ってきた時に口を突いて出てくる、ステレオタイプの言葉だ。人は「ホーム」に戻ってくると、落ち着く心地を覚えることを、この言葉は表しているのだろう。
ゆらぎに溢れた自然をホームと、心のどこかで感じているのだ。
だから、直線や綺麗な曲線だけに溢れた空間にいつまでもいると、いつしか倦んでしまう。逆に山や海の近くに身を置くと何か自分を取り戻すような感覚を覚えるのだ。
「自然」という「家」に戻った体験だ。
 
コロナ禍になって、たくさんのことができなくなったり、機会を失われたりした。
しかし、誤解を恐れずに言えば、自然をもっと感じられるようになった、もっと感じられるようになりたい、という想いに気づかせてもらえたという人も少なくないと勝手に感じている。
そんな人たちが中心になって、もっと自然と繋がるような体験をする機会が増えていってくれたらと願っている。そうなれば、もっと穏やかで優しい世界が実現するのではないだろうか。
 
 
 
 
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2021-07-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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