お盆での再会を待ちわびて
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:いしはるま(ライティング・ゼミ日曜コース)
私が今一番会いたい人。
それは、私のおばあちゃんだ。
私にとって、おばあちゃんは、夏のお昼寝時のタオルケットのような存在。
包まれるとなぜだか安心し、私をそっと守ってくれるからだ。
私のおばあちゃんは働き者で、ちょっと毒舌。だけど、実はとっても愛情深い人。その愛情は実にさり気なくて、後から感謝が湧き出るという、絶妙の塩梅。
私の家は共働きだったので、子どもの頃、私が病気になるとおばあちゃんが看病をしてくれた。高い熱にうなされて夜中に起きた時に、おばあちゃんに「大丈夫。じきに良くなるよ」と言われ、トントンとしてもらうと、何とも言えない安心感に包まれ寝入っていた。
猛勉強をして、第一志望の大学に受かった時は、おばあちゃんは、それはもう、本当に喜んでくれた。私の両親が仕事でどうしても大学の入学式に出られないと知った時に、おばあちゃんは、「じゃあ、わしがちょっくら行ってやるわ」と近くのお店に行くぐらい何気なく、でもきっぱりと言った。そして本当に、広島県の山奥から神戸まで、ひょいっとやって来た。初めての一人暮らしに悪戦苦闘していた私は、新神戸駅の改札口でおばあちゃんの姿を見つけた時に、大きな安心感に包まれ、思わず目頭が熱くなったことを今でも覚えている。
おばあちゃんの愛情深さは野菜作りにも遺憾なく発揮されていた。そう、おばあちゃんは野菜作りの名人! 何度かおばあちゃんの畑作業を手伝ったが、大雑把な性格のおばあちゃんの畑仕事は、意外にも繊細で丁寧。じっと野菜を見つめ、弱っている野菜にはマメに手当をし、元気に育っている野菜には「よう育っとるなあ」と目を細めながら声をかける。暑かろうが、寒かろうが、朝と夕方に必ず畑へ出て、ごそごそと野菜が美味しくなる魔法を施していた。そして、美味しく育った野菜を子どもや孫たちにどんどん送ってくれた。煮込むととりととろけるような滋味深い味わいの大根、私の頭ぐらい大きくて甘いブロッコリー、太陽をたっぷり浴びて育った真っ赤で味の濃い絶品トマト。私や子ども達が野菜を好きで、健康でいられるのはおばあちゃんのおかげだと思う。広島の山奥からいつも私たちが元気に過ごせるよう、バリアーを張ってくれていた。
私が子育てに悩んでいる時も、おばあちゃんは私を支えてくれた。
友達とうまく関係が築けず、こだわりの強い息子は、保育所の先生からの小言が絶えず、私もどうしたら良いか悩んでいた。おばあちゃん家に家族で遊びに行った時に、子ども達が寝静まった後、おばあちゃんに息子のことを打ち明けた。おばあちゃんはじっと耳を傾け、私が話し終わると言った。
「ええ子よ、あの子は。ほんまにええ子よ。あの子と自分を信じたらええ。なんにも心配するこたあない。大丈夫。」
その言葉を聞いた途端、私の心の強張りがすっとほぐれ、涙がポロポロとこぼれた。おばあちゃんに背中をトントンしてもらいながらひとしきり泣いた後、「きっと大丈夫。なんとかなる」と私は思った。
子どもの頃からおばあちゃんにはたっぷり愛情を注いでもらい、大人になってもおばあちゃんの大きな愛に包まれていた私。おばあちゃんはいつも私を、そっと色々なものから守ってくれていたのだと思う。
そんなおばあちゃんにガンが見つかったと聞いた時は、悲しいとか、目の前が真っ暗になるなんて言葉では表現できない気持ちになった。
でも、おばあちゃんは気丈だった。
「ガン言うても、老人だからゆっくりしか大きくならんらしいよ。そろそろおじいさんの所へ行く時になった、そういうことよ」
その言葉通り、おばあちゃんのガンはゆっくりと進行していった。おばあちゃんの畑は少しずつ面積が小さくなり、それと比例して横になっている時間が増えた。
それでもおばあちゃんはやっぱり働き者。漬物を漬け、おばあちゃんお手製の絶品あんこ入りの柏餅を作り、年末には餅つきと黒豆の煮方の極意をしっかりと伝授するなど、残された時間を豊かに、みんなに愛情を注ぎながら過ごしていた。
お正月におばあちゃんに会いに行った時、働き者のおばあちゃんがほとんどベッドで過ごしている様子を目の当たりにし、私は本当にショックで、何とも言えない気持ちになった。おばあちゃんと過ごす時間はもう長くないから何か話さないと、でも何を話そうかなと迷っていると、おばあちゃんが話し始めた。
「わしの楽しみのひとつは、あんたらと旅に出ることだったんよ。いろんな所へ連れて行ってくれてありがとう。高野山も、赤穂も、小豆島も、ぜーんぶ楽しかったねえ。綺麗な景色を見て、みんなでゆったり温泉に入って、美味しいもの食べて。本当に楽しかった。もっとみんなで色んな所へ行きたかったけど、もう行かれんかなあ。本当に、ありがとうね」
その3ヶ月後、おばあちゃんは天国へと旅立った。
最期は、おばあちゃんの大切な畑のある家で、眠るように、穏やかに息をひき取った。
おばあちゃんはこの世からいなくなってしまったけど、ふとした折に、おばあちゃんとの思い出やおばあちゃんの言葉を思い出す。鼻の奥がツーンとなりながらも、夏のお昼寝時のタオルケットのように、私は安心感にくるまれる。
そう、おばあちゃんは旅立ってもなお、私をやさしく包んでくれているのだ。
今の私の密やかな目標は、自分の子どもや孫たち、そして地域の人たちへ、少しずつ、おばあちゃんからもらった愛をそっと手渡していくことだ。そう、おばあちゃんが私にやってくれたように、絶妙の塩梅で。
もうすぐお盆。
お盆には、亡くなった人があの世から、この世に帰って来ると言われる。故人が生前に過ごした場所で迎え、再び戻っていくあの世での幸せを祈る、日本古来の夏の風習だ。
おばあちゃんはお盆の前になると、「おじいさんが帰ってくるけん、きれいにしとかんとね」と、仏壇をピカピカに磨き上げ、庭で育てた美しい花を生けていた。
おばあちゃんがいなくなって、私は遅ればせながら、お盆が大切なものだと気づいた。
去年はコロナ禍で叶わなかったけれど、今年はおばあちゃんの家に泊まって、おばあちゃんの帰りを待とうと思う。
きれい好きのおばあちゃんのために、大掃除して、おばあちゃんが好きだったあのお店のお菓子も用意して。
おばあちゃん、迷わず帰ってきてね。
みんなで待っているよ!
***
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