「やっててよかった」は、ほぼスポーツだった
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:西元英恵(ライティングゼミ日曜コース)
「お母さん! おやめください!」
ピシャっと言われたその一言に一瞬で背筋が伸びる。
久しぶりに大人に叱られ「ひーっ」と心がたじろいだ。
「あ、申し訳ありません……」
来春小学校に上がる長男が、この夏入会した「やっててよかったK式」の先生だ。
教室で説明を聞いている最中、一緒に連れて行ったイヤイヤ期の次男が騒ぎ出したので手っ取り早く黙らせるべく、つい口にラムネを放り込もうとして注意を受けたのだ。
ここは飲食禁止だ。
信頼している友人に前々から勧められてはいたのだが「はたして幼児にお勉強がいるのか」と、その必要性を感じず体験すらしたことがなかった。とはいえ、あと半年近くで小学生になる事についての焦りが急に湧き出した私は「やはり何かしらの準備を」と、この夏初めてK式の門を叩いたのだった。
毎日のようにのびのびと外遊びばかりをやってきた私たち親子は、お勉強系の習い事の場が一体どんな雰囲気なのかわからず恐る恐るの体験となった。
そこで冒頭のように叱られてしまったという訳である。
(先生、厳しそう……やっていけるかしら、私……)
息子がやっていけるかどうかより、自分の心配になってしまっている。情けないがこんな心情だった。
さて、息子の体験学習が始まった。
私から離れ教室の真ん中の方に連れて行かれる。生徒さんに混じっての体験だ。
簡単なテストのようなものをするらしいけど、うちの息子は一体どこまでできるのか。
家でひらがなや数字の簡単なドリルを買い与えたことはあったが、途中で辞めてしまい最後のページまで行き着いていないまま書棚の隅でホコリをかぶっていた。
ものの10分程度で先生に連れられ息子が戻ってきた。
開口一番先生が言う。
「初めての場所で他の生徒もいる中、自分のことに集中できるのはすごいです!」
(そうなの? とりあえずよかった!)
親バカだけど息子を褒められるのはやはり嬉しいものだ。先生は厳しい一面もあるが、子供の意欲を引き出す達人でもあるらしい。
その後、息子が解いたプリントを元に先生がその場で私にフィードバックをしてくれた。
しかも、その内容が結構細かいのだ。
「1回目はここがひっかかりましたが、2回目にサポートを入れることで上手くできました」
できた箇所、できなかった箇所、サポートありで改善できた箇所など詳しく教えてくれた。
そう、K式の最大の魅力はこの細やかな「フィードバック」だと私は思っている。
実は並行して他のお勉強系の教室にも体験に行ったのだが、フィードバックの量が全然違ったし、内容も簡単なものだった。
それを経験したからこそ、K式のフィードバックの細やかさに感動したのだ。
K式では一応毎日家庭学習をするという前提で、日数分の宿題が出される。
フィードバックはこの家庭学習をリードしなければならない母親たちにこそ十分に与えられるのだ。
まず親が宿題のやり方について指導を受ける、家庭学習の様子を録画して先生に送る、その中で良かった点や改善点などがメールで届く、それをもとに翌日以降の家庭学習に活かす……といった形だ。これにプラスして教室では息子に対して生のフィードバックが行われる。
これを無料の体験学習でがっつり味わわせてもらい、入会にもう迷いはなかった。
いざ入会してみてお勉強系の概念はガラリと変わった。
K式はほぼスポーツみたいなものだ。
未就園児の集中力が持続する時間は一般的に年齢+1分と言われている。
息子は5才だから6分だ。おいおい、そんなに短いのか。
となると、1日分の宿題をこなそうと思うと短時間勝負となる。
宿題をやろうとする時は、リビングのテーブルを片付け、教材を揃えてから息子を呼ぶ。
「いまから宿題やるよー!」
先生に送る動画を撮る準備も整え、いざスタート。
まずは運筆のプリントだ。運筆とは鉛筆を自由に動かせる力のことだ。これが学習能力の基礎となるらしく幼児は特にこの運筆に力を入れるのだそうだ。動物、お菓子、花……さまざまなイラストに見立てた迷路に沿って直線や曲線を描いていく。
一球入魂ならぬ一枚入魂といった感じで集中力が途切れないうちにどんどん次に進ませる。
そして忘れてはいけないのが声掛けだ。
幼児のうちは特にこの声掛けが重要らしく、もう親子の共同作業と言ってもいいくらいだ。
息子のやる気がそがれないように真横から松岡修三ばりにアツく応援する。
「いいよ、いいよー、その調子」
「まっすぐ描けてるよー、上手だよー」
「おしいね、はみ出しちゃった、やり直そうか」
息子の運筆を見守りながら私は学生の頃の部活を思い出す。テニス部で炎天下での練習中、球拾いをしながらコートの先輩に向かって声を出す。
「先輩、ナイスボールでーす!」
声出しは得意な方だ。
もう一つテニス部時代を思い出すのは、K式の先生とのラリーのような言葉のやりとりだ。
家庭学習の動画を送ると先生から早速返信が来る。
「お母さん、声掛けいいですね。その調子です」
「教材のページのめくり方はこういうやり方でお願いします」
「宿題の進みはいかがですか」
いろんな角度から先生がアドバイスをくれる。それに親が応え、また返信が来るといった具合だ。コロナ禍で週に2回の教室のうち一回はzoom学習に切り替わっているが、それも合わせると結局週に4~5回は先生とやりとりをしている。
最近では録画した宿題動画を見返すのが楽しみだ。
宿題動画は主に鉛筆を握る手元とプリントを撮影するのだが、その画面に時折息子の顔が入り込む。その真剣な眼差し……こんな表情見たことない。
変顔で踊り狂ってみたり、急にお尻を出して大笑いしたり、部屋をウロウロしながらお菓子を食べて私に叱られたりと控えめに言っても普段の息子はアホ丸出しだ。
仕方ない、私に似たのだ。
しかし、普段はなかなか見ることのできない息子のこんな表情が見られただけでも入会して良かったと思っている。
はっきり言って私は勉強が苦手だ。
だから「母親の遺伝子が子供の、特に息子への学力に影響する」という話を聞いた時は「息子よ、すまん!」と全力で謝りたくなった。これは噂レベルの話ではないらしく、数年前に文科省が全国的に学力や学習状況調査をもとに分析した結果から来ている。しかも、うちは息子が二人。ため息が出そうな話だ。
しかし、だからといって諦めるわけにはいかない。勉強は苦手だけど、スポーツの応援みたいに子供たちを見守り声を掛けてあげることだったらできる。幸い私にはフィードバックが丁寧な熱血漢のコーチがついている。
これから先、息子たちが成人するまでは長い道のりが続く。その長い期間、息子たちの傍らでハチマキを締めて声を出しウザいくらいに彼らを応援していこうと密かに決意している。
***
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