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腹心の友と親友


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記事:九條心華(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
腹心の友というが、どんなことでも打ち明けられるような友人が私にはいなかった。いや、いなかったというと語弊がある。有り難いことに親友はいてくれた。でも、私が自分からなんでも打ち明けようとしなかっただけだ。
 
どうしてそうなったのかは、わからない。考えられるのは、家庭環境とプライドだ。
 
友達をうまくつくれるほうではなかったが、保育園でも友達はいたと思う。写真を見たら、友達に囲まれて、思い切り笑っている私が写っている。
 
でも、小学校に上がって、休み時間に一人のことが多いという記憶がある。自分からクラスメイトに話しかけなかったからだ。恥ずかしがりというか、話しかけてもらうのを待っていた。コミュニケーション能力に欠けていたと思う。
 
2年生はクラス替えもなくそのまま持ち上がりだったので、状況は変わらなかった。が、転校生がやってきた。とてもかわいくて、髪の毛がちょっと栗色がかっている上に、自然と毛先がくるりとしていて、お洋服も素敵で、お洒落な西洋風のお人形さんのような女の子だった。しかもバレエをしているという。垢抜けているという表現が適切だと思う。田舎の小学校に、都会の洗練された女子が入ってきたという感じだ。
 
その子が、私になぜか注目した。一人ぼっちだったからだろう。やたらと私に話しかけてくれる。積極的に友達になってくれた。私はまんざらでもなかった。偉そうな言い方だが、本当にそんな感じでいた。
転校生は、とても積極的で、元気で明るくて賢くて、一生懸命な女の子だった。体育の時間には、一生懸命頑張って力を使い果たして、教室に戻る階段を上がるときに、私に「引っ張って-」と甘えるようなかわいい性格だった。素直で、開けっ広げで、自分をさらけ出せる。
私は、そういうところに嫉妬していたと思う。
 
私は、我慢する子どもだった。周りに合わせて、迷惑をかけないように自分がトイレに行きたくても我慢してしまう。我慢しすぎて、保育児なのに膀胱炎になった。甘えることもできていなかったのだろうと思う。保育園の年長になっても、指を加えていて、親指にタコができていた。お母さんを悲しませてはいけない。そんな思いがどこかにあったのだろう。妹が平均よりちっちゃくて、すぐ熱を出したり、肺炎になって入院したりしたので、妹に手がかかっていたと思う。
 
私は熱っぽくてしんどくても、しんどいことは罪だと思っていたので、しんどいと言えなかった。我慢して我慢して、ふつうに元気そうに見えるように振る舞って、それでもしんどくて母に熱があることに気づいてもらえたときに、わんわん泣いたりした。やっぱり甘えたかった。
 
そんなふうだったから、目の前のことに全力投球して、しんどいとか疲れたとか甘えたりできる友が、うらやましかった。私には、とても眩しかった。
 
2年から3年に上がるときに、クラス替えがあったけれど、運よく私は、その転校生と同じクラスになった。いや、運ではないと思っている。結局卒業まで同じクラスだったのは、担任の先生方のお取り計らいだろう。転校生は誰とでも仲良くなれるけれど、私は誰とでも仲良くなれなかったからだ。
 
そんなわけで、私はその転校生にずっと仲良くしてもらった。クラブ活動が始まれば、放送部に入って、校内放送をアナウンスしたりして、どこまでも華やかだった。私は、読書クラブとか、どこまでもおとなしく過ごしていたと思う。
5年生に上がるころだったか、6年生に上がるころだったか、ある日その友が、中学校を私立受験すると言った。田舎者の私は、私立というものを知らなかったし、まず意味がわからなかった。中学に合格して入ったら、エスカレーター式で大学まで上がれるから、お得だよ、というような説明をされた。よくわからないけれど、私はその友と同じ学校に行きたいと思った。その頃には、私のことを親友と呼んでくれていた。私を親友と呼んでくれることがとても嬉しかった。
 
父に言うと、父は私を近くの本屋さんに連れて行ってくれた。1科目1冊ずつ、中学受験対策の本を買ってもらった。その帰りに、父の行きつけの小料理屋さんに連れて行ってもらった。カウンターの高い椅子にちょこんと座って、父の左隣でおうどんをいただいた。大将と楽しそうに話しながらお酒を飲んでいる父を見ながら、私も楽しくなった。父の息抜きの場を垣間見た。
 
その買ってもらった本で独学していたが、親友には受験することを話さなかった。なんで話さなかったのかというと、きっと落ちたらかっこ悪いからだと思う。プライドが高いと思う。
 
親友はなんでも話してくれるのに、私は自分の心の内を打ち明けない。自分で壁をつくっている。そんな私によくつきあってくれたなあと感心する。
 
運よく私たちは2人とも合格して、同じ中学校に入学したが、中学校では同じクラスになることがなかった。親友は引っ越しをして、通学路も違ったので、話す機会がなくなった。
 
私は、親友と同じ中学校に行きたかったから、受験したわけだけれど、私たちは中学校に入ってから、ゆっくり話すことすらなくなった。でも、年賀状のやり取りは続き、大人になっても、結婚しても、つながりはあった。
 
親友が先に結婚をして、幸せに暮らしていると思っていた。あるとき、共通の仲良しだった友達の結婚式であったとき、離婚していたということを聞いた。私はそのときまだ結婚をしていたが、DVにあっていた。でも、そのことを誰にも言えなかった。恥ずかしいことだと思っていた。
 
母にも、親友にも、言えずに我慢していた。自分が悪いと思っていたからだ。それに、私と結婚してくれる人はこの人以外にいないと思っていたので、1人になるのが怖かった。誰か一人でも打ち明けていたなら、もっと早くに離婚を決意したかもしれない。でも、誰にも話さなかった。万が一のときは、警察にも言えないから、母に電話をかけられるように、ポストに10円玉を隠していた。そのころの思考を、いまから考えるとすべてがおかしいのだが、そのときはこれしかないと思って生きているのでしかたがない。
 
結局、その状況の突破口は、人に話したことだった。DVのことではない。私が夫を扶養していたことについて、人からちゃんと考えるべきだと言われた。いろいろと考えた末に、1年後に離婚を決意した。
 
親友とは、ほとんど逢う機会がなかったけれど、私にとってその親友の存在はとてつもなく大きい。親友と出逢わなければ、私が私立中学に行くことはなかっただろうし、私の人生がそこから大きく変わっていったと思っている。だから、親友のことを大切に感じている。
 
あるとき、お盆休みに帰省したときに、声をかけてみたら都合よく逢うことができた。
親友が打ち明けてくれた。私、LGBTだと。
きっと、そのことを昔から知っている人に打ち明けることは、とても勇気がいることだと思う。打ち明けてくれて、私はより親友のことを知ることができた嬉しさを感じた。人を理解しようとする気持ちが、友情というものなのかもしれない。
 
私は、自分の結婚生活について打ち明けて、自分がどう感じてきたのか、いまどう思っているのかを、話した。ゆったりとした時間が流れていく。親友と本当の腹心の友になれた気がした。
 
心から理解し合えるというのは、なかなかできないことだけれど、それに近づこうとする気持ちは、腹心の友だから湧いてくるのかもしれない。
 
自分の気持ちを率直に話すことが、他者を理解し、自分のことを理解する第一歩だ。
 
腹心の友と私の人生に幸あれ。
 
 
 
 
***
 
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2021-09-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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