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ある女医が、医学部不正入試問題についておもうこと


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記事:あだちあやか(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
2018年に医学部不正入試問題があった。医学部大学入試において女子や浪人生を不利に扱っていたことが判明した問題だ。
もうあれから、たくさんのニュースが世間を騒がせて、ちょっと昔のことにも思うけど(実際、いつの話だったかと今回調べて、まだ3年前の話なのかと驚いた)、あのときのことを少し思い出してほしい。
あのとき、どう思ったろう?
 
「差別は良くない」は、総意としてあったと思う。もちろんそう思う。
ただ、それとは別に「でも仕方ない」という意見も多くあった。テレビでコメントしている医療関係者にも男女問わず、仕方ない、という人もいたように記憶している。
わたしは女医で、そのときも病院で勤務していたが、実際、男性上司は「仕方ないよな」と言っていた。わたしもあのとき、そう思った。
 
「でも仕方ない」
 
SNSでそう書いたら、「内部の人がそう言うなんて、麻痺していませんか? それならこれから先、なにも変わらないじゃないですか」という意見をもらった。
それはそう思う。その通り、とも思う。
でも……でも……。
自分の中でうまく言葉にならなくて、このような問題で意見をしっかり持っていそうな同業の友人に意見を尋ねてみると、「女性として、怒っていい」と返事が来た。
 
「怒る」なんて思いもつかなかった。
何を怒る? 女性として差別されていることを? わたしは「仕方ない」、と思っているのに?
 
他人の意見に乗っかることも出来ず、曖昧な気持ちのまま終わったあのときから、やや時間が経って、あのときとわたしの立場もやや変化して、また今回長い分を書く機会を与えてもらったので、改めて考えてみたいと思う。
 
一応いっとくと、これは女医が書いている。それは間違いない。でもそれだけだ。
一女医の意見でしかなく、全女医ましてや全医者の意見ではもちろんない。
「ふうん、こんな意見もあるんだな」くらいに。内容が内容だけに、賛否あるかもしれないけどさ、なんていうか、なるべくフランクに行きたい、と思うよ。ほんとにね。
 
さて、本題を進もう。
あのとき、「でも仕方ない」その意見として挙がっていたのはこんなようなものだった、と思う。
・女性医師が増えると医療の質が下がる
・重労働だから女性には無理
・結婚や育児で仕事を辞めるから仕方ない
 
いや待って、ひとつめよ。
女医が増えて質が上がるとは言わない、でも下がるってなんでやねん。これは、さすがに怒る。
医療の質、をなにで判断するか分からないけれど、男女とも医師になるためには同じ国家試験に同じ基準で合格しなければいけないし、その後も勉強や診療の機会に差がつくことは個々人によるので、男女では差は基本的にない。
ていうか、ここで男女の差がつけられていて、明確に「女医は医療の質が低い」なら、ほんとに何も信じられん。
 
ちょっと取り乱してしまった、すみません。
次に進もう。
 
重労働が長時間勤務のことを言うならば、それは確かにそうかもしれない。朝出勤して、通常業務、当直してほぼ寝ず、翌日通常勤務(=まるまる一日半くらい病院に滞在している)、ということも、まぁないわけではない。もちろん科にも病院にもよる。
ただそれが大変なのは、男女問わずで、そうなると問題なのは、男女やらより、そもそもの労働環境だ。
 
また、育児で仕事を辞める人は実際にいるが、100%ではない。
実際、我が家には1歳にならないこどもがいるが、働いている。こどもは4ヶ月で保育園に入り、わたしは5ヶ月で復帰した。これは、一般的に見るとかなり早いほうらしい、というのは産んでから知った。
それくらい、医者周りをみていると、もちろん遅くはないけれど、特別早い復帰でもないように思う。
3つあげた中では、しいていうならこの出産育児問題は、ちょっとなんとも言えないところもある。別に医者だけに限った話ではないけれど。
ただまぁそれで入試の女子を減らしているのはちょっとな、と思う。
 
つまり、やはり、不正入試問題は許されることではない。と思うのだ。
 
ただ、それでもなお、わたしは「不正入試問題は仕方がない」という意見を捨てきれない。
 
正確に言えば、「医者をする上で男性のほうが得だよな、と思うことがいくつかある」ので、「男性医師が多い方が現場はうまく回りそう」で、結果的に「不正入試問題は仕方ない」と思う。
極論だと思う。分かっている。
でも、少しだけ、その、医者をする上で男性のほうが得だよな、と思うこと、ふたつあるので、述べてみる。
 
まずひとつ。
これはかなしいかな、人間の性なのかなんなのか、男性、そして貫禄ある方が信頼度を得やすいように思う。その気持ちはわかる(そして自分の中にもなんだか男尊女卑があることに気付いて、愕然とするしいやんなる)。
信頼度が見た目で得られにくいというのは、損に思う。少しでも年上に見られるために、髭をはやしたり眼鏡をかけたりしているという男性医師もいる。
そうなるとわたしは、女性で童顔で声も高め、そもそも年齢相応には見られにくいというのはとても損だ。声が高めなことは自覚しているので、外来では少し低めに話そうと努力している。
あと単純に男の人がいる、というのはある種、抑止力になる。駅で抵抗しなさそうな女性のみを狙ってぶつかるというひとがいるという話もあるが、医者という特殊な立場上、あきらかにそういう風に女性を狙って、という人はいない、ように思う。ただ、病院という場所柄やはり様々な人がいることもあり、抑止力が必要になることはある。
 
いろいろ書いたが、「女性がいい」と言ってくれる人もいるし、男性のほうが得だな、と確かに思うことはあるが、これが原因で大学入試の人数制限にまでなれば、それは怒りはごもっとも、という感じではある。
 
もうひとつ。それは放射線の問題。
これが解消されない限りやっぱり男性の方が医者には向いていると思うのだ。
 
放射線なんてなんだかおどろおどろしいように思うかもしれないが、病院では必要不可欠だ。
病院の放射線というと、レントゲンは一番とっつきやすくイメージしやすいだろうか。健診で胸のレントゲンを撮るだろう。骨折したときもレントゲンを撮る。このときの写真を一緒にみて診察室で話を聞くことがあるだろう。
 
実は他にも結構使われている。
胃カメラ、大腸カメラなどお腹のカメラ、心臓のカテーテル検査、肺の検査など、つまり、体の中に管をいれる検査のとき、に管がきちんと正しい位置に入っているかを確認するためにレントゲンを使う。これは写真ではなく、リアルタイムで確認するのに使うので、動画のように撮影することもある。つまり写真が写っている間、放射線はわずかながら出っぱなしである。
このとき、放射線があたるので、患者さんも被爆はするが、一回では問題になるほどではない。ただ我々医療者側は、それを一日に何件も実施し、週に何回……と数えていくと、一年のことを考えるとまぁまぁの被曝量になる。
そのために実施するときは鉛で出来た防護服を着る。防護服と言っても全身覆うようなものではなく、エプロンのようなものだ。(2kgくらいあるので、検査がたてこんでいると、例えば午後中ずっと着ていることになり、検査中は立っていることがほとんどなので結構つらい。汗だくになる)
まぁその鉛エプロン、それをつけていると放射線は透過できず安心ですよ、というものなので、男女問わずそれを着て検査にあたる。
でも唯一出来ない人がいる。それが、妊婦だ。赤ちゃんに影響がある可能性があるからだ。
 
女性が妊娠した際、いつ妊娠を上司に報告するかは多分いろいろあると思う。
その中でも、医療従事者、とくにこういうレントゲンに携わる種類の人たちは、おそらくかなり早いと思う。分かった瞬間に報告するのではないだろうか。例えば妊活中だったりすると、レントゲン業務からは離れたいと思う気持ちも出てくるかもしれない。
 
少しわたし自身の話をしてみようと思う。
入試不正問題が発覚する数年前、わたしは初期研修医だった。
医学部は卒業後、2年間、初期研修医というものがあり、その間にいろいろな科を1ヶ月、2ヶ月単位で回って、2年目の終わり頃に進む科を決定し、3年目からは決めた科の医者になる。
研修医のとき、わたしは鉛エプロンを着てする検査にほんとうに魅力を感じ、その科の医者になろうとほぼ決めかけた。
ただ、科を決めるまっただ中だったそのとき、わたしは同じくらい、恋人との結婚話がちゃくちゃくと進んでいた。そしてわたしは、結婚するならこどもがほしい、むしろ、こどもがほしいから結婚したい、とさえ思っていた。
 
こどもがほしい、と思ったとき、どうしても放射線はじゃまものになってしまう。もちろん、鉛エプロンをつけなくても、どの科の医者にだってなることはできる。科によって偏りはあるものの、どこの科にも、女性はいるし、母親もいる。
でも、ようやくその科の医者としてスタートをきり、大手を振って鉛エプロンの仕事ができるようになるのに、近くその仕事が出来なくなるときが来る……。
できてもいないこどものことを考えるのなんて馬鹿げているし、鉛エプロン着ないでも良いやん、とも、もちろん思ったが、鉛エプロンへの憧れがあまりに強すぎて、いつか、まだ見ないそのこどもの例えば反抗期とか何かしら関係がうまくいかず迷う時やら、他に同世代のだれかをうらやんだりするときは、きっとこの先あって、そのとき、このこがいなかったらわたしは……とちょっとでも思うようなことがあるのではないかとおそろしくなった。
同期の男性が「何科にしようかな~」ともちろん彼は彼なりに一生懸命かんがえていただろうけれど、なんだかのんきにしているように見えて、とてもうらやましく思った。医師免許までとって、ここまできて男女差に悩むなんて……。。
 
結局、わたしはその科を選べなくて、鉛エプロンを着ることのない科の医者になった。
 
最初にも書いたがわたしはいまこどもがいる。
こどもは結婚してすぐにでも作るつもりだったが、うまくいかず、数年してようやく出来た。
何度か流産も繰り返してのほんとうにようやくのこどもだった。
 
もし、あの科を選んでいたら……、と思う。
まったく今回と同じように数回の流産の後出産となっていたとしても、わたしはわたしを責めただろう。着ていなくても思ったのだ。鉛エプロンを着ていればなおのこと思うだろう。わたしはわたしを責めてほんとうにつらい時期だった。夫ももちろんつらかったろうし、家に元気がなかった。
しかも、鉛エプロンを着ていると上司にすぐに報告しないといけないので、周囲にも明らかになってしまう。出産しておらず鉛エプロン復活となれば、あれと思われるだろうし、デリケートな話題なので直接触れられないにしても、同僚にも気まずい思いをさせるだろう。それもまたたいへんそうだ。
 
科を決めるときの自分の選択は自分で決めたことなので、もちろん後悔はないし充実感は得ているが、出産を経て、やはり鉛エプロンは女性には厳しい、と思う。
 
女性がみな結婚し、出産するべきだとか、そうした方が良いと思っているわけではもちろんない。ただ、女性である以上、妊娠出産する可能性はゼロではないのだ。
そうなったとき、やはり、鉛エプロンがあると女性が入りにくいのはあるように思う。
実際、わたしはそれによってその科を選びきれなかった。
 
わたしの選択はわたしの選択でしかないので、全医者の意見ではない。
もちろんこれで、だから、「医学部不正入試問題がおきても仕方ないですよ、ね」なんて言うつもりは毛頭ない。
あれ自体は良くない、差別も良くない。
でもじゃぁどうしたらいいんだろうね、と思う。男性●人、女性●人、と募集要項に明記するのはひとつの案と思うけれどそれもまたね……。
 
あの問題に対し、ひとりの医者ができることなんてない。わたしがここで声をあげてなにか変わるとは思いにくいし、声をあげるほどの答えも持ち合わせていない。
でも、一意見として受け取ってもらえるといいな、と思う。
 
科を決めるときの自分の選択は自分で決めたことなので、もちろん後悔はないし充実感は得ている。
でも、もし、わたしが男性だったら、あのときわたしはどんなことを思って何科の医者になったかな、と思う。
 
 
 
 
***
 
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2021-09-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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