日本のエンターテイメントをいかに届けられるのか
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記事:ごろ子(ライティング・ゼミ超通信コース)
「ベトナムは韓国になっていた」
出張から帰ってきた夫がそう言ったのは2年前。現地に到着して次の予定までに時間があった為、ベトナム映画でも見てみようと夫はシネコンに入った。驚いたことに、そこで上映されている映画の3分の1はベトナムの自国の映画、次の3分の1はハリウッド映画、そして残りの3分の1が韓国映画だったというのだ。そして、3分の1あるベトナム映画でさえ、どれもが韓国の影響を多分に感じるものだったという。映画の後に外へ出れば、街には韓国のBGMが溢れ、若者が韓国風ファッションを身に着け、女性はこぞって韓国風メイクをしていた。夫はイメージしていたベトナムとのギャップに面食らった。そして仕事を終え、ホテルに着いてテレビを付けたのだが、やっぱり、と言うべきか40チャンネルほどある放送局の中に韓国のチャンネルが十数局も含まれていたという。因みに、そのホテルで見れた日本のテレビ局はNHK1局のみである。
コリアンエンターテイメントの勢いは凄まじい。映画「パラサイト」は2020年にアカデミー賞の4部門を受賞し、同時にカンヌ映画祭の最高賞を受賞している。ドラマ「愛の不時着」は、日本は勿論、世界中を席巻する大ヒットドラマとなった。音楽ではBTSがアメリカビルボードチャート1位の快挙、そして、昨年正式デビューを前にしてミュージックビデオの再生が2億回を超えたNiziUも異例の新人であり、実は私もコロナ自粛期間中にはまった一人である。韓国がプロデュースした日本人ガールズグループである彼女たちを扱った番組は、厳しいトレーニングの末にプロフェッショナルに変貌していくメンバーの様子を描く見ごたえのある内容だった。一方、日本人である彼女たちを日本が自国のエンターテイメントの中で育て、世界に送り出せなかったことを悔しくも思う。今、同じ東アジアの国として世界のニーズに手堅くはまるコンテンツを制作し、評価を得ているのは間違いなく韓国であり、日本はきっちりと差を付けられている。では、エンターテイメントにおいて、日本人の作るコンテンツは彼ら韓国人の作るコンテンツに決定的に負けているのだろうか。
エンターテイメントを商品として見れば、商品の売れ行きは売り方の差に大きく関わる。私自身も仕事において商品開発に携わるが、どんなに良いものも、いかにスムーズに消費者が購入できるかという販路を確保し、消費者に響くプロモーションを行わなければ売れない。質の良いものを作れば必ず勝手に売れるはずというわけにはいかないのだ。韓国は1998年以降、国策としてエンターテナーの育成や、エンターテイメントの輸出を推進してきている。勿論それは国力を上げる策の1つであったわけだが、韓国は国全体で質の良いモノづくりと、その販路の開拓、プロモーションをしっかりと後押ししながら世界中に韓国のエンターテイメントを広めているのだ。
ベトナムのTVにおいて、韓国コンテンツの放映権の価格は実は日本の3分の1だという。なぜそんなに安いのかと言うと、これも韓国政府が主導して番組を安く輸出しているからである。だがこれは単なるたたき売りではない。韓国は番組に登場する韓国製品をセットでベトナムに売り込んでいるのだ。そして結果的には、韓国の音楽が売れ、ファッションが売れ、コスメが売れ、家電が売れという状況を作り、そして、ベトナム人の韓国旅行のニーズまでもが増えている。どうやらエンターテイメントを消費することは、その国の文化を隅々に渡って消費するという事に繋がるようだ。
工業製品もデジタルテクノロジーも、日本がトップを切って独占的に輸出をしていけるものがどんどん少なくなってきている今、エンターテイメントは韓国と同様、日本にとっても一つの活路であるはずである。映画、アニメ、Jポップ、日本にも日本独自のカラーを持つクオリティーの高いコンテンツが十分にある。そして、急速に成長したネット社会により、「自分たちの表現したいことが何か」を形にし、自身でコンテンツ制作、発信を行う才能のある若い人も増えている。ネタは揃っている。世界に向け発信する、世界とつながるマインドの準備も、もう万端である。あとは良いものをきちんと世界に届けられる販路づくりとプロモーションの戦略が日本にも必要なのは間違い無いのではないだろうか。
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