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離婚につながる、妻の一言に御用心


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:射手座右聴き(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
その問題は、3ヶ月に一度くらいやってくる。
最初は、顔を見せない。でも、気配でわかる。
あの日も、やはりそうだった。
そいつの名は、「夫が先のことを考えないんです」 問題。
20代の既婚女性からの依頼だった。
「おっさんレンタルって、初めてなので、とりとめもない話がしたいです」
依頼者はそんな風にメールをくれる。
「お話しできるのを、楽しみにしています」
などと、返す。
実際お会いして、カフェに入ると文字通りとりとめのない会話が始まる。
「週に何回くらいレンタルされるんですか」
「どうしておっさんレンタルを始めたんですか」
などという質問だ。
一段落すると、彼女はおもむろに言う。
「実は、悩みというほどでもないんですが」
「どんなことでも話してください」
くるぞくるぞ、と思いながら、返事をする。
「実は、夫が先のことを考えてくれないんです」
きた!
「どういうことですか」
「夫が将来のことを考えてくれないんですよ」
「将来のこと、というと?」
「いつ、家を買う、とか。いつ子どもを作るか、とか」
「そういう話、ふってみないんですか」
オーソドックスに聞いてみる。
「私から、将来の話をすると、そのうちね、って言うんです」
「そのうちって、いつだよって話ですよね」
まあ、いきなりそういう話になったら、そのうちってなるよな。
と思いながらも聞いていく。
 
「そうなんです。もう結婚して5年経つのに」
「5年は長いですね」
「はい。でも、長いって言う意識がないらしくて、
何度言っても、会話が進まないんです」
 
また、この話か。
3ヶ月に一度は、このジャンルの相談があるのだ。
最初のうちは、アドバイスをしてしまっていた。
「将来、っていうのが具体的じゃないのかな。たとえば、戸建てを買うか、マンションを買うか、とか具体的に聞いてみたらどうですか」
 
「それは何回も言いました。でもはぐらかされます」
 
「そうですか。そしたら、週末に住宅展示場を見に行くとか」
 
「それも何回も言いました。でも、週末に限ってバイクで出かけるんですよ」
 
そうか、バイクが趣味なのか。
 
「では、平日の夜に言ってみるとか」
ここでまずひとつ、旦那さんの癖がでる。
 
「私が寝てからも、ゲームしてるんですよ」
「えー」
「ずっとゲームなんです」
 
なんかどこかで聞いたような話だぞ。
 
「もしかして、バイクとゲーム三昧ってことですか」
「そうなんです」
 
もしかして、結婚後も趣味に没頭している夫ですか。
 
「あの。立ち入った話ですけど、生活費はどうされてるんですか。ひとつのお財布ですか」
「あ、別々です。月々決まったお金を入れてもらうようにしています」
やはり別々のお財布か。
「別の財布ですか。なぜなんでしょう」
「結婚したからって、趣味をやめたくない。だから別会計だって言うんです」
 
きた。夫婦の財布がひとつじゃないんだよ。
この話、ほんとに多いな。
「おっさんは、この話、どうしたらいいと思いますか。うちの夫どうやったら、将来のこと考えてくれますか」
女性は、少しイライラして、私に聞いてきた。
困ったなあ。
さっきアドバイスしたとき
「それはやってみたけど、うまくいかなかった」
って答えられたから、もう言いたくない。
 
ラチが開かない、と思っているのはこちらも同じだ。
えい。一かバチか自己開示してやろうじゃないか。
 
「そういえば、僕もそういう夫でした。昔のことですが」
「将来考えなかったんですか」
 
怪訝そうに彼女が聞く。でも、興味はありそうだ。
 
そこから私は一気に話し始めた。自然と言葉がでてきた。
「自分の時間を削ることが嫌だったんですよ。結婚しても友だちと飲みにいきたかったし、夜遊びしたかったし、趣味でたくさんCDやレコードを買いたかったし」
「えー。結婚した自覚ないですね」
女性は少し身を乗り出した。
 
「そう言われると痛いなあ。妻のことが嫌いだったわけじゃないんですよ。でも、自分の時間が欲しいっていうか。あと、仕事が忙しすぎて、家に帰る前に息抜きが欲しかったって言うか。あっ、思い出した」
「なんですか、大きな声出して」
女性はびっくりしていた。
 
「すみません。すみません。僕も言われてましたよ。『あなたは先のことを考えてくれない』 って」
「同じこと言われてたんだ」
彼女も驚いていたが、僕も驚いていた。
なんだか、いろいろ附に落ちた。
 
「あなたは先のことを考えてないから嫌だ」
昔の妻に言われたこと。ちょうど結婚3年目くらいだっただろうか。
でも、僕にはどうしていいか、わからなかった。
 
「先のことって、どういうこと?」
具体的なことで聞いてみたけれど、答えはノーだった。
「先のことは、一人で決められないから」
元妻は口を尖らせながら、曖昧に答えた。
当時僕は、話せば話すほど、ますますわからなくなった。
「先のことを、考える」 簡単なようで理解できていなかったのだ。
 
「なぜ、あんな風に言われてたのか、今、わかりました」
僕は目の前の20代の既婚女性に言った。
「えー。今わかったんですか」
「そうです。残念ながら、今です」
「今、どんな風にわかったんですか」
女性はあきれたように訊いてきた。
 
立場が逆転していた。僕がレンタルされて話を聴くはずなのに、
彼女に僕の話を聴いてもらっている。なんということだ。
 
「一緒の家庭、っていう自覚がたりませんでした」
「えー、それはひどい」
彼女は顔をしかめる。
 
「家に来た彼女がずっといる、みたいな感覚で思ってたんですけど。彼女の方は、家庭、ってきちんと思ってたんでしょう」
「最悪ですね」
彼女はさらに顔をしかめる。
 
「同居人、て感覚かな。だから、住宅のこととか、子育てのこととか、そのうち、そのうちって思っていて、何も考えていませんでした。仕事、自分の世界、そして家庭、みたいな感覚でした」
自分で言いながら、あの頃の自分が蘇ってきた。
そうだった。仕事の拘束時間が長く、ストレスもたまる。それを解放するだけで、精一杯だったのだ。
 
「それで、旦那にはどうしたらわかってもらえますかね」
彼女はちょっと苛つきながらも、また聞いてきた。
 
「うーん。難しいけれど。そのうちっていつだよって、具体的にするしかないですね」
「それもやってみました」
きたぞ、やってみました攻撃。ひるまずに僕は聞く。
「確かに、やってみたかもしれませんけど、何回言いました?」
「2,3回です」
「何度も言ったほうがいいと思います」
「何度も言うってそんな」
彼女は呆れたように言う。
 
「なんかアイデアないのか、って思うかもしれませんが。僕がそうでした。先のことを考えない、って何百回言われてもわからなくて。今こうして話を聞いてるうちに、わかりましたから」
「えー。鈍すぎませんか」
彼女は吐き捨てるように言う。
 
あー、なんかまずいパターンだな。
もっと彼女の気持ちを聞けばいいのに、何をやってるんだろう。
 
「鈍いっていうか、男と女で言葉の使い方が違うのかもしれません。
先のことを考えない、って言葉をもっと噛み砕いていってあげてください」
「噛み砕くとは?」
 
こうなったら、提案し続けるしかない。
「年表を作りましょう。家族の年表を。家を買うならいつまで、35年ローンを組むならいつまで、とか。子育ても具体的に年表で考えましょう。定年までに成人してほしいとすると、子供は何歳までに作るのか、とか」
「あー、たしかに。子ども、何歳で産むべきかなあって、思っていました」
彼女がやっと同意してくれた。
 
「それを一人で抱えていないで、伝えましょうよ。年表で」
「そこまでしないとダメですか」
女性はため息をついた。
 
「そうです。具体的にして、二人で決めなきゃいけないことが一杯あるんだよって。二人で考えて二人で決めること。それが先を考えることだって。妻からしたら、それが安心につながることだってことを。結婚しても、独身のような振る舞いでは二人で進んでいる実感がないんだってことを伝えてあげてください」
「うーん。それでわかりますかね」
彼女は不審そうに言う。
 
「少しは変わると思います。独身と同じような振る舞いが不安にさせてるんだってことがわかれば」
「たしかに、独身と同じじゃ不安、てのは言ったことないので言ってみます」
彼女は、やっと言うべきことを見つけてくれたようだ。
 
ふう。今日は、喋りすぎたかもしれないけれど、まあ、納得してくれたかな。
 
「ところで、再婚されたんですよね」
お、逆質問か。
「レンタルやってて、大丈夫なんですか」
ほっとした私は気を素で答えた。
「あ、これは独身時代からやってたので」
 
「えー。独身と同じじゃダメって言ってたじゃないですか」
 
最後に痛いところをつかれました。
 
「先のことを、考えてない」
もし、この言葉が奥様からでたら要注意です。
 
ぼんやりした不安を、ぼんやりのままにせず
寄り添ってください。
 
 
 
 
***
 
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2021-08-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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