メディアグランプリ

右腕のほくろ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:久保那月(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私の右腕。手首から約五センチ下。
そこには直径二ミリにも満たない小さなほくろがある。
形は楕円形。触ってみると、余りハッキリとした凹凸はない。
このほくろ、気が付けばずっと私の右腕にいる。
かなり見えやすい位置にあるので、右腕が視界に入りさえすれば、必然的にほくろの焦げ茶色も見えるのだ。
このほくろ、物心がついた頃からずっとあった。
他人から見たら何でもないものだろう。例えたら、道端に落ちている石ころのようなものだ。そんな風に自分のほくろなんて、気にもしていない人が大半かもしれない。
しかし私にとって、右腕にあるこのほくろはただのほくろではない。
道端に落ちている石ころは石ころでも、幼い時に綺麗な柄をした石ころは思わず拾ってしまったことは誰しも経験があるだろう。
そう、右腕にあるこのほくろはいわば、子供心をくすぐる綺麗な石ころのように、目に付いたらハッとする存在なのだ。
しかし何故ただのほくろがこんなにも私の目に付くのか、具体的な説明は出来ないが、これから話していこう。
私は今まで苦しい思いを人並みに味わうことがあった。
そんな時に救いになるものはたくさんある。
家族、親戚。友人、読書、運動……。
このように、気分転換の方法は沢山あるのだ。
さて、この話とほくろに一体何の関係があるのかということになる。
ほくろを眺めていても、辛い気持ちを打ち明けた時の友人のように、何か慰めの言葉を掛けてはくれない。運動した時のように爽やかな気持ちになったりもしない。
しかし、ふとほくろの存在に気付いた時にほんの少しだけ、安心感を何故だか覚えるのだ。
はて、この安心感を私は一体どうして感じるのだろうか?
私はその理由が三つ、思い浮かんだ。
一つ。ほくろが何も話さないから。
私は何か辛い気持ちになった時は大抵、家族や友人に悩みを打ち明ける。
その時の家族や友人は真摯に私の悩みを受け止め、慰めてくれる。
つまり、私の周りの人達は殆ど、私にとって信頼出来る人ばかりなのだ。
しかし同時にこんな事が起こる。
期待してしまうのだ。
「私の信頼する人なのだから、こう言って欲しい」
「こんなことは言って欲しくない」
こんな心理が無意識に働く。
そして言って欲しい事を相手が言ってくれなかったり、言わないで欲しい事を相手が言ったりすると、相手に対して失望に近い感情を抱いてしまうことがある。
対して、ほくろは何も話さない。
言葉を発さないのでアドバイスもしてくれないし、慰めもしてくれない。
なので私はほくろに何も期待はしない。
けれど、私を失望させることもないので、「このほくろは私を失望させたりしない」と安心感を感じるのかもしれない。
二つ。大きさや位置が丁度いい。
人によってほくろの大きさや位置は様々だ。
大きさが小さくてかつ、目視出来ないような位置にほくろがあると、存在に気付くことすら出来ないかもしれない。
反対に大きさが余りにも大きすぎて、他人からもよく見えるような位置にほくろがあると、もしかしたらコンプレックスを覚えるかもしれない。
さて、私の右腕のほくろの位置、そしてどんな形をしているのかというと、手首から約五センチ下。直径二ミリにも満たない小さなほくろで、形は楕円形。触ってみると、余りハッキリとした凹凸はない。
何が言いたいのかというと、私からしたらこのほくろは「丁度いい」のだ。
腕を不自然に曲げなくても自然と視界に入る位置にある。だからといって目立ち過ぎず、他人から見たらあまりよく見えない。
大きさも、ぎりぎり存在に気が付く程度の程よい大きさだと思っている。
コンプレックスになるようなものでもなく、かといって存在に気付けないほどのものでもない。
まさに「丁度いい」を体現してくれているヤツなのだ。
三つ、私が歳を重ねてもほくろは変わらない。
私が歳を重ねることは即ち、時間が進むということ。
時間が進めば、周りのものも変わっていく。
つまり、人だったら歳を重ねるごとに考え方などが変わっていく。物だったら劣化して色あせていく。
もしかしたら今は友人でも歳を重ねるごとに考え方が変わっていって、価値観が合わなくなってしまうかもしれない。
どんなにお気に入りのものでも、時間が進むごとに劣化していくのは切ないものがある。
対して私のほくろ。
物を考えて話す事などそもそもしないし、ほくろが劣化して色あせるというのは余り想像出来ない。
そう、どんなに私と周りが変わっても、このほくろは変わらないという確信じみたものがあるのだ。
そう、人類にとっての大地のように、私にとってほくろというのは揺らがない絶対的なものなのである。
さて、私の右腕に存在するほくろがどうして私の目に付いてしまうのかを説明してきた。
貴方も自分の体に、好きだと思えるような所はないだろうか。
自分の体はコンプレックスだらけだ、と毎日嘆いている人もいるかもしれない。
しかし自分の体を改めてよく観察してみたら、キラリと輝く石ころが転がっているのを、貴方は見つけることが出来るかもしれない。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2021-10-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事