メディアグランプリ

介護人は舞台袖のスタッフ


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記事:(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
人は誰でも歳を重ね、老いていく。そして、体力が低下し、少しづつできないことが増えてくる。長い人生の最終ステージと言える老年期。体力が低下するだけでなく、身体のあちこちに不調をきたし、病気を発症することもある。そして、一人で生活するのが不自由になり、誰かに頼らなくてはいけなくなる。家族であったり、介護など公的なサービスによる、生活の支えが必要になるのだ。
私はケアマネージャーとして、日々介護が必要な高齢者の支援をしている。
高齢者と言っても、身体の状況や生活環境は様々で、支援の方法も違っている。
ただ、共通しているのは、皆人生の終わりを目前として、その日が来るまで毎日の生活を変わらず繰り返している。それを支えるのが私たち介護人である。
 
ある認知症の高齢者は、夫は亡くなり子ども達も独立して、長年一人暮らしをしている。しかし、毎日スーパーに行き4人分の買い物をする。おかげで冷蔵庫は賞味期限切れの食材で溢れた。支援している介護ヘルパーは、訪問するたびにそれらを廃棄する。「一人ではこんなに食べらへんで」と説明すると一時的に納得するが、次の日もまた買い物に行く。
「もったいなくて、やるせない」ヘルパーからそんな声を聞き、買い物をやめさせるにはどうしたら良いか、私は様々な視点で考えることにした。
買い物はすぐ近所のスーパーに行き、買う物は大体決まっているが、お金の計算はほとんどできない。毎回店員に財布ごと渡し、必要な金額を出してもらう。一人で歩行器を押して出かけており、途中で転んだり交通事故に巻き込まれる可能性もあり危険な状態でもある。
私は何度か一緒に買い物に行き、様子を見ていた。毎日決まった時間、同じ道を通り、スーパーの店員とは顔見知り。買い物がこの高齢者の生活のルーティンで「生活の一部」だと認識した。
「子ども達がいた頃は皆よく食べてご飯が足りなくなっと」と本人から聞いた。家族のために買い物に行くことが「生きがい」であったのかもしれない。
「このまま様子を見よう」
認知症は、緩やかではあるが確実に進行する。少しづつできないことが増えてくる。この高齢者も、やがて一人で外出するのが難しくなるだろう。しかし今はまだ、買い物に行くという「生活の一部」「生きがい」を取り上げられない。タイミングを見計らい、いずれ買い物はヘルパーに任せることにしよう。それまでは、一緒に賞味期限切れの未開封の食材を廃棄しよう。スーパーのスタッフにも協力してもらおう。できれば、近隣の住民に頼んで、道で会った際は声をかけてもらおう。それが、この高齢者への支援だと結論づけた。
 
脳梗塞の後遺症で左半身が麻痺してしまった高齢者は、生活のほとんど全てを、家族に支援されていた。介護ヘルパーや訪問看護師の支援も受けていたが、夜間の排泄の世話などは全て妻が行っていた。
妻も高齢で限界であると感じた私は、施設への入所を提案した。しかし、妻は頑なに自宅での介護に拘った。「二人でやっとこさ、一人前みたいなもんやし」と妻が恥ずかしそうに話してくれた。その言葉に、私は60年以上積み重ねたの夫婦の歴史を感じ、胸が熱くなった。夫婦の歴史はまだ続いていて、それを邪魔することはできない。
「何かあれば必ず連絡してください」妻には、一人で抱え込まず、もっと周囲の人に頼っていいと伝えた。夜間、妻の代わりに支援するヘルパーを増やし、何かあればすぐに駆けつけられるよう連絡体制を整えた。
住みなれた自宅で、残り少なくなった夫婦の時間を大切に過ごせるよう、二人に寄り添い見守ることに決めたのだ。
 
介護人にできることは限られている。特に、病院や施設でなく、自宅で過ごす高齢者を支えるのは難しい。ずっと暮らしてきた家で、できれば何も変えずこのまま生活したいと願う高齢者が多い。それぞれの積み重ねてきた生活は千差万別。体が不自由になっても、価値観や人生観は変わらない。介護を必要とした時、それをどう受け止めるかもその人次第である。介護人は、あくまでその人の意向に従い、その人が思う以上のことはできないのである。
 
老年期は、人生の最終ステージであり、最もその人らしい生き方を表現する場面だと思う。
家族のためにずっと働いて来た人生、お金の苦労が絶えなかった人生、孤独だった人生……
それぞれの人生のクライマックス、大どんでん返しはないが、総決算と言える時期ではないだろうか。それは、積み重ねた生活歴であり、同じ毎日の繰り返しなのである。
介護人は、まるで舞台袖のスタッフのように、それをすぐそばで見守り、手を差し伸べる。
私は、最期の幕が降りるまで、その人の「生活」と「生きがい」を人生という舞台の上で輝かせたいと思う。そのため、ケアマネージャーとして、これからも微力ながら、介護を必要とする高齢者の人生に寄り添い見守り、支援していこうと思っている。
 
 
 
 
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2021-09-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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