メディアグランプリ

6年間のバスケ生活で一番学んだのは、バスケのスキルではなく”リーダーの在り方”だった。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:hiraco(ライティング・ライブ大阪会場)
 
 
中学・高校と6年間、バスケットボールをしていた。
 
振り返れば、その6年間で一番学んだのはシュート力でも、ディフェンス力でもなく、リーダー力だった。
 
私が中学に入学したと同時に、新設されたバスケ部は、一年生しか入部出来ず、先輩がいないにも関わらず、部員は30人を超えていた。
 
バスケの試合に出られるのは5人で、当時ユニフォームをもらえるのは15人だった。
 
半数以上は試合に出る権利さえ与えられないという過酷なレースが始まった。
 
顧問は、国語担当の27歳の女性の先生だった。
 
各自が自分のバスケノートを作り、練習試合や大会があると、そのノートに反省点や、これから取り組むことを書いて先生に提出した。
 
先生は毎回、一人一人のノートを読み、達筆な赤ペンで鋭いコメントを返していた。
 
平日は国語の授業に加え、自分のクラスの担任の仕事もある中で、部活の顧問をしていたら、休む時間などあるはずがない。
 
そんな忙しい状態なので、寝癖の一つでもついていればこちらも気がゆるむのだが、いつも完璧に、ワンレンボブヘアーは維持されている。
 
その完璧さは、ヘアスタイルの維持だけに留まらず、部員一人一人に、人としての在り方まで叩き込んでくれた。
 
副キャプテンになった私は、自分のことだけではなく、チームのことを考えて動くよう厳しく指導を受けた。
 
例えば、遠征に行く時など大人数で移動する際、駅のホームでは扉の前には6人までしか並ばないようチェックするよう指示された。
 
初めて指示された時は「?」が浮かんだ。
常に人の迷惑にならないよう心を配れとのことだった。
 
おしゃべりに夢中になっている7人目を、横のブロックに移動するよう促しながら、「何で私がここまでしなきゃいけないんだ?  テトリスかよ」と思っていた。
 
怪我をして試合に出られなくなった時は「常に今の自分が出来ることを考えて行動しなさい!」と強く注意された。
 
怪我してるのに何をすればいいんだ?
 
要するに、試合に出ていた時に、出ていなかったメンバーに任せていた雑用を率先して行えということだった。
 
先生は、チームをまとめる立場にある者は、常に細部にまで目配り・気配り・心配りを怠らず、信頼される人間になるようにと思いを込めて、私を育ててくれていたのだろう。
 
また、同じようにベンチに座ることすら出来ない選手も、決して雑に扱わず、一人一人と向き合っていた。
 
そんな先生がバスケをしたことがない素人を集め、一から作り上げたチームは、地区大会で優勝するまでのチームに成長して行った。
 
もうすぐ、あの時の先生と同じ27歳を迎える今、寝癖を付けて出勤している自分を見て、「まだまだだなぁ」と途方に暮れる。
 
きっと、一生、私の”憧れ”なんだと思う。
 
 
素晴らしい先生に、たくさんのことを教わったのだから、まだ続けてみようと高校でもバスケ部に入った。
 
公立高校でありながら、大阪ベスト4を目指しているチームだった。
 
顧問は保健体育担当の50代男性の先生だった。
近畿地方ではバスケで割と有名らしい。
 
私たちの代は、地区の選抜メンバーに選ばれた経験がある、バスケが上手い選手と、無名の選手が半々くらいだった。
 
「今年の代は近畿大会出場も夢じゃない!」と、期待されていた。
 
優秀な選手が集まった代と言われていたが、人間性も優秀かと言うと、そうではなかった……。
 
「雑用?  そんなん試合に出へんヤツだけがやるべきやろ」
 
「話し合い?  それして何の意味があるん」
 
中学時代には聞いたことがない言葉が飛び交った。
同じチームなのに敵同士のような空気感に、日に日に体育館に行く足取りが重くなっていった。
 
雨の日なんか、落雷で体育館が割れてくれないかな?  と雨天中止にならない競技を、どうしても中止させる方法を考えたほどだ。
 
そんなある日、将来有望な選手が怪我をして、医者に引退を勧められ、泣く泣くマネージャーに転向するという出来事が起こった。
 
しかし、顧問はその選手に何とか選手に戻るよう説得した。
勝つために、どうしても選手のままで居て欲しかったのだろう。
 
逆に、試合に出ても得点に繋がらない選手が怪我をしたら、すぐに引退を勧めた。
 
試合に勝つための戦力になる選手には、菓子折りを持ってお見舞いに行き、戦力にならない選手はお見舞いにすら行かない。
 
清々しいほどの差別。
おそらく、この顧問は目の前の選手ではなく、自分の実績が上がることを最優先に考えていたのだろう。
 
「もしかして、これが社会?」
 
当時16歳だった私は、この時、初めて社会の醜い部分を目の当たりにした。
 
能力が低ければ淘汰され、自分が望む居場所に居られなくなる。
なんて残酷なんだ……。
 
そんな顧問が、勝利を追求したその先に待っていた結末は、悲惨なものだった。
 
最後までチームはまとまらず、近畿大会出場は疎か、ベスト16で敗退した。
 
私たちが引退した後、入部希望者数が激減し、一時期は、試合形式の練習する時は、顧問が入らないと成り立たないほど人数が減ったそうだ。
 
この両極端の顧問に教わって、分かったことがある。
 
無名で、経験が浅い女性顧問が、一人一人を大切にし、自分の役割を果たすよう指導した結果、勝利を掴んだ。
 
反対に、有名で経験豊富なベテランの男性顧問が、自分の実績欲しさに勝利への最短ルートを追い求めた結果、敗北した。
 
つまり、大切なのは、自分を優先することではなく、一人一人が自分の役割を理解し、懸命に果たそうと思えているチーム作りが出来ているかどうかだ。
 
チームである以上、いくら個人プレーが上手くても、勝ち進むことは出来ない。
 
スポーツだけではなく、会社も同じだと思う。
いくら仕事が出来ても、周りの士気を下げる発言や行動が目立つと、チームの足枷となってしまう。
 
この経験から、私は職場の後輩を指導する時は、中学時代の顧問の教え方を参考にするよう心掛けている。
 
そのお陰か、他部署では新人が辞めていく中、私の部署では未だ退職者は出ていない。
 
両極端の顧問に出会えたお陰で、人生で大切な「リーダーの在り方」を教わった。
 
どちらが欠けても、今の私はない。
どちらの顧問にも、心から感謝している。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2021-10-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事