メディアグランプリ

ゼロから始まる、新しい私


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:内藤 睦(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「あーっ、なんで私がやらなきゃいけないんだろう!」
大声を出したくなる、荒ぶる気持ちを静める。
 
我が家は4人家族。旦那と7歳、5歳の子ども2人がいる。共働きだが、私の方が家事の分担は多い。
大事な家族にしっかり栄養を摂ってほしいから、早起きして朝ご飯の支度をする。子どもにしっかり身に着けてほしいから、子どもの習い事の宿題を見る。家を綺麗に保ちたいから、大掃除をする。
でも、進んでやっていることのはずなのに、時々イラッとする時がある。
それは、家族に「やってもらって当たり前」といった態度を取られた時だ。
 
たとえば、朝起きたら子どもが体調を崩していて、病院を予約したり、自分の仕事の予定を変更したり、といった突発的な対応が必要になった時。
旦那は、ふだん家事を割とやってくれている方だと思うが、朝ご飯の支度は私に任せているので、いろんなところに連絡して朝ご飯の支度が進んでいない私の状況を見ても「やろうか?」と動くところまでは至らない。子ども達と一緒に、ご飯ができるのを待っている。
子ども達は当然動かない。各自やりたいように過ごしていて、こちらには無関心だ。
 
そんな時、イラッとする。
みんな、私が動いて当たり前と思ってるでしょ。
自分達が何もしなくても朝ご飯が出てくることが当たり前と思ってるでしょう。
そういう状況ってストレスだ。
 
そんな時、思わず出そうになる大声を引っ込めて「今、私が消えたらどうなるんだろう」とふっと想像する。
消えるのは大ごとだけど、「今日はしんどいからできない」と言ってさぼったら、困るんだろうなあ。
そして初めて、やってもらうありがたみを感じるんだろうなあ、なんて思う。
動かなくても朝ご飯が出てくる楽ちんな状況。
ストレスがない状態は「自分で手を動かさなくてもできている」状態で、それは誰かが動くことで成り立っていることに、他の家族は気づいていない。
動いてくれた誰かに対してありがたみを感じていない、贅沢な状況なのだ。
よく言われる「病気になって初めて、健康のありがたみがわかる」というやつだ。
あるのが当たり前で、ありがたみを感じないのだ。
そこにありがたみを感じてもらうためには、どうしたらいいのか。
 
そんな時、ふとゼロのことを思い出した。
 
私は教える仕事をしていて、数学を教える機会が多い。
数学では、数を自然数、整数、有理数、無理数などと分類することを学習するのだが、「ゼロはどうして自然数じゃないの?」と分類に悩む生徒が多い。
 
自然数とは、個数や順番を表す数のことであり、高校までの数学では「ゼロは自然数ではない」と分類する。
でも最初に算数を学ぶ小学校では、「1、2、3……」という数字と一緒に「0」を習って慣れ親しんでいるので、多くの生徒が「ゼロだけ自然数じゃないの?」と混乱するのだ。
 
このことを説明する時、私は大昔の人が数を発明した時に思いを馳せて説明する。
数学という学問的には正確でない部分があるかもしれないが、昔の人の気持ちをイメージしながら考えるとうまく理解してもらえるような気がするのだ。
 
太古の人々は、数というものを持たなかった。その頃は、自分の家族の人数も、その日採ってきた木の実の数も表すことができなかった。
その後、数が生まれ、自分の身近にあるものの数を伝えることが簡単にできるようになった。
その時、身の周りのものの数、たとえば、自分の飼っている羊の数を説明するために生み出されたのが自然数なのだ。
 
つまり「私は羊を3匹飼っている」というのは、自然数を使って説明できる。
でも「私は羊を1/2匹飼っている」というのはあり得ない。だから分数や小数は自然数ではない。
そして「私は羊をゼロ匹飼っている」とはわざわざ言わない。「私は羊がない」で済む。
だからゼロは不要だったのだ。
 
でも人間はある時、ゼロを発明した。「そこにない」ということを表すために、ゼロという数を発明したのだ。そしてゼロという概念が生まれたことで、計算方法などが飛躍的に進んだ。
 
だから、人間は「そこにそれがない」ということを認識することができる。
そこに何もなければ意識を向けない、ということではない。
私たちは、ゼロのように「そこにない」ということを認識することができるはずなのだ。
 
私も「家族に自分の働きをわかって欲しい!」と思う一方で、家族の認識を促す言葉が足りていないのかもしれない。
忙しいと慌てふためいてしまってなかなか冷静に説明できないけれど、一呼吸おいて、家族に対して
「私、今急ぎで別のことをやらなければならないの。だから、お箸を並べるのとご飯をよそうの、手伝ってくれない?」と落ち着いて言葉にすることはできないだろうか。
そうやって「いつもはあるけれど今はない」という状況を分かってもらえるように説明できるのではないだろうか。
そうすれば、私はイライラしない、新しい自分になれる。
 
それどころか、私自身、今まで「便利が当たり前、不便はイヤ」と便利を求めてきて、不便の不在のありがたみを感じていなかったのではないだろうか。
いつもそこにあることが当たり前。それどころか「もっと、もっと……」と思ってしまう。
そこで一呼吸ついて、今あることのありがたみを感じると同時に、ないことのありがたみも感じてみてはどうだろうか。
 
健康のありがたみを感じる。
目立った身体の痛みや苦しみがないことのありがたみを感じる。
モノに囲まれていることのありがたみを感じる。
モノがないことの不便さを感じないことのありがたみを感じる。
家族がいることのありがたみを感じる。
大切にしたいと思える人がいない寂しさがないことのありがたみを感じる。
 
それは、想像力を使うことや、そこに至るまでの経緯に思いを馳せることで可能になるはずだ。
 
ゼロを発明し、使いこなしてきた人間の一員なのだから、注意を向ければきっとできるはず。新しい自分になれるはず、だ。
 
 
 
 
***
 
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2021-09-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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