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時速100キロで追突された私が、加害者に「ありがとう」と言いたい理由

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:橋本潔(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
「大丈夫ですか?」
その声に反応して目を開けたら真っ暗。
夢を見て目が覚めたんだ。
起床時間を確認しようと右手で携帯を探した。
手元においたはずの携帯がない。
探そうと右手で周辺を探る。
右手に伝わるのは、布団の柔らかい毛並みじゃない。
ザラザラして冷たい。
布団の中にいるはずなのに、徐々に体が冷える。
「私の顔がわかりますか?」
さっきと同じ声がした。
「私の顔がわかるなら頷いてみて」
目が暗さに慣れてきたのか、声の主と思われる顔が見えてきた。
白いヘルメットに白いマスク、上半身が白色。
驚いて体を動かした時、背中に硬い何かを感じた。
携帯を探していた右手の掌も硬い何かに触れた。
アスファルトだ。
私は道路の上で横になっていた。布団の中じゃなかった。
私がか細い声をかけた。「なんで、横になっているの」。
「あなた、車にはねられたんだよ」、と白いヘルメットが言う。
その声に反応したのか、頭が記憶を整理し始めた。
私、バイクに乗って仕事に行く途中だった。
 
白いヘルメットは救急隊員。
私を救急車に乗せ、病院に直行した。
到着までの間、救急隊員が声をかけてくる。
「今、意識はどうです? 日にち、時間はわかりますか?」
私は「はあ、はあ」と返事するが精一杯。
でも一つだけ答えられた。
「2月です」
 
病院に到着後、救急車から降ろされ、待機していた看護師が処置室へ誘導した。
レントゲン・CT検査、打撲や擦過傷の処置を済ませ、医師の診断を受けた。
診断の結果、頚椎捻挫、打撲と擦過傷が数カ所、奥歯3本破砕、頭部打撲に伴う変頭痛。
 
この時になって、初めて私に起きた状況が理解でき始めた。
午前2時に起床して、働いている鮮魚市場にバイクで出勤していた。
そして、道の上で意識を取り戻して、救急車に乗せられて、今この病院にいる。
でも、出勤から意識を取り戻すまでの間が全くわからない。
それを医師に伝えると、「その瞬間は誰も覚えられないよ。あとで警察の方から説明を受けないさい」と言われ、診断は終了。
自宅に戻って、ベッドの上に体を横たえた。
しばらくすると、異変が起きだした。
打撲や擦過した部位が痛み出し、体温が上がり出した。頭が痛い。
吐き気がもよおし、便座にかがみこんで嘔吐もした。
 
異変も落ち着き出し、当時の事故の状況を教えてもらうため、警察署を訪れた。
加害者は23歳の男性会社員。
事故当時、前方不注意でバイク後方に時速100キロ近くで追突。
私は衝撃でバイクから投げ飛ばされ、頭から歩道信号柱に激突した。
撮影されたバイクやヘルメットを見た。
バイクは別の電柱にぶつかって真っ二つに折れ曲っていた。
ヘルメットは激突の衝撃で亀裂が大きく入っていた。
説明を受けて、交通事故の被害者になったことを実感できた。
 
警察署を出て、私は加害者に怒りを覚えた。
4月、某医療系専門学校への入学が決まっていたためだ。
 
医師の診断では完治するまで最低でも半年。
病院への通院だけでなく、歯科での治療も受けないといけない。
頭痛はいつ治るかわからず、増悪するか緩和するかは体調次第。
実に不安定な体調で過ごさないといけなくなってしまった。
 
こんな体調で入学を迎えることができるかどうか不安が沸き起こる。
その不安をかき消そうと、加害者に怒りをぶつけ始めた。
今、加害者に会えば、殴りたいぐらいの怒りに歯止めが効かない。
会って謝罪したいと、加害者側の代理人から連絡はあったが、断っていた。
 
「今回、入学は諦めよう」
2月後半が入学金納付期限。
これを過ぎると辞退したくても、入学金はかえらない。
今後、体調がどうなるかわからないので、入学を諦める決心をした。
期限前に入学辞退届を出して、返金手続きを済ませるため、学校を訪れた。
用紙に記入するとき、まだ諦めきれない。
そんな気持ちを抑えようとしたら、目から涙が湧いてきた。
涙をぬぐいつつ、署名と押印し提出した瞬間。
大粒の涙が流れ出した。
数日後、通帳に返金された額が記帳されていた。
入学金は契約上戻らないが、授業料は全額戻っていた。
「今はこれから先のことを考えよう」
金額を確認した通帳を閉じて、病院に向かった。
 
事故から1ヶ月が経過した3月。
歯科院で奥歯の治療を受けている時、テレビのニュースを見て驚いた。
「某医療系専門学校、突然閉鎖。在校生が入れない」
受診後、タクシーに乗って学校に向かった。
学校前には無数のテレビクルーと、在校生に先生らしき人もいた。
閉ざされた門扉に張り紙があったが、人だかりで近寄ることもできない。
その後、学校を運営する法人が多額の借金を抱えていたことが判明。
関係者に事前に通達もなしに、廃校手続きを進めていたらしい。
4月に入学する予定だった生徒達は、入学金や授業料を取り戻すことができなくなり、法人側と裁判に発展する様相を見ていていた。
 
もし交通事故にあわなかったら、学校法人のトラブルに巻き込まれていた。
もし入学辞退届を出さなかったら、金が戻らなかった。
もし諦めなかったら、裁判に巻き込まれていた。
そう考えると、ゾッと寒気を感じた。
 
報道から数日後、私は彼からの電話を受けることにした。
私は彼に対して殴りたくなる怒りを、もう覚えなくなっていた。
本気で謝罪する彼を許す気持ちを伝えた。
でも、本当、私は彼にこう言いたかった。
「ありがとう」
「君のおかげで裁判のトラブルに巻き込まれなかったのだから」
でも、そういうのが恥ずかしいので、心の中でつぶやくだけにした。
 
 
 
 
***
 
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2021-08-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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