メディアグランプリ

水も滴るいい男


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:杉下 薫(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
8月某日、僕は胸までずぶ濡れの格好で女の子とのデートに向かっていた。
雨が降るこの日、バス停でスマートフォンをいじりながらバスを待つ僕に、スプラッシュマウンテンのように水を跳ね上げ走る車が水を浴びせ走り去ったのだ。
ここは約半年前まで住んでいた東京とは違う田舎である。車と歩道の距離が近いため注意しなければならなかったのだ。
いったん家に帰り着替えるべきかとも思ったが、このバスを逃すと次は一時間後である。遅刻して相手を待たせるほうがまずいし、待ち合わせまでに服が乾いてくれることを祈りそのまま行くことにした。
 
僕はつい最近まで孤独の真っただ中にいた。
4月に新たな就職先が決まって以来人生初となる一人暮らしを始め、職場の人たちや職場環境には恵まれていたのだがいかんせん休日は遊んだりする相手もなく暇を持て余していた。
加えて新型コロナウイルス感染症の影響で職場の歓迎会などもなく人と接する機会さえ減っていた。
 
新しい土地
新しい職場
初の一人暮らし
交代勤務
 
地元東京からも離れてしまったため学生時代の友人と会う機会もなく、職場以外では誰とも話さないのはいつものこととなっていた。
これだけの条件がそろうと孤独に陥ることも仕方がない気はするが、新型コロナウイルス感染症のせいで自分のような「仕方がなく」孤独に陥る人間が全国いると思うと、空恐ろしいものである。
 
ただ、そんな状態でも孤独を紛らわすことができたのは、Twitterのおかげだ。
僕は就職するまで無職独学で公務員試験の勉強をしていたためその時も孤独だったのだが、Twitter上で同じ公務員を目指す仲間を見たり、くだらないネタ関係のツイートを見たりするといくらか気分がマシになった。また、試験に落ちるのではないかという不安や緊張に常にさいなまれている状況で自分の考えや知識、気持ちを整理してアウトプットすることができたのは精神を安定させるのに役立った。
他にも、日々の試験情報の収集もTwitterでしたし、僕は面接で苦労したため実際にTwitterの人と会って面接練習してもらう機会もあった。僕の公務員試験はTwitterとともにあったと言っても過言ではない。
その時のアカウントで無事公務員となれた今でもフォロワーの方と絡むおかげで楽しく過ごしていたし、時にはTwitterをしているだけで一日が終わり、やろうと思っていた資格の勉強もできないような日も多くツイッター廃人、いわゆる「ツイ廃」であった。
 
そしてこの日は以前会ったフォロワーの女性と会う二回目の時であった。
この女性とは以前から面接練習やDM、交換したLINEでやり取りをしていて、前回は東京で遊びとても楽しかったのだが、当然たった一回会っただけで交際することなどは想像できなかったし、異性として会うというより今回もお友達として遊ぶつもりだった。
 
そしていざ待ち合わせ場所に到着し、また対面した。ふと思ったのだが、彼女はかわいい。色白の肌に童顔で可愛い顔立ちだがスラッとしたモデルのようなスタイル。LINEのトップ画を見た時や前回会った時にも思ったがそれを再確認する形となった。話も合うし、一緒に話していて楽しい。肩ひじを張らずに話せてホッとできるのだ。また、前回は僕が東京に出向いたのに対し、今回は僕が住んでいるほとんど何もない片田舎まで自分から出向いてくれた。東京のほうが絶対楽しめるし、僕も当然東京を案内するつもりだったのだが、ここまで来てくれる時点でとてもいい子であることは確信していた。
遅めの昼食を食べた後2人でカフェでお菓子を食べていたのだが、僕はしばし沈黙し熟考した。
 
彼女が急に黙ってどうしたのか聞いてくる。
 
僕は何事にも準備をする方だし、こんなことを言うのは珍しいし急で申し訳ないと前置きした。そのうえで、きみと一緒にいて楽しいし、付き合いたい。そう伝えた。
 
彼女はひどく驚いたようですごくはにかんでいた。
とても急なので決心がつかない。このデートを解散するときに答えるねと答えた。
 
だが、嫌そうな素振りはなくむしろ嬉しそうだ。その反応を見ると僕はほとんど無意識に彼女の手を握り
君のことが好きなんだ。付き合ってくれ。そう言っていた。
 
すると彼女はいいよ。よろしくお願いします。そう答えてほほ笑んだ。
 
僕は雨に濡れ冷えた身体まで温まるよう気持ちとなった。
服は乾いていた。
その後僕たちは天狼院書店の中を見たり、カフェでくつろいだり夕飯を食べ解散した。
手を繋いだり顔を近づけたりするだけのとても初々しいデートだったが「彼女」が楽しんでくれてとても嬉しかったし、孤独な毎日もこうした日があれば乗り切れると思えた。
 
そんな多幸感に満ちた帰路だったが、Twitterを見ると、彼女と会う前にびしょ濡れとなった自撮りをアップしたのだが、それに対してフォロワーの女の子から「服装陰キャ(陰気な人の蔑称)じゃね?」という反応があった。
まだまだ水も滴るいい男には遠いみたいだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-08-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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