しあわせのレンチン弁当
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:スミ咖(ライティング・ゼミ日曜コース)
「おいしかったー!」生きてきてこの言葉をもう何度使ったことだろう。いちごたっぷりのケーキ、とんでもなく大好きなスパイスカレー、色んなものを食べてきて、何度も何度もおいしさを噛みしめる経験をしてきた。
それと同時に一緒に食事をする人の「おいしかったね」も聞いてきた。
おいしかったを言ったり、聞いたりするのは、特別な食事を店で食べた時が多かったと思う。だけど、店ではない場所で、この上ない「おいしかった」に出逢った。
保育園で働き始めて12年。色んなこどもと、そして家庭に出逢ってきた。こどもに個性があるのと同じように、親にもいろんな個性がある。個性というか、性格、習慣と言った方がいいのかもしれない。1度言えば持ち物が揃う家庭もあれば、何度伝えても持ってこれないところもある。こどもに対応するように、家庭状況も把握して、無理のないよう、過ごしやすくすることも自分の仕事の1つだ。
数年前担当したその子の家は、4人もこどもがいた。お父さんがあまり子育てに積極的ではないようだった。お母さんが送り迎えをして、もちろん仕事もこないしていた。
保育園でその日あったことを書いた連絡帳に、お母さんからの返事がある日はなかった。持って来て欲しい着替えは、3回言ってやっと持ってきてもらえる。眠っているのをだっこされて、登園し、保育園で目覚めるなんて日もあった。とにかく、その日生活して、過ごしていくのがやっとみたいな状況が手に取るように分かった。
だから、絶対に忘れてはいけない物については、1週間前、3日前、そして前日と何度も何度も伝えるようにしていた。そうでないと、困るのは、悲しい思いをするのはこどもだ。遠足の弁当の時が必死だった。これがないのは本当に困る。いつも以上に確認に、確認を重ねた。
遠足当日の朝。いつも通り彼女が保育園にやってきた。手には小さなバックを下げている。よかった、弁当は持ってきているようだ。
「おはようございます」と迎え入れる。
「おはようございます! 今日ね、お弁当作ってもらったよ!」
にこにこしながら、弁当が入っている、バックを見せてくれた。
「よかったね。お昼に食べようね」作ってきてもらえて、本当によかった。
「お弁当ありがとうございます。朝から大変でしたよね」
お母さんに、お疲れ様のきもちと、忘れずに持ってきてくれたことに感謝を忘れないよう、声をかけた。
「ねえ、お弁当もう食べる?」
登園してまだ1時間も経っていない。時計は9:30をさしている。
「まだまだ。お昼になってからね」
話しながら、遠足に出かける準備をして、出発した。
目的地の公園で、ブランコや虫獲りをして遊び、待ちに待った弁当の時間が来た。
「ねえ、開けていい?」
「まだ。みんなでいただきますしてからね」
待ちきれない様子で、自分の前に置かれた弁当を見ている。
「みんなお弁当作ってもらえてよかったね。いただきますして食べましょう」
「いただきまーす!」うれしさに満ちた声が、公園中に響き渡った。
「見てー! 私のお弁当トトロだよ!」
「僕のはアンパンマン!」こどもたちが、自分の弁当を次々に自慢する。
「わーよかったね。かわいいね」こどもたちの弁当を見ながら、家でお母さんが格闘して作った様子を思い浮かべていた。
そして、彼女も、弁当を見せてくれた。
「見て! 先生!」と話す彼女の弁当を見た。
印象は、茶色いな……。
弁当箱の半分に詰められたごはんには、ちょこんとたまごのふりかけが乗っていた。
そしてその半分には、から揚げと、ハンバーグ。
冷凍ものを自分も使ったことがあるから、分かる。明らかにそれだった。
みんなが、かわいいキャラクターの弁当を披露する中、一体どんなきもちで食べているのだろうか。彼女は黙々と食べていた。
彼女のきもちを気にしながら、保育園に戻る。
そしてお迎えの時間になった。帰る前、こどもたちに「お母さんに、お弁当のことお話してね」と言ってその日を終える。みんな迎えが来ると、お母さんのもとに駆け寄る。迎えがうれしすぎて、弁当のお礼を言う子はほとんどいなかった。
彼女のお母さんがとぼとぼと迎えに来た。
「おかえりなさい」と出迎え、彼女に「お迎えだよ」と声をかける。
急いで荷物を持ち、駆け寄って来た彼女は、
「お母さん、お弁当ありがとう! おいしかったー!」
と満面の笑みで1番に言った。
正直あの弁当は、栄養のバランスも彩りも悪い。もっとかわいいお弁当にしてあげればよかったのに。とか、彼女はかわいそうな子と思っていた。
だけど、それは私の考えであって、彼女はとてもしあわせそうだった。彼女は十分に満足していた。
今まで聞いた中で1番きもちのこもっている「おいしかったー!」は、しあわせの度合いは自分自身が決めること、自分が十分に満たされていればいいのだということを教えてくれた。
***
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