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わたしは愛すべき両親だった


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ことほぎ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
ある日の土曜日、友人の母親が亡くなった。心不全だった。
母子家庭で、お互いに離れて暮らしてはいたが、仲が良く、頻繁に行き来していた。前の週の土曜日も、いつもどおり、母親の自宅に行くはずだった。だが、その日は運悪く、急ぎの仕事につかまり、行くことができなかった。
当たり前の日常が続いていた最中の土曜日だった。
 
「後悔してもしきれない」
まさしく、そうとしか言いようがない状況だった。連絡を受けたものの、彼女の動揺は激しく、かける言葉も見つからず、呆然と立ち尽くしてしまった。
 
この世に生まれたものは、平等に「死」を迎える。それなのに、良いのか悪いのか、脳が発達したせいで、人間は目に見えない「死」を、妄想のままにこねくり回し、恐怖を覚えたり、時には、憧れたりしてしまう。
 
みなさんは、「死」について、どのような考えをお持ちだろうか。
また、身近な人の「死」を受け止める何らかの術をお持ちだろうか。
 
ここ30年間の出来事を振り返ると、「死」を間近に感じる出来事がたくさんあった。阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、東日本大震災、度重なる豪雨災害、そして新型コロナウイルスの蔓延……。
 
私の父は、2004年の台風で、仕事中に被害を受けた。鉄板が飛来し、彼を背後から押し倒したのだ。前歯は折れ、肋骨が肺に突き刺さった。右肩を損傷し、今は骨頭がない。
 
ICUで意識不明の父に対面した時は、生きた心地がしなかった。
 
幸いにも、父は、「なぜケーキをくれないの?」という意味不明な言葉とともに目を覚ましてくれた。
 
後に聞いたところ、大きな川のそばで、美しい伍代夏子似の女性が、みんなにケーキを配っていたらしく、もらおうとしたら、すかさず母親が止めに入ったらしいのだ。三途の川の前で繰り広げられた、日常と変わりのない光景が目に浮かんだ。
 
今となっては笑い話だが、意識を取り戻した父の開口一番に、面食らうとともに、脳の異常ではないかという不安が交錯した。
 
あれから十数年が経ち、悠々自適な日々を過ごしていた昨年末、また事件が起きた。父が背骨を2回も骨折したのだ。
 
よく聞く大腿骨骨折には注意していたが、背骨は盲点だった。
病院で初の年越しをして帰宅した父は、ひとまわり小さくなったように感じた。よほどのことがない限りなくならない食欲も、異常なほどに落ちていた。
退院祝いに行った温泉では、お子様ランチ程度の食事を残すほどになっていたのだ。
 
そんな状況下にもかかわらず、父にはやらなければならないことがあった。叙勲を受ける準備だ。新型コロナウイルスの関係で、天皇陛下への拝謁はかなわなかったが、中止直前まで、拝謁の儀の準備を行っていた。
 
気力も体力も回復しきっていなかったが、なんとかまっすぐ歩きたいという一心で、リハビリを開始した。順調に回復し、歩行に加え、車の運転もできるようになった。背骨を骨折した老人が歩行することは相当すごいらしく、理学療法士の方にもお褒めの言葉をいただいた。
 
食欲・気力・体力ともに回復した頃、拝謁中止の決定があった。落ち込んで、リハビリする意欲をなくすのではないかという心配もあり、記念写真をホテルで撮影することにした。
 
もともと極度の側弯症だったこともあり、父は自力で背中を伸ばしていられなかった。それでもせっかくのモーニング姿をカッコよく残してあげたいと無い知恵を絞った。事前に、背中が曲がりすぎないようにハイスツールを用意してもらい、おしゃれなステッキで姿勢を保たせるようにした。
 
撮影当日、母親の化粧と着付けを終わらせ、ホテルに向かった。自分が幼少の頃にしてもらったことを両親にさせてもらえることは、この上ない幸せだった。
 
想像以上に良く撮れた写真に、写真館のスタッフの方々も絶賛してくれ、最後に
3人の写真をスマホで撮って、ホテルを後にした。
 
興奮冷めやらず、その日はホテルを3軒もはしごした。1軒目で記念撮影し、2軒目でスパに入り、3軒目で祝杯をあげた。そして、スマホでたくさんの写真や動画を撮った。この日は、もう二度と味わえない日だったからだ。
 
帰宅後、その日を振り返りながら、写真や動画の整理をしていて思ってしまった。わたしの鼻から上は父親似、鼻から下は母親似だと。
 
変わらぬ日常が続いている。コロナ禍で、さまざまな思いをされている方々がいる中で、我々は、ありがたいことに今までと変わらぬ日々を送っている。
 
それでも、いつかはその日がやってくる。友人が遭遇した、当たり前の日常が、当たり前ではなかったことに気づく日が……。
 
自分の顔を観察しながら、「自分の顔を見れば両親に逢える」。
そう思わずにはいられなかった。
 
「二重がどうの」「鼻筋がどうの」と憎まれ口をたたいていた頃がウソのように、自分の顔が愛おしく思えた。
 
いつか来るその日が、おぞましくも憎らしくもあるが、彼らがこの世を去っても、今は大丈夫のように思えている。
 
自分の顔を鏡に映せば、そこには愛すべき両親がいるからだ。
 
 
 
 
***

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2021-07-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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