古き良きお福分け文化を堪能しよう
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:笠原 康夫(ライティング・ゼミ日曜コース)
玄関のインターホンが鳴る。「桃のお届けでーす!」
宅配ドライバーさんから荷物をそうっと受け取る。
箱を開けると中から桃が一斉に顔を出す。ふわーっと、桃の甘い香りが広がる。ぜいたくな瞬間だ。
ここ5、6年、毎年恒例になっている我が家の光景。
嫁の父親が退職後に趣味で桃農園を始めた。農協に納品できないいわゆる「はね出し」品が送られてくる。規格外とはいえ、味は絶品。
白鳳、なつっこ、……どれも果物店では一個500円程度で売られている桃が段ボール満杯に届く。
毎朝晩、我が家の食卓は華やかになる。だが、我が家だけでは到底食べきれない。
そこで、私は会社の仲間や、近所の知り合い宅に桃を届ける役回りになる。
この時期、私は「桃配りおじさん」と化す。
桃には魔法の力がある。
人に桃を配ると、誰もが皆、無条件で素直に喜んでくれる。
桃を渡すと相手は袋の中をそっとのぞく。桃の姿を見て、顔がほころぶ。一瞬で表情が明るくなる。
元々、私はマメなタイプではない。人にプレゼントをするのは不慣れだった。
だが、「桃配りおじさん」を始めてからは、人にモノをあげるのが楽しくなってきた。
□ □ □
「礼を欠くな」
今から20数年前、社会人になりたての頃、周囲の目上の人たちからそう刷り込まれた。
日頃、世話になっている上司や知人にはお中元やお歳暮を欠かすべきでないと教え込まれ、実直に守っていた。良識ある社会人の作法だと信じていた。
日本にはたくさんの季節の挨拶がある。お中元、お歳暮、年賀状、暑中見舞い……
日本らしい古き良き習慣だ。
ただ、当時は、心のどこかでこの作法に窮屈さを感じていた。
本当に自分は相手に感謝の気持ちがあるのか? 渡したくて渡しているのか?
いや、そうではなかった。やらねばならないという義務感だけだった。
こんな疑問を抱きつつも10年程度は続けていた。
いま思えば、この時期は、こうした義理の習わしに少し疲れていた。
ただ、少しずつ転機が訪れ始めた。インターネット、デジタル化の普及とともに、少しずつ、季節の挨拶もアナログからデジタルに変化した。
そして、次第に世の中に「虚礼廃止」という考え方が定着してきた。
形だけで心のこもっていない、意味のない儀礼はやめましょう。という考え方。
お中元、お歳暮をはじめ、あらゆる季節の挨拶を省いてしまう世の中に変わっていった。
私もこの風潮に乗って、季節の挨拶を徐々に減らしていった。
だが、「桃配りおじさん」を始めてから、私の中で転機がおとずれた。
ある時、桃を渡した相手の笑顔を見ているうちに、はっと気づいた。
ここ数年にわたって、人とのつながりを合理化してきたことによって、自分の気持ちに大きなすき間が開いていることに……
「桃配りおじさん」は、決して義理の挨拶をしているのでない。「お福分け」をしているのだ。
「お福分け」は、古風で奥ゆかしい響きの言葉。古き良き文化を象徴する言葉。
「お福分け」より、「おすそ分け」の方が広く使われている言葉かもしれない。
だが、二つの言葉は意味合いが異なる。
「おすそ分け」という言葉は、よく使われる表現だが、使う相手を間違うと失礼になる言葉のようだ。
おすそ分けの裾とは着物の裾のこと。重要ではない地面に近い下の部分を分けることを意味する。
つまり、おすそ分けとは、目下の人に対して使う表現なのだ。
これに対し、「お福分け」は、その文字のとおり、福を分けるということ。
いいものをもらったからみんなで一緒に楽しみましょう! という意味になる。
また、「お福分け」は、よく似た表現のおもてなしとも異なる。
おもてなしも日本特有の気品のある言葉だが、どうしても接待やサービスのような意味合いが強い。
「お福分け」には様々な効果がある。
まず、人を笑顔にすること。
ふたつ目は、渡した人とのコミュニケーションが円滑になること。
みっつ目は、自分の気持ちも豊かになること。
人はみんな身勝手かもしれない。
義理からは解放されたい。でも人と多少のつながりがないと寂しくて不安。
だから、さりげなくモノを渡し合えるくらいの「緩いつながり」くらいが心地よい。
疎遠になっている人、最近、コミュニケーションが取れていない人、会社でもご近所さんでも友人でも相手は誰でもいい。
無理のない程度に、ぜひ「お福分け」することをおススメしたい。
家庭菜園のプチトマトを近所の人にお福分けするのもいいかも。
ステイホームの中で、暑中見舞いを送るのもいいかも。
本当に渡したい時に、渡したいひとに福を分けてみよう。
「お福分け」したあとには、自分の気持ちも豊かになれる。
そう、天から福が下りてくるように……
***
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