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おとなしかった私が高校時代に演劇部に入部した話


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記事:なべぞう(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「『本当の自分が見えてくる』……か」
 
私は迷っていた。高校の新入生歓迎イベント。部活動の紹介チラシを沢山もらったが、その中でも、演劇部のチラシがどうしても気になる。手書きのイラストに、「本当の自分が見えてくる」という文言が添えられている。確かに、演劇でもやってみたら、自分と向き合えるし、自分を変えられるのだろうな。今日、体験入部があるみたいだけど、覗いてみようか。でも、私にそんな勇気があるだろうか。
 
やっぱり私にとってはハードルが高い。中学時代、家庭の事情で部活動に所属していなかった私にとっては、高校からどこかの部活に入ること自体、ハードルが高いのだ。でも、せっかくこの高校に入ったのだから、何か、今までできなかったことに挑戦してみたい。
 
というのも、私は高校受験で第一志望の高校に落ちており、滑り止めとして選んだ高校は自宅からは少し離れていて、同じ小中学校の知り合いは誰一人としていなかった。小中学校のクラスでは、ほとんど言葉を発していなかった、おとなしい自分のことを、この高校の誰も知らないのだ。それならばあえて、過去の知り合いがいたら出来なかったことをしてみたらどうか。自分を変えるチャンスではないだろうか。演劇は、ちょうどいいのではないか。
 
「すみません。体験入部で来ました」
 
勇気を出して部室のドアを叩いた。すると、先輩たちがやさしく迎え入れてくれた。「基礎練習」として発声練習や「エチュード」と呼ばれる即興劇などを行っていたところだった。他の部員や体験入部生に交じって練習に参加した。私が学校で声を出している。とても新鮮な体験だった。当時の私にとっては、人前で声を出すこと自体、本当にハードルが高かったのだ。入部したら、これからも毎日こういった練習を続けていくことになる。それは私にとって大変なことである。でも、ここで一歩踏み出さなかったら、私はずっと変わらない。私は、思い切って演劇部に入部した。
 
私の高校の演劇部は、部員の希望に応じて役者と裏方の2つに担当が分かれていた。ただ、1つの作品ごとに役のポジションには限りがある。そのため役者を希望していても、全員が毎回必ず役者として出演できるとは限らなかった。私は、おとなしかった自分を変えるために、裏方ではなく役者として出演することを望んでいた。だが、初めて参加した部活内での配役決めのオーディションでは落選してしまい、どの役にも付くことができず、裏方に回ることになった。同じタイミングで入部していた何名かの一年生部員は配役が決まっており、とても悔しい思いをした。
 
「やっぱり、おとなしい人はダメなのかな」
 
小中学校時代、口数が少なく目立たなかったこと、自分に自信がなく、第一志望の高校に落ちてしまったこと。マイナスの経験が多かった人生を変えるために、演劇部に入ったのだ。でも結局、役者のオーディションで落選してしまう。またマイナスの経験が一つ増えることになっただけではないか。
 
裏方に回ることになり、モチベーションが下がってしまっていた私だったが、そんなとき、ある先輩が前に言っていた言葉を思い出した。
 
「運動部では選手になれなかったら、それで終わりだけど、演劇部では役者になれなくても、裏方として作品づくりに携わることができる」
 
確かに、裏方として劇作りに携わることはできる。今この環境でできることをしよう。役者だったら、その役に集中してしまうけれど、裏方なら、作品全体を見ることができる。私は、前向きに裏方の仕事に取り組むことにした。
 
今回の作品上演に向けた準備が始まった。私は、どのタイミングでどのように照明を当てるかといった裏方の仕事をこなすことはもちろん、その合間に、先輩たちが役者の演技に対してアドバイスしていることにも耳を傾けた。それを自分のことのようにしっかりと受け止め、台本にメモしていった。次こそは絶対、役者として出演したい。その思いが私を突き動かした。
 
そして迎えた2回目の配役オーディション。オーディションは役ごとに行われるが、私は一番演じたい役1つに絞ってオーディションを受けた。結果は合格。次の学内公演で主演することが決まった。
 
初出演にして主演となったことはプレッシャーでもあったが、前回の公演で裏方のときにメモした台本を読み返したり、自分の過去の経験から演じる役柄についてのイメージを固めたりして一生懸命役作りに取り組んだ。前回、オーディションに落ちているからこそ、今回やりたかった役を演じられる喜びは大きかった。
 
公演当日。私の出演を聞きつけて、多くのクラスメイトが会場に集まった。緊張していたが、それ以上に、その役になりきって演じている瞬間がとても楽しかった。
 
「劇、よかったよ」
「今回の劇は、あなたがいてこそだったね」
公演のあと、観てくれていたクラスメイトや他の部員から、このような言葉をもらうことができて嬉しかった。このときの感覚は今でも忘れられない。私の人生で初めての成功体験だった。
 
それから月日は流れ、私は今、20代後半である。この間、大学での初めての一人暮らし、未経験の分野での就職など、さまざまな初めての体験をしている私だが、思い返すと、私の人生の最初の一歩は間違いなく、高校で演劇部へ入部を決めたことである。人生を変えるきっかけになった一つの勇気。あのときに踏み出した一歩があるからこそ、その後、どんな初めての体験があっても、何とか乗り越えていけるだろうと思える。皆さんにも、そんな人生最初の一歩はないだろうか。
 
 
 
 
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2021-07-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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