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初見で理解できるほど映画は甘くない


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:村人F(ライティング・ゼミ 超通信コース)
 
 
ほとんどの場合、映画は1回見れば十分だろう。
2時間くらい取られるし、劇場に行こうものなら2000円近く払い、その間スマホ厳禁の空間に晒される。
数ある娯楽の中でも、かなりハードな部類である。
だからほとんどの場合は、1回見てそれでおしまいとなる。
まあ気に入った作品であれば、数年経って見返すことはあるかもしれない。
しかし、期間を空けず劇場に通い詰めることはまず無いだろう。
 
かつての私はそう思っていた。
「ガールズ&パンツァー 劇場版」を15回、劇場で見るまでは。
 
 
 
「ガールズ&パンツァー 劇場版」(以下ガルパンと記す)を一言で表すと、女子高生が戦車に乗って全国優勝を目指すアニメ映画となる。
何を言っているのかわからない?
それはそうだろう。初見の私も全く意味がわからなかった。
「彼女たちの世界で戦車は、茶道・華道・戦車道と呼ばれるほど乙女の嗜みになっている」
「戦車は特殊な加工がされており、砲弾が直撃して爆発しても怪我することはない」
「街中を破壊しているけど、運営組織が修繕費を出すから問題ない」
こういった特殊すぎる世界観を理解できずに、ただただ呆然としていたのをよく覚えている。
 
本作のぶっ飛んだ設定も魅力だったが、最大のセールスポイントは音響だった。
これは私が見た場所も影響しているかもしれない。
 
東京の立川市に住んでいた時代である。
近所にあったその映画館は、とにかく音響にこだわっていることで有名だった。
なんせ1番大きなスクリーンは、スピーカーだけでウン千万円する代物を備えていたのだ。
その環境から出される低音は、戦車の砲撃音が鳴り響く本作と抜群の相性を誇っていた。
 
物語の開始を告げる砲撃音。
山1つ吹き飛ばす弾頭が引き起こす衝撃。
 
そういった音が尋常ではないボリュームで表現されていたのである。
あの衝撃は4DXのように席が揺れるわけではないのに、全身が震えるほどだった。
 
この音響のおかげで近所の映画館は本作の聖地となり、その売上は同時期に公開された「STAR WARS」最新作を遥かに上回ったという。
 
そんな映画であったから、人を誘うにはうってつけのコンテンツだったのである。
だから2回目の視聴は、初見の友達と共に行ったわけだ。
今思えば、これが初めて映画館で複数回視聴した経験だったように思う。
 
もちろん、最初は2回目でやめるつもりだった。
しかし映画の上映中、とあるシーンでトイレを我慢できなくなり席を外してしまったのである。
 
それが何故か悔しくなり、思考回路が「もう一回見に行こう」になっていた。
すると今度はまた別のシーンで寝落ちするという醜態を晒してしまったので、再び見に行くことにした。
その次は、原作アニメが未視聴だったことを思い出したので、履修してから見に行った。
 
そんなこんなを繰り返していたら、いつの間にか15回もガルパンを劇場で見ていたのである。
結局1年間この映画が上映されていたので、月1回以上通っていたことになる。
我ながら、よくこんなに見たもんだと思う。
近所に映画館があったからとはいえ自分に驚きである。
 
しかし、この経験は私の中である気付きを与えてくれた。
それは、映画は決して初見で理解できるほど甘いコンテンツではないということだ。
 
というのも、ガルパンを見た15回それぞれで、新たな発見があったからである。
2回目は世界観にも慣れてきたので、ちゃんとストーリーの大筋を理解できた。
4回目は50人近くいる登場人物も覚えてきたから、人間関係に注目して見られた。
6回目はアンチョビ隊長がかわいかった。
こういった具合に、同じ映画を見ているのに毎回違う気付きを得られたのである。
 
そして理解した。
映画にはおびただしい人数のプロが関わっているのだと。
 
考えてみれば当たり前のことだった。
スタッフロールで数分間かけて紹介される人々。
これが全て本作に関わったプロ達だからである。
そして、彼らが多くの時を費やして2時間程度に仕上げたコンテンツが映画なのだ。
ならば、詰め込まれた情報も尋常じゃない量であることは明らかだった。
 
そして、そんな代物を知識もない私が1度見たところで、どれほど理解できるだろうか。
おそらく全体の10%ですら把握できないだろう。
映画はそれくらいのポテンシャルを持った作品だった。
この事実にガルパンを15回見てようやく気付いたのである。
 
以後の私は、映画を複数回見ることに抵抗が無くなっていた。
「君の名は」は4回見ていたし、「名探偵コナン」も気に入った年は2回見ていた。
もう私の中で、映画は何度見ても問題ない、むしろ見なければ理解すらできないコンテンツとなっていた。
 
しかし一般常識で考えると、映画はやはり1回見れば十分という扱いである。
「2回も劇場で見て涙を流しました!」と言えば、「すごい映画好きなんですね~」と返されるし、ガルパンを15回見た話はもはや飲み会の鉄板ネタだ。
このように複数回見ることが、映画オタクでなければできないことになっている。
 
その原因はおそらく、現代のコンテンツ量があまりにも多すぎることにあるだろう。
「Amazon Prime」や「Netflix」などのサービスでは数万本の映画を視聴できる。
それ以外にもYouTubeやテレビ、ゲームに小説、マンガその他諸々と、おびただしいほどの娯楽が世の中には満ち溢れている。
そんな状況でわざわざ同じ映画を2回以上、しかも劇場で高い金を払って見るなんてことは、奇行と思われても仕方がないだろう。
これは贅沢な時代を生きる私たちの宿命である。
 
だが、そんな今だからこそ、映画を2回以上見る。
その効能について知るべきではないかと思うのだ。
 
1点目の効果は、理解力の向上である。
これは勉強における予習を思い浮かべれば想像つくことだろう。
授業前に内容を見ておけば、その分スムーズに理解できるという話である。
その効果が、映画でも如実に現れるのだ。
 
まず、2回目はストーリー全体を予習した状態で見られるのである。
これだけでも映画の見え方は大きく変わる。
 
初見であれば、何が起こるのかわからないからドキドキワクワクして、気がついたら終わっていた、ということになるだろう。
こんな状況ではちょっとした小ネタや、主人公の表情などの細かいところまで神経を使うことはまずできない。
 
しかし、2回目は流れを把握しているのだ。
だから余裕が生まれる。
これにより、細かい視点で映画を見ることができるのである。
 
「ここで犯人がいなくなっていたんだな」
「あの時の表情はそういう意図だったんだ」
こういった映画内にちりばめられた伏線を理解することも、複数回の視聴でようやくできることだろう。
 
また、目標を決めて見られることも大きな効用になる。
「今日は音楽の流れるタイミングについて集中しよう」
「次はアンチョビ隊長の可憐さを目に焼き付けよう」
このようにポイントを集中的に確認する場合は、初見とは比べ物にならない情報量になる。
そして、ここから得られる快感は、きっと他では味わえないだろう。
これが、理解力向上の効果である。
 
2点目の効果は、製作者へのリスペクトができるようになることである。
 
映画には凄まじいほどの人々が関わっている。
主題歌を2回流せるほどのスタッフロールが必要なのだから、これは明らかである。
しかし、彼らの仕事について、おそらく初見ではほとんど理解できないだろう。
映画の興奮でそれどころでは無いからである。
 
しかし、2回目以降の余裕があると、事情が変わってくる。
1つ1つのシーンに込められた、プロの情熱に思いを馳せることができるようになるのだ。
 
たとえば、ガルパンにおける1シーン。
そこでは、生徒がパイプ椅子を大量に積んだ荷車を押していた。
しかし運ぶ途中で崩してしまい、落ちてきたパイプ椅子に埋められてしまった。
彼女は泣き出す。
そこに、任務を終えた生徒会長が帰還する。
地味ながら、本作の重要な場面の一つだ。
 
初見だったら、会長を見つけメチャクチャ泣くところで感動するのが精一杯だろう。
だが、2回目からは別の視点が出てくる。
「このパイプ椅子は、どのように描いたのか」と。
 
そして、パンフレットや製作者インタビューを読み返し知るわけだ。
あの数十個以上あるパイプ椅子は全て、1人のスタッフがひと夏をかけて描きあげたシーンであると。
 
たかがパイプ椅子を、数ヶ月描き続ける。
この仕事は、もはや狂気に近い情熱が無いとできないことではないだろうか。
そして、こういったプロが数百人集まって作られたのが映画である。
それを実感したとき、彼らに心から尊敬の念を抱く。
これは、自身の仕事に対する姿勢を見直すキッカケになるほど、神聖なことであろう。
 
 
 
ガルパンを15回見た経験は、私の人生観に影響を与えたように思う。
全てのコンテンツは、多くのプロが多くの時を費やした物である。
この当たり前の事実に、気付かせてくれたのだから。
それを実感できる映画館が近所にあったのは幸運だった。
 
その後も映画音楽の講座を受講するなど、私の興味は年々増している。
そして映画だけにとどまらず、様々な娯楽を深く楽しもうとする姿勢をもたらしてくれたように思う。
 
それらのキッカケになった、あのガルパンの爆音は未だ心に刻まれている。
この衝撃は、生涯忘れないだろう。
おそらく、最も影響を与えた映画の座を明け渡すことは永久にないはずだ。
それくらいの知見をもたらしてくれた。
そして、これほどまでに本作の存在が大きくなった背景には、間違いなく複数回見た経験が根ざしているのである。
 
皆さんも面白かった映画があれば、ぜひもう1度見返してほしい。
それも数年後にテレビ放送で、といった形ではなく、間を空けずに劇場で金を払ってだ。
 
映画は決して、数年経たなければ新発見できないようなコンテンツではない。
2時間に込められた魂の結晶。
これらを心に刻み込むためには、むしろ短期間で複数回見るべきなのだ。
 
そのパワーは計り知れない。
なんせ、映画をほとんど見てこなかった私ですら、15回も劇場に足を運んだのである。
この感動は、体験しなければ決してわからないだろう。
 
そして得られた経験は、コンテンツだらけで1つ1つに対する印象が希薄になってしまった現代において、本来持っていた感動する心を呼び戻してくれるはずである。
 
この効果は映画だけに留まらない。
YouTuberが短い動画に込めた多くのこだわり。
マンガのちょっとした1ページに施された凄まじい書き込み。
ドラマ俳優の計算しつくされた表情。
 
こういった多くの視点を与えてくれるのである。
これにより、全ての娯楽を楽しむ目線が1ランク、いや2ランク上がることだろう。
 
そして、この目を通して見る世界は、コロナ禍で絶望に満ちたものではない。
素晴らしい作品に囲まれた、輝かしい宝石箱である。
 
皆さんも映画の2周目、してみてはいかがだろうか?
 
 
 
 
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2021-09-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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